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夏川さん

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資産家と後妻さん

16/12/30 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:2件 夏川 閲覧数:1594

時空モノガタリからの選評

悠々自適の富裕な老人たちのゆるりとした会話の中から、徐々に明らかになる「50歳も年下の嫁」の実態。まさに王道サスペンス的な内容ですが、人生の苦い側面を、終始コミカルでフワリとした空気の中で描いていているのが異色で、とても印象的でした。単にほのぼのしただけの内容でもなく、ただのサスペンスでもなく、ピリっと風刺の効いた上質のコント劇を見ているかのような印象も受けます。読者にだけ真実を見通す情報を少しずつ見せていくやり方もうまいですね。金持ちを描く時にありがちな、パターン化されたキャラクターではないのもいいと思います。随所に散りばめられたユーモアにも引き込まれました。 ラストはまさかの展開で、「お嫁さん」もさぞかし歯ぎしりすることにすることになるのでしょうね。最後まで、老人たちが皆天然で、暖かな陽気を感じさせる会話がなんとも言えないシュールさを醸し出していて、よかったです。

時空モノガタリK

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 木造平屋、畳張りのこじんまりした広間。派手さはないが、木の温もりを感じられる落ち着いた空間だ。
 部屋の中心に置かれた長机の周りには数人の老人たちが集い、おしゃべりに興じている。一見何の変哲もない至って普通の老人たちだが、彼らは全員が一代で財を成した超一流の経営者、そして資産家なのである。現役時代は激しい火花を散らし、自らの会社の利益のため騙しあいを繰り広げていた彼らも今やすっかり優しい目をした好々爺である。
 話す内容も普通の老人とほとんど変わらない。健康の事、家族の事、昨日見たテレビ番組の事。
 しかし最近、平和ながらも退屈なこの寄合所に、少々刺激的な話題が転がり込んできた。寄合所メンバーの一人、金田さんが後妻を娶ったのである。

「金田さんは良いなぁ。50歳も年下の嫁さんなんて、羨ましくて死にそうだよ」
「そんなくだらない事で死ぬんじゃないよ。ほっといても近々死ぬんだから」
「若い時に奥さんが死んで、男手一つで息子さんと会社を育てたんだ。それくらいの褒美が無きゃやってられないよ。なぁ金田さん?」

 ワイワイと騒ぎ立てる老人たちの言葉を聞きながら、金田さんは恥ずかしそうに目を伏せて頭を掻いている。本人から話を引き出すため、老人の一人が金田さんに尋ねた。

「金田さんの奥さんは美人だが気が強そうだ。尻に敷かれちゃいないかい?」
「いやぁ、ああ見えて結構優しいんだ。俺のために毎日手料理を作ってくれてなぁ」

 そう言うと、金田さんはスマートフォンを取り出し、手慣れた様子で画面に写真を映し出す。そこにはステーキや揚げ物、ハンバーグなど老人の食事とは思えない豪華な料理の数々が並んでいる。

「華やかな料理だなぁ」
「うちなんて健康に悪いとかで、嫁さんが病人食みたいなものしか食わせてくれないんだ。若々しくて羨ましいよ」

 金田さんは仲間たちからの賞賛の声に、嬉しそうに顔をほころばせる。

「正月は嫁さんが友達を呼んで餅をついてくれるんだそうだ。今から楽しみだよ」
「へぇ、優しいなぁ」
「ああそうだ、嫁さんがおやつを持たせてくれたんだった。みんなも食べるかい?」

 そう言って金田さんが取り出したのはこんにゃくを加工した固めのゼリーである。やや細長いハート型のカップに入った色とりどりのゼリーを机の上に広げ、金田さんは少々照れくさそうに笑う。

「嫁さんがこれにハマっててな。体にいいとか言って、俺にも勧めてくれるんだ」
「へぇ、低カロリーでダイエットに良さそうだ」
「でも俺はダメだよ、歯があんまり良くなくてね。金田さんは若々しいなぁ、やっぱり若い人と一緒にいると良いのかねぇ」

 仲間たちの言葉に金田さんは頬を染めながら、老人らしからぬ初々しい笑みを浮かべる。

「でも嫁さんも結構うっかりしてるとこがあってなぁ。食後に飲む心臓の薬を嫁さんに出してもらうんだが、時々量が間違ってるんだ。危うく心臓が止まるところだよ」
「ははは、ドジだなぁ」
「若々しくて可愛いじゃないか」
「良い嫁さんを貰ったな」
「ま、正式な嫁さんじゃないんだがな」

 そう言って金田さんが笑い声を上げると、他の老人たちも同じタイミングで目を細めた。

「籍を入れてない事、奥さんには言わないのかい?」
「ああ、アイツは結婚にこだわっていたからなぁ。でもどう考えても俺の方が先に逝くことになるだろ。俺が死んだら、アイツには別の男と一緒になって幸せになってもらいたいんだ。まっさらな戸籍の方が、嫁の貰い手には困らないだろう? 俺が死んだあと息子たちと揉めるのも可哀想だしな」
「お嫁さんも優しければ、金田さんも優しいなぁ」
「本当。みんな優しくて、本当にいい世の中だねぇ」

 木造平屋の寄合所に、老人たちの元気な笑い声が響き渡る。
 彼らの穏やかな第二の人生は、まだまだ始まったばかりだ。


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このストーリーに関するコメント

17/02/04 光石七

拝読しました。
後妻の目的は明らかに……ですね。
しかし、その裏がある優しさを上回る金田さんの純粋な優しさ。素晴らしい結末が待っていそうですね。
とても面白かったです!

17/02/13 夏川

コメントありがとうございます!
後妻さんの優しさも金田さんの年を重ねた優しさには色々な意味で敵いませんでした。
面白いと言っていただけてとても嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました!

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