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Fujikiさん

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将来の夢
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夢に遊ぶ時間

16/12/30 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:0件 Fujiki 閲覧数:883

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「夢の中では意識がすばやく機能しているから時間が遅く感じられる。現実の五分間は夢では一時間くらいになるんだ」
 またか、映画の受け売り。大きな瞳をキラキラ輝かせながら語る慶斗は、完全に現実とフィクションを混同してしまっている。しかも映画から仕入れた知識であることをすっかり忘れて自分のものにしてしまっているから余計に始末が悪い。夢の時間の話が出てくるディカプリオの映画は一緒に観にいったじゃない、と冷徹なツッコミを入れたくなるのをグッと堪えてあたしは慶斗の話を聞き流す。水を差すようなことを言うとすぐ不機嫌になるのは分かっているから。
 大学では映画研究会での自主制作に没頭しすぎたせいで一年留年、現在は短期のアルバイトを渡り歩きながらエキストラや端役を演じる日々。若いうちならそういう暮らしも悪くないだろうけど、慶斗はもう三十代後半だった。大学卒業後、映研時代の仲間に激励されて故郷である南の島から出てきたばかりの頃とは、わけが違う。今の年齢でイケメン特撮ヒーローの主役や朝ドラヒロインの相手役に抜擢されるはずもない。世間に注目される仕事は、もっと若くてすべすべした肌をした競争相手たちが全部持っていってしまうのだ。成熟した大人の魅力に価値を置くハリウッドと違って日本の芸能界では若い奴ばかりがちやほやされる、と慶斗はよく愚痴を言った。
「顔や外見じゃなくて、役者としての俺を見てもらいたいんだ。生きてきた経験や味わった苦労がにじみ出るような芝居は若さだけが売りの連中には無理だ。だから今やってる人間観察の仕事も芸の肥やしだと思ってる」
 人間観察の仕事、とはスウィーツ店でのバイトのことだ。前の仕事は閉館後のビルの警備(慶斗に言わせると「内面に耳を傾ける修行」)だったから、それに比べれば他人の姿を見る機会も多いに違いない。でも本音を言えばあたしのことももっと見てほしい。女の時間は男の時間とは違う。出産するならせいぜいあと五年がタイムリミットだから、どうしても未来のことを考えずにはいられない。家族が増えるならちゃんとした家を買わなくちゃ。ローンを組むには安定した収入を確保しておかないと。教育資金は? 老後は?
 出会ったばかりの頃は、夢に遊ぶ慶斗を見ているだけで幸せだった。だけど今は彼と会うたびに不安が増してくる。二人の将来についてどう考えているのかそれとなく訊いてみても、「先のことなんか心配したってしょうがないだろ。人生はチョコレートの箱だ。開けてみなけりゃ中身は分からない」と笑い飛ばされるだけ。だからあたしは内緒で婚活パーティーに参加した。人生がチョコレートの箱なら、他の箱のチョコレートも味見しておいたほうがいい。
 吉崎さんは五五歳でバツイチの男性。保険会社勤務。両親は既に亡くなっている。前の奥さんとは価値観のすれ違いで別れたと言うけれど、二人のあいだに子どもができなかったことも大きな原因だろう。パーティーで連絡先を交換した後、彼と何度か会うようになった。
「自分は知代子さんよりずっと年上で容姿もよくありません。だから燃えるような恋愛は無理ですが、結婚は未来への安心のためにするものだと思っています。どんな苦難でも共に乗り切れるような関係を築いていきたいです」と、先日のデートで吉崎さんは言った。確かに頭は禿げていてパッとしない見た目だけど、「未来への安心」という言葉があたしの心に引っかかった。保険のセールスでも同じような文句を口にするのだろうか? あらゆる不安からあたしを解放してくれそうな不思議な説得力があった。
 吉崎さんのことを慶斗に打ち明けよう――そう決心して、あたしは鍋の具材を用意して慶斗を部屋に招いた。二人きりで食べる最後の晩餐だ。なのに、あたしが野菜を切っているあいだに彼はソファの上で眠りに落ちていた。映画のオーディションの直後にバイトに出勤したらしいから疲れていたのだろう。口元の緩んだ、子どもみたいに無防備な表情である。瞼の裏で眼球が小刻みに動いている。
 しばらく寝顔を見つめていたら、びくっと身震いして瞼が開いた。
「やべっ、何時?」
「五分も寝てないよ」
「まじか……今、夢の中で俺は宇宙飛行士だった」と、彼は興奮した口ぶりで言った。「遭難して途方に暮れていると宇宙船がブラックホールに吞み込まれてしまう。もう絶体絶命、ってところで時空が歪んで知代子が出てくるんだ。知代子はまだ子どもで、俺とはまだ出会っていないけど面影があってすぐに知代子だって分かった。何て言うか、すごい運命的な感じだった。知代子、大好きだよ!」
 不意打ちのキスはチョコレートの甘味がした。わけの分からないまま、慶斗に身を任せる。両腕で抱き寄せて強引に唇を押しつける彼のキスの仕方は昔から全然変わらない。でも、あたしの胸は以前のようには高鳴らなかった。


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