1. トップページ
  2. 箱庭のサイチョウ

結簾トランさん

お話を書くのが好きな、結簾トランと申します。紅茶とケーキと古めのものも好きです。よろしくお願いいたします。

性別 女性
将来の夢 たのしいお話を生み出す人になりたいです。
座右の銘 「結局俺たちに選べるのは、やるかやらないだけなんだ」FFXのジタンの台詞です。

投稿済みの作品

1

箱庭のサイチョウ

16/12/20 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 結簾トラン 閲覧数:605

この作品を評価する

生まれつき骨の兜を被って、私は密林の中に生まれた。
幸いなことに蟻とは逢わずに、喇叭を鳴らして気ままに暮らした。同朋は一度も見たことがなかった。私は独りでも別段構わなかった。

若いうちに己の羽を使わずして、青き海を渡る旅をした。
そうして今のこの箱の中へ来た。
密林程の広さはないが、どうやら蟻もいないようだ。
時折果物を摘まみながら、私は静かに暮らし始めた。
此処には別種の中型動物が来る。どうやら私を眺めているようだ。
私も彼らを眺め観察し、猿のようだが大地を踏みしめる際の脚使いが上手いと発見をした。
私と同じく此処に住む者が果物を持ってくる。果物は美味しい。機嫌がよい時など、私は好んでその者の体へとまることもあった。
此処には日に名前がある。日曜日には来客が多く、私と色んな話をしていった。代わりに月曜日にはとても少ない。果物をくれる者しか来ない。彼らは私の部屋の掃除をし、時には私の掃除もした。
あるとき二本足のとあるちいさい者が、私に「目が優しいね」と話し掛けた。
私は首を傾げ、ちいさい者へ目をよく見せてやった。

さて、先週の土曜日のことだ(日に名前を付ける、この概念を私は気に入った)。
私の元へお嬢さんが来た。
彼女は斯様な箱庭の生まれで、密林の暮らしを知らなかった。体もちいさくほっそりとしていた。
蟻に逢わずよかったと、彼女の体躯を見て私は思った。
私はそわそわと羽繕いをする彼女に、よければたべなさいと果物を勧めた。
黒い目で彼女は私を見て、兜の繋がる嘴で、すこしだけ果物を摘まんでたべた。
彼女は次に大ぶりの果物を啄み、それから食事は私と共にするようになった。
私は密林での暮らしぶりや、雨の遣り過ごし方のことなどを彼女に話した。恐がらせても悪かろうと、怖ろしい蟻のことは少しだけにしておいた。
彼女は楽しげに彼是と私に問うた。

彼女は私のお嫁さんになった。
元来独りでも寂しくなかったが、彼女がいることでもっと寂寥とは縁遠くなった。
私と彼女は枝の上で寄り添い、ひたりと付いて来客を迎えた。二本足の彼らは御目出度うと言った。
彼女は小柄だがあたたかく、私たちは同じ方向を向いて過ごした。
いつぞやのちいさい者が来て、私たちを見て喜んだ。「もっと目が優しくなったね」と彼は言った。
例え此処に、かの軍隊を率いる蟻が来ても、私は彼女を守ろうと思っている。
私たちは同じ骨の兜を被り、揃って一緒に喇叭を鳴らした。
久方ぶりのその声は、晴れやかに硝子箱へ響き渡った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン