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長玉さん

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北風と太陽と乾いた空と

16/12/19 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 長玉 閲覧数:571

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ある日、北風と太陽がケンカをした。

「やい、太陽。明るいだけのくせして、おれより強いなんて認めねえぞ
「まあ、いまのは聞き捨てなりませんわ。
わたしがこうして年中無休で光っているからこそ、ヒトは生きられるのです」
「くだらないね。ヒトなんて、ほうっておけば
おなかをすかせて全滅するぜ」
北風が見下ろした先には、うすぎたない男がみっともないぼろを着て歩いている。
男の手ににぎられたわずかな食料を、北風はふうっと吹き飛ばした。
「勝負しようじゃねえか、太陽。
あの男の服を脱がした方が《勝者》だ」
「いいですわよ。負ける気がいたしません」
こうして、男の意思など介さぬ
勝手きまわりない勝負が、幕をあけた。


先行は、北風だ。
北風は大きく息を吸い込むと、男に思いきり強風を吹きつけた。
びゅうううう。ごおおぉぉぉぉ。
枯れた大地に嵐が起こり、砂と埃が宙を舞う。
木々も生物も餓えて果てたこの世界を、まるごと凍ら せるような残酷な風だった。
しかし男は必死に服をおさえ、なんとか北風の猛攻を耐えきった。

「布切れひとつ飛ばせぬとは、北風の風上にもおけませんね」
後攻は、太陽だ。
太陽は全身にチカラをこめて、ありったけの熱を送り込む。
じりじり。じりじり。
生物の死骸が溶けて、枯れた木々が蒸発していく。
乾いた地獄と化した世界で、しかしそれても男は服を脱がなかった。

「なんだ、お前も大したことないじゃねえか」
「いいえ。きっとあの男のアタマがおかしいのでしょう。
ふつうなら、服をぬぐはずですから」

北風と太陽が言い争っているなか、地上でうずくまる男のもとに、ひとりの女がやってきた。
「アダム、どうしたの」
「ああ、イブ。ぼくの女神よ」
男は女を抱き寄せ、なんとみずから服を脱ぎはじめた。

「なにか、つらいことがあったの?」
「ああ。食べ物が風でとばされて、強い日差しで飼っていた家畜が溶かされてしまった」
「そうなの‥‥。何もかもなくしてしまったのね」
「そんなことはないさ。きみにもらったこの服と、何より大切なきみがいる」
「ああ、アダム。わたしもあなたが大事だわ」
ふたりは裸になり、体を重ねあわせた。


北風と太陽は思い知った。
どんなに冷たい風も、強い日差しも、ヒトの愛をとめることはできぬのだと。
どんなにつよいチカラも、ヒトの心を動かす《優しさ》には敵わないのだと。

北風と太陽は、互いを見やった。
昔からの付き合いで、いがみ合ってばかりだったが、
辛いときも、楽しいときも、いつも隣にいたのは北風であり、太陽であった。

忘れていた《優しさ》を求めるように。
失ってしまった《ぬくもり》に手を伸ばすように。
太陽と北風は、体を重ねあわせた。
地上の人間の見よう見まねで、相手の背中に手をまわす。
「痛いわ」
「ごめんよ」
しぜんと言葉が出た。不器用だったが、とてもやさしいセックスだった。

「でも、これじゃあ下の人間から丸見えだわ」
「恥ずかしいのかい?」
「ええ」
「じゃあ、カーテンが必要だな」
北風は、水蒸気と塵をあつめて《雲》を作った。
「ありがとう。うれしいわ」
ふたりが体を重ねるたびに、あたたかい風が吹いた。
太陽であたためられた北風が、地上にやさしく広がっていく。
「そら、いくぞ」
「あっ‥‥」
北風のはげしい動きに、太陽はつられて声を出す。
地上に大きな揺れが伝わる。大地が割れて、あるところでは陸と陸が離れ谷となり、またあるところでは陸が重なり山となった。
「はあ‥‥はあ‥‥」
「疲れたね。これでもうおしまいだ」
北風が合図を出すと、雲のかけらが地上に落ちはじめる。
「あら、水が地上に降り注いでいるわ」
「これは《雨》だ。雲がカーテンの役目を終えたから、水にして地上へもどしてやるんだ」

雨は大地をうるおし、水分と栄養をたくわえた大地で生物は息を吹き返した。
谷に雨がたまり《海》となり、海のなかで生きることを選ぶ動物たちが現れはじめる。
そして日によって雨は凍り雪となり、雲が日をかくすことで《晴れ》と《曇り》と《雨》がうまれ、
草木が誕生し、草木を食らう動物と、動物をくらう肉食獣と、肉食獣を食らう人間が発展していった。


そうだ、セックスだ。
男の服をぬがせるのも、大地が草木におおわれたのも、生物が進化をとげたのも、ヒトが大いなる発展をとげたのも、
ぜんぶ、セックスのおかげなのだ。
セックスを産んだ、愛と優しさに感謝しよう。
北風に優しさを思い出させた、古代の美女に感謝しよう。
太陽に愛のありかを教えた、古代の男に感謝しよう。
なぜって、北風と太陽のセックスが、ぼくらの《進化》を産み落としたのだから。


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