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KOUICHI YOSHIOKAさん

性別 男性
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右手の優しさと左手の気持ち

17/01/04 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:668

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 左手は右手が嫌いだった。いつだって主役は右手、左手は活躍する右手を補助してばかりでけして主役にはなれない。
 食事の時、右手が箸を握ってご飯を口に運ぶので、その手伝いをするため左手は茶碗を握ったり皿を押えたりしなければならない。 手紙を書くとき、右手がペンを握る。ソフトボールをするとき、右手でボールを投げ左手は投げられたボールを受けるだけ。物を拾うときもたいていは右手が先に使われる。口紅をぬるときも右手だし、トイレのときでも右手でお尻を拭く。
 ありとあらゆる行動で最初に使われるのが右手だった。ごくたまに左手よりも右手が活躍する左利きという人間もみかけたが、左手の本体の彼女は右利きだったので、二十年間左手は有用される右手が妬ましくてならなかった。
 よく左手は嫌みのように言ったものだ。
「右手さんはいつも忙しそうね。頑張ってくれるおかげで私は楽ができていいけどね」
 すると右手は決まって不思議そうに指をそらすのだ。
「左手さんのおかげで頑張れるんだよ」
 ためらいもなく答える右手に、ますます左手のイライラは増した。
 ある日、右手が怪我をした。前日に降った雨でできた水たまりで足を滑らせ、体をかばうために地についたとき、親指にヒビがはいってしまったのだ。
 かわいそうと思いながらも、これで活躍できると左手は内心喜んだ。
 ところが生まれてこのかた左手は箸を握ったこともなければ、ペンを持って字を書いたこともなかった。これまで右手がしてきたあらゆることが苦手だった。右手が簡単にこなすようなことすら左手は手間取った。
 右手はしきりに謝ってきたが、謝られれば謝られるほど左手は惨めになった。
「どうせ私は右手さんみたいに器用じゃないわよ」
 八つ当たりだとわかっていても左手は素直に右手を労れなかった。
 右手が怪我をした時期、本体の彼女に恋人ができた。初めての彼氏だった。右手が怪我をしているので手をつないで歩くときは自然と左手が使われた。彼氏の右手は大きくて、握られていると気持ちが落ち着いた。
「彼女の右手さんの怪我、早く治るといいね」と、彼氏の右手に言われるたびに左手は嫉妬で狂いそうだった。
 ずっと治らなければいいのに。治ってしまって、活躍する右手をみたら、左手の私より右手のことが好きになってしまうかも。
 実際は治ってみなければわからない。しかし右手が怪我をしている間は左手が必要とされているし右手よりも役にたっている。
 本体の彼女と彼氏が仲良くなるほどに、左手も彼氏の右手と仲良くなっていった。
「実は本体の彼は左利きなんだよ」
 彼女の右手が治りかけたころ、唐突に彼氏の右手が言った。
「知ってた。だって一緒にお食事をするときに彼氏の左手さんが箸を握っているんだもん」
「だから彼女の右手さんが治ったら、僕らはもう手を繋げられなくなると思うんだ。だって利き手同士で手を繋ぐ方が自然だろうし」
 ああ、と左手は唸った。そうかもしれない。そうに違いない。また右手さんばかりが使われるんだ。
 左手は悲しくて憎くて苦しかった。左手は本体の彼女が一人のときに、ついに右手にあたってしまった。
「あんたなんて治らなきゃいいのよ。このままずっと怪我したままでいればいいのよ」
「ごめんなさい。左手さんを傷つけてしまって」
 右手はけして反論してこない。叩かれれば叩かれたままでいる。そんな右手の優しさが左手は嫌いだった。
「あんたは優しいんじゃなくて、優越感に浸っているだけよ」
 右手はなにを言われようと「ごめんなさい」と、謝るばかりだった。
 怪我もすっかり治ったあと、本体同士の仲はさらに良くなっていた。思っていた通り、怪我が治ってからは彼の右手と彼女の左手は手をつなげなくなった。利き手同士の手が握り合ってばかりいる。
 彼の右手恋しさが限界に達したとき、左手に思わぬ出来事が待っていた。
 彼氏の右手が握ったダイヤの指輪が彼女の左手の薬指にはめられたのだ。
「婚約指輪だよ。僕らは結婚するんだ。左手の薬指の指輪は愛の証だよ。左手さんだけが受けられる特別な指輪だよ」
 彼の右手は嬉しそうに言った。彼の左手も微笑みながら頷いていた。
「素敵な指輪。私は右手だから婚約指輪ははめられないわ。左手さんが羨ましい」
 気持ちを隠すことのない右手の言葉が突き刺さってくる。
「ありがとう。右手さん」左手は無意識に言っていた。なぜ礼を言ったのかわからなかった。「ごめんなさい。右手さん」なぜ謝ったのかわからなかった。
 左手は初めて右手に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。これからは右手に優しくしようと素直に思った。
 彼氏の右手の上で、左手の薬指にはめられた指輪が輝いていた。右手にもこの指輪をはねてあげたい、そんなことを思う自分が左手は可笑しかった。


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