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チャイナさん

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優しさは世界は良くしているだろうか

16/12/30 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 チャイナ 閲覧数:939

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北の大陸、とある病院の個室
 若い医者は少女の額にキスをする。半分は彼の恋心から、もう半分は彼女に生き続けて欲しいとする彼の優しさから。ふかふかのベッドに横たわる少女は弱弱しく、愛おしい。全身に繋がれたチューブや、キスをさせまいと口を塞ぐ人工呼吸器すら、彼には少女を彩るアクセサリーにしか見えていない。少女はゆっくりとした動作で医者の方に顔を向ける。重い病状に苦しむ彼女を救いたいとする欲望の土壌から、恋心が芽を出したのはいつのことだろう。遠い昔のことのように思える。
 青年は決断する。彼女を死なせはしないと。


南の孤島、質素な家屋
 母は子を叱りつける。頬を打つ。細かい砂の粒子が飛び、そのまま空中を漂う。母には学も地位も金もない。そのせいで人生は苦難の連続であった。人種差別、富裕層による搾取、夫の蒸発。自分にはそれらを避けたり、それらから自分を守るための選択肢すら与えられなかった。息子に地位は与えられない。だからこそ毎日必死で勉強させるのだ。全て息子の将来を思っての事。
 母は息子に泣きながら謝り、少年は家に一冊しか無い本に向き直る。


西の都会、高層ビルの屋上
 老練な政治家は決意する。この国を壊そうと。この国はあまりに肥大し、ついには末端から壊死を始めた。政治は濁り、経済は今や格差を助長する単純な装置でしかない。一気に中枢を握りつぶし、新たな、平等な国を作り出す。それには多大な犠牲を伴うだろう。多くの有能な人材や、資本が失われるだろう。だが、このままでは衰退と消滅の未来しか無い。彼にはそれを止めるだけの政治力が存在する。この国を守ってみせる。正義の名の下に犠牲を積み上げ、屍肉を喰らってでも生き延びさせてみせる。
 老人は顎をさすり、一筋の涙を流す。


東の島国、上り坂の途中
 少年は弟の手を握って歩く。10歳に満たない少年の小さな手が、もう一回り小さな手を包み込む。もうこの手を離したりはしない。今となっては彼の唯一の家族なのだ。左手で弟の手を、右手には料理用の包丁を握っている。血がぼたぼたと定期的に垂れる。少年の白いタンクトップは返り血にまみれ、鈍い水玉模様を作り出している。もう酒に酔って暴れる父も、弟を性奴隷としてしか扱えない母もいない。これからは二人だ。二人でこの世の中を生き抜くのだ。
 兄は先を急ぐ。行き先はわからない。


それらから時間的にも空間的にも遠く離れたこの場所で
「アンタに良心ってものはないのかっ」太った男が叫ぶ。何度この問題について考え、何度自分の答えを変えてきただろう。今は、あるつもりだ。
 殺し屋の僕には良心は無いのだろうか。それとも良心から僕は人を殺しているのだろうか。一応、僕は世の為になる殺ししか引き受けないことにしている。

 世の為になる仕事に良心は存在するべきだろうか。良心による意思決定は世の為になるだろうか。僕は良心が矛盾を引き起こすのを目にしてきた。一方では良心は人を生かし、もう一方で人を殺した。良心の為に格差が生まれ、やがて良心が生み出した凄惨な暴力によって格差が均された。
 本当にこの優しさのシステムは、僕らをどこかに連れて行ってくれるのだろうか。僕は自分の良心を信じつつも、これがなければもっと楽に効率的にできるだろうな、と考えている。

 僕は銃を突きつける。銃の先端は椅子に縛り付けられた男の額に当てられている。男に声を掛ける。
「君の罪は死に値する。君はたくさんの人と、この国の中心部を苦しめた。殺されるだけのことをしたんだ。信じられ無いかもしれないけれど。」男にはもちろん心あたりがある。顔がみるみる青くなる。
「待ってくれ。家族が、家族がいるんだ。」男は懇願する。僕は殺しの決意が少し鈍るのを感じて驚く。大丈夫、まだ殺せる。僕はこういうお涙頂戴のシチュエーションが積み重なったら、いつかターゲットを逃がしちまうだろうか。そうは思いたくない。
「君が今ここで死ぬのは決定事項だ。でも最後の言葉、伝えてやるよ。」僕は言う。伝えるつもりは無い。これは僕なりの儀式だ。死人の言葉は僕の心に重くのしかかる。その苦しみを抱えて生きる罰を僕は自分に課すことにしている。僕は僕の優しさと、優しさが間違っている可能性の両方を背負って生き続ける。
「        」最後の言葉というのは皆大体同じだ。でも毎回僕を効果的に苦しめる。
 いつもここで自分を撃ち殺したらどれだけ楽だろう、と思う。
 でも銃声はパンパンッと二発鳴って、僕は家路につく。


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