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Fujikiさん

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優しいサンタさん

16/12/19 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 Fujiki 閲覧数:759

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 人形の子どもに延々とプレゼントを手渡し続ける電気仕掛けのサンタクロース。その隣は、雪の降らない島に青白い照明と人工雪で作り上げた銀世界の庭。そのまた隣は、屋上から色とりどりの電球を垂らした光の洪水……。リュウの運転する車に乗った益美の前を趣向を凝らしたイルミネーションが次々と流れていく。丘の裾野に並ぶ外人住宅はクリスマスの時期になると地元の若者の人気ドライブコースになる。軍属が多く住むこの地域では毎年競いあうように豪華な電飾が施されるためだ。
「他人様の庭を勝手に覗いて言うのもなんだけど電気代とか大変じゃないかな。クリスマスまで毎晩つけっ放しでしょ?」と、益美が助手席の窓ガラスに鼻をつけたまま言った。
「大丈夫。この辺りの家は米軍から住宅手当をもらってるし光熱費も支給されてる。以前は政府の思いやり予算から出してた時期もあったそうだよ」
「なら、気兼ねなく好きなだけ見物できるね」
「安あがりなデート……」
 そう呟くとリュウは前を向いたまま小さく鼻で笑った。
 デート、という言葉が適切だとは益美も思っていない。公にはしていないけれどリュウは同性愛者だ。同じ職場で働く彼に益美が告白した時にそっと教えてもらった。彼の秘密を共有できたことが益美には嬉しかった。恋人にはなれなくても、リュウは彼女にとって一番大事な存在になった。細やかな気配りのできる彼は、今までに付き合ったどの男よりも優しく接してくれた。気になる映画が公開されれば一緒に観て、話題のレストランにも二人で行った。職場の愚痴もプライベートな悩みもリュウになら腹蔵なく話せた。彼は余計な意見を挟むことなく益美の話を聞いてくれた。
 丘の頂上に建つリゾートホテルの駐車場に車を停めて夜景を眺めていると、二人は恋人同士にしか見えない。駐車場にはカップルとおぼしき男女二人連れが乗った車が他にもちらほら停まっている。恋人たちの穏やかな笑顔の下では、ホテルに入るきっかけを探りあう緊迫した駆け引きが今まさに進行中だ。そんなピリピリした緊張はリュウとの間にはなかったけれど、ハンサムでスタイルも申し分ない彼は一緒に出かけるには最高の相手である。女たちの羨望のまなざしが彼に集まると益美はいつも誇らしい気分になれた。
 車外に出て柵から麓を見下ろしていた益美は、運転席に座ったままのリュウに声をかけた。
「すごい! ここからだと下の家のイルミネーションが全部見える。リュウも外に出てみたら?」
 リュウは遠くに広がる夜の海に視線を向けたまま、口元に微笑を浮かべてわずかにうなずくだけである。夜景の光に照らされた顔が青ざめて見えた。
「どうしたの、疲れた?」
 益美は助手席に乗り込むと、彼の肩に手を置いた。セーターの下で筋肉がギュッとこわばるのが分かった。彼女は触ってはいけない物に触れてしまった時のようにすぐさま手を引っ込めた。
 長い間を置いた後、リュウは静かに言った。
「仕事の後や休日に二人だけで会うの、もうやめよう」
「えっ、どうして?」
「こんな恋愛ごっこ、お互いのためにならないと思う。肉体関係を除けば、ボクは普通の彼氏が彼女にしているすべてのことを益美にしてあげている。益美はずっとそれでもいいのかもしれない。ボクを彼氏代わりにしていれば本当の彼氏を探す必要なんてないし、先のことを考えなくていいからね。でも、益美はボクに何をしてくれるの? 一方が与えてばかりの関係に未来はないよ」
 ポツリポツリと言葉を継ぐリュウの目は遠くを向いたままだ。
「リュウだって、今までずっと楽しかったでしょ? それに、職場には私たちが付き合ってるって思ってる人も結構いる。このままそう思わせとけば、いいカモフラージュになるんじゃない?」
「そうやってボクの個人的な事柄をダシに脅迫するんだね」
「脅迫なんて、そんなつもりじゃ……」
 言葉が続かなかった。リュウは益美に背を向けて窓の外を見た。二の腕が小刻みに震えている。益美は勝手にあふれ出てくる涙を止めることができなかった。
「分かった。もう二人では会わない」と、彼女は嗚咽を抑えながら言った。「ただ、最後にハグしてくれる?」
 無言で開かれた腕の中に益美は飛び込んだ。リュウのセーターは柔軟剤の甘い香りがした。優しさだけのハグだとは分かっていたが、彼の腕の中は温かくて気持ちよかった。ホテルの庭に植えてあるクリスマスツリーに巻かれたLEDライトがにじんで見える。子どもの頃、家のツリーの前でサンタさんにプレゼントをおねだりしたことを益美は思い出した。当時、サンタさんは世界のどこかにいると信じていたけれど、父親がいる時を狙って欲しい物を言うだけの知恵は持ち合わせていた。
 与えてばかりの優しいサンタさんには誰がプレゼントをあげるんだろう――リュウの細い体を抱きしめながら益美はそう思った。


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