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素元安積さん

もともと・あづみと申します。 絵を描くのが好き。 話を作るのも好き。 どちらも未熟ですが、楽しみながら頑張ります。

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優しさって

16/12/25 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 素元安積 閲覧数:749

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「へぇ、コイツが流行りのカラクリってやつか。面白そうだ。ちと、起動してみっか」
ここ最近、江慕エボの町で流行っているのが、伝言板の代わりとされる、この辞書ロボット”コトハ”であった。
江慕の町と言っても、住むのは人の子。鬼とは縁遠い存在だった。
しかし、鬼だって好奇心と言うものがある。面白そうな存在の登場に、皆密かに心躍っていたのだ。
鬼達の首領であるこの鬼もまたその一人で、眠りにつく人の目をすり抜けては、このコトハの前まで来ていた。
ポチっとな。手の甲の起動ボタンを押すと、コトハは、まるで人の子のようにゆっくりと目を開けた。
「ご、ごきげんよう」
「私は、辞書ロボット”コトハ”。貴方の知らないことを教えます」
早速喋りだすコトハに、鬼は手を叩いて喜んだ。ボンキュッボンのサイズ、好みのタイプ、休日の趣味。くだらない質問ばかりが浮かんだが、鬼はそれより一番聞きたいことがあった。
「優しさって何だ?」
「優しさ、ですか?」
「ああ、昔むかし、じっちゃんから聞いた話なんだが」
そう言って、鬼は話し始めた。

昔、鬼は祖父に聞いたことがある。
――おじいちゃん、どうして俺は人間になれなかったんだ?
そう聞くと、祖父は考え込んだ末にこう答えた。
――ちょっと人より、優しさが足りなかったんだなぁ。もっと優しくなったら、お前さんも人間になれるはずだよ。
「だから、俺は優しさを知って、人間に近づきてぇんだ」
「優しさ。思いやりがあること」
「難しいなぁ。他には?」
「気配りが出来、健気なこと」
「仲間には気ぃ配ってる気がするんだけどな」
答える役目を終えたコトハは、言葉を失って黙り込んだ。
鬼はコトハが喋らなくなったのが寂しく、更にコトハに質問する。
「コトハちゃんは、自分が優しいと思うか?」
「はい。皆さんに分からない言葉、今日あった出来事を知らせております」
「でも、コトハちゃんはカラクリのままだよな。綺麗だし、このままでいっか」
冗談っぽく笑う鬼。コトハは再び黙りこんだが、やがてその口を開いた。
「優しさがあっても、鬼は人間にはなれません。ロボットも、人間にはなれません」
鬼は彼女の言葉に愕然としたが、彼女の言葉は紛れもない事実。
「……それでも、優しさってやつを知りたいんだよ」
鬼は、呟いた。
「優しさは、目には見えません。耳には聞こえません。口で話しても分かりせん。全て、嘘かもしれないから」
「じゃあ、俺は一生優しくなれないのかな?」
「死ねと言われたら死ぬ。そんな素直な方が、優しい人」
「え?」
「信じましたか? これは嘘ですよ」
「本当かい?」
「言ったでしょう。全て、嘘かもしれないと」
それから、二人は言葉を発さなくなった。
気づけばもう空も明るい。このままでは皆が目覚めてしまう。
「コトハちゃん、それじゃあな」
「はい」
鬼はコトハに別れを告げ、帰ることにした。
コトハの電源を落とすことも忘れて。

「……嘘、か」
森の中、鬼はコトハの言葉を思い出しながら歩いていた。
「じゃあ、誰の何を信じたら良いんだろう」
鬼が呟いたその時、自分のものとは違う足音が一つした。
「鬼め!!」
町の狩人だ。狩人は銃を構えて鬼の方へと駆けだした。
「チッ!」
鬼もまた捕まらぬようにと駆けだしたが、途中で彼女の言葉が頭の中を過った。
――死ねと言われたら死ぬ。そんな素直な方が、優しい人。
嘘だと彼女は言っていたが、もしその嘘が本当だったら。それを思うと速度を緩めていた。
「いや、しかし」
生きるか死ぬか考えていれば、何時の間にか足元は崖になっていた。
「くっそ、どこに逃げやがった」
少し向こうからは狩人の声がする。
狩人に殺されるべきか。それとも、崖から落ちて死ぬか。
他人の手を汚すくらいならば、自分で身を投げる方が良い気がした。
意を決すると、鬼は崖から飛び降りた。
――ガッ。
突然手首を掴まれる感覚。何がどうなったのか。鬼が瞑っていた目を開ければ、そこには此処にいるはずのないコトハがいた。
「行きます」
「コトハちゃん行くってどういう」
鬼が喋っているのも気にせず、コトハは鬼を力任せに持ち上げた。
「うおっ!?」
重量のある鬼が、華奢なコトハのたった一本の手で持ち上げられた。
鬼がコトハの両腕の中に横抱きされると、コトハは疾風の如く駆け出して鬼の里へ向かった。

遠い鬼の里へ着く頃には、辺りは明るくなっていた。
此処へ来るまでの道中、コトハがいる理由、ボンキュッボンのサイズを聞いてみたものの、ことごとく無視された。
入口へ着くと、コトハは鬼を降ろした。背を向けたコトハに、鬼が声をかける。
「なぁ。あれがコトハちゃんの優しさか?」
野暮な質問に、コトハは初めて微笑んだ。そして振り返ると、たった一言答えた。
「何時か分かるさ、生きていればね」


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