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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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304号室を探せ

17/01/05 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:815

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ハチの巣が堆く層をなして延々とどこまでも地表を覆いつくしているところを思い浮かべるのが、この部屋ばかりでできた世界をイメージするのにいちばんてっとりばやいのではないだろうか。そんな部屋と部屋の間を縦横無尽に貫く通路をムイ・Uが歩いていたとき、中央管理室から連絡が入った。
「304号室に向え」
「了解」
ムイ・Uは直ちに、304号室を目指した。
こんどは、どんなトラブルだろう。ムイ・Uの仕事は、中央管理室からの指令を受けると異変をおこしたそれらの部屋におもむき、長年培った技術と経験をフルにいかして、部屋を従来のすみやすい空間に復元することだった。
ムイ・Uは階段をかけあがりながら、過去に生じたいろいろなトラブルを思い描いてみた。
壁がひび割れたとか、床から水がにじみだしたとかといった単純な場合もあれば、窓がひとりでに閉じたり閉まったりしたり、朝、住人が目をさましたら、天井の高さが頭のさきぐらいにまで縮小していたりしていたこともあった。極めつきはなんといっても、部屋同士が次々融合しあって途方もなく巨大化したときだろうか。あのときはまるで、すべての部屋が一体化するのではと思えたほどだが、ある段階まで拡大してからふたたび細かく分割していき、もとのそれぞれの個室にもどったのをみて、住民たちは心から安堵したものだった。
指示された場所までやってきたムイ・Uは、いぶかしそうにあたりをみまわした。
その部屋はどこにもなかった。303号室と305号室が隣りあわせにならんでいて、肝心の304号室はみあたらなかった。こちらから中央管理室に連絡することは禁じられていた。問題がおこったら、自分で処理しなければならない。ムイ・Uは隣室のドアをノックした。
開いたドアから、きちんとした身なりの男性が顔をだした。
「すみません。304号室は、どうなったのでしょうか」
「でかけたようですよ」
「部屋の住人が、ですか」
「いや、部屋そのものがだ。304号はながいあいだ空き室になっていた。部屋がなくなると同時に303と305がぴったりとくっつきあってしまったんだ」
「ちかごろ、304号室になにか変わったところはみかけなかったですか」
「うーん。そういえば、若いのや年老いた男女がよくこの部屋を邪な目的で利用していたな。きっと人間のそんな欲情にまみれた痴態をまのあたりにして、嫌気がさしたんじゃないのかな」
「え、じゃあ、世をはかなんで………」
住人は顔を曇らせた。
「その可能性もないとはいえない。あんた、はやいとこみつけだしてやりなさい」
「わかりました」
ムイ・Uは丁寧に頭を下げると、足をかえしてあるきはじめた。中央管理室が自分を呼んだ理由がこれでわかった。行方をくらました304号室の探索が目的だったのだ。
ながいあいだ部屋の復元係をこなしてきたムイ・Uも、部屋がひとりで移動している姿はこれまで一度も目にしたことがなかった。尺取虫よろしく、胴体をくねらせながら歩いているところをイメージした彼だったが、しかしそれだと、あまりにひと目について、すぐにわかってしまい、中央管理室に報告されてもとの位置につれもどされるのがオチだった。
―――すると、擬態か。ムイ・Uは確信ありげにうなずいた。これだけ部屋があるのだから、どんな特殊能力をもっている部屋があったとしても不思議ではない。しかも304号室は強欲にみちた人間へのはげしい嫌悪感にかりたてられて、飛躍的な能力を開発したとも考えられる。では、部屋が擬態するとしたら、いったい何に? ムイ・Uはその答えもすでにみいだしていた。
ムイ・Uはこれまで数多くの部屋の復元をてがけてきた手前、部屋を見る目はもっているつもりだった。304号室が人間に擬態したら、どんな姿になるのか。各階、各室を探索してきた彼が、最後に行きついたのが、いま通路の前方をゆく一人の女だった。
「もし」
彼は足を速めながら、声をかけた。
「なんでしょうか」
「あなたは、304号室さんですね」
女は足をとめた。
「まさか見破られるとはおもってもいませんでしたわ」
彼女はそして、誰か自分の正体をみぬいた最初の人間に、すべてをうちあける気持でいたのだともいった。
「もとの場所に、おもどりください」
「でも、あそこにもどると、また、だれがあしき理由で利用するかわからないとおもうと―――」
「その心配は無用です。きょうからは私があの部屋にすみます。中央管理室にはそのむね、報告し、了承をえています」
「まあ、そうでしたの。一目みたとき、私の運命を変える人だと直観したのは、まちがいじゃなかったのだわ」
彼女の表情が目にみえて明るくなったと思うと、嬉しそうにつきだした胸のドアが、大きく開いた。
ムイ・Uは、自分の眼前で開放された304号室の中に、おもむろに足をふみいれていった。



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