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三〇四号室から

17/01/02 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 nekoko 閲覧数:470

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 三〇四号室には僕がいる。僕は天才だ。だから三〇四号室がどうなるか、僕だけが知っている。

 どこにでもある平凡な集合住宅に僕は住んでいる。三〇四号室。僕は生まれた時から少し古いこの住宅に住んでいるし、それは僕の生涯で変わることがない。
 僕は自分のことを天才と思っていたから、学校なんてつまらない所にはいかず、押入れの中で機械と向き合っていた。パソコン。それに向かって一日中文字を打っていた。「小説なんて書いていないで学校に行って頂戴」なんてお母さんは言うけれど、小説なんてとんでもない。僕はね、未来を書いているんだ。そう、僕は未来を見ることができる。

 今日の予言は日本に雨が降るところだ。
「凄いんだよ、もう何百日も雨が降ってね、日本の土地のいくつかは海になってしまうんだ」
「何それ、小説か何かじゃないの。そんな聞き飽きた話をしていないで学校へ行きなさい」
 母さんは今にも倒れそうに顔が青い。倒れる。そうだ、この大雨のせいで、きっと大勢の人が倒れることだろう。気の毒な話だけれど、僕にはどうすることもできない。なぜなら、僕は未来の人間で、天才とはいえまだ子供なんだから。
「そんなことばかり、お母さん、もう死んでしまいたいわ」

 大雨の後、生き残った人達の間で戦争が起こる。戦争は百年も二百年も続く。そしてこの戦争の結果、王様とお妃様になった人達が世界を新しく作ろうとするんだ。
「想像力を働かせることは素晴らしい。けれど、勉強をしなければ成功することはできないんだ」
 お父さんは何をいうんだろう。僕は成功することなんか望んでいないのに。きっと、もうすぐだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは学校行かないの。ミヨも学校行きたくないなあ」
 妹よ、悲しい事実だけれど、君は生涯、学校に行くだろう。

 そう、ことが起きるのは妹が学校に行っている昼間だった。僕にはどうすることもできない。妹に「今日は学校に行かないで」といったけれど両親の出世マニュアル的話を聞いた妹は、すっかりその気になって「お兄ちゃんよりもずっと偉い人になるから学校に行くわ」と、玄関のドアを閉めて行ってしまったから。そう、三〇四号室にいるのは、僕と、たまたま休みのお父さんと、専業主婦のお母さんだけになった。
 大雨が降った。どの家も疲れ果てたようになくなってしまった。僕達の集合住宅は残った。なぜって、僕が細工をしておいたからね。でもこれはたまたま僕が未来を見ていたからなんだ。防水装備をできたのも、僕が内側から細工をできる三〇四号室だけだ。建物だけは残っているけれど、他の部屋はもぬけの殻だろう。

 両親は泣き崩れた。でも、僕は微笑んでいた。もうすぐ僕も妹のいる天国に召されるからだ。三〇四号室の冷蔵庫は空っぽで、食料は尽きていた。両親は空腹など感じないみたいに元気に涙を流し続けた。自分達の体質にやっと気づいたらしい。僕は、もうダメだ。未来を見ることはないけれど、僕は知っている。数百年、両親は年を取らないまま生き延びて、やがてこの国を新しく作る、王様とお妃様になるんだ。
 僕は、枯れ木のようになっている僕の手を取った両親にこう言った。
「今度作る世界は、きっときっと学校なんて行かなくても豊かに暮らせるようにしてね」
 その先の未来を僕は知らない。もう、未来を見る時間はなかった。


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