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かるりさん

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キヨシこの夜に、赤鼻の戸中井さんとお届けに伺います

16/12/19 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 かるり 閲覧数:926

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 キヨシはクリスマスが嫌いだった。その理由は2つある。
「この日に人が死ぬと決まってこう言うんだ」
 空っぽの缶を蹴り飛ばして、赤い服を着たキヨシが呟く。それはブラックコーヒーの苦みが混じった声だった。
「サンタさんが連れていってしまったのよ、と」
 空き缶は公園の花壇へ転がって夜に溶けた。隣に立っていた相方の戸中井は缶の転がる音が聞こえなくなってからようやく、重たそうに唇を動かす。
「……死んだ理由をサンタクロースになすりつけるわけか」
「たとえば子供が亡くなったとしよう。すると決まってこんな台詞がでる『あの子は可愛かったから、サンタさんが連れていってしまったのよ』とな」
「聖夜に拉致か。やべーな、サンタクロースって男は」
 鼻息荒く語るキヨシとは逆に、戸中井は淡々と語る。今宵が寒いのは戸中井が纏っている冷気では原因ではないかというほど。とにかく戸中井は冷静だった。
 戸中井は鼻をすする。寒さに耐えかねて赤くなった鼻先を、もこもこの手袋でこすりながら。
「……それがクリスマス嫌いの理由か」
「そうだよ! 俺が拉致なんてするわけないだろ」
「そうだな。お前は拉致なんてしてない」
 ああ、と頷きながらキヨシは自らの服を眺める。赤い服、赤いズボン、茶色のベルトに白い袋。キヨシが若いため髭はなかったが、彼はサンタクロースである。
「俺は贈り物を届けているだけだよ」
「そうだな」
「俺は善良なサンタクロース! 俺は人間が大好きでちょっとお茶目なサンタクロース!」
 赤い鼻がトレードマークの戸中井はキヨシの肩を叩いた。
「今年もお疲れさん」
 肩に触れた戸中井の手で、息巻いていたキヨシは落ち着きを取り戻していく。

 しばしの間、2人を夜風が支配した。
 寒さに震える戸中井も、表情に疲労が浮かぶキヨシも。どちらも唇を動かさず、じっと公園の夜に溶けていた。
 寒さが増し、戸中井の鼻がより赤くなった時、ようやくキヨシが喋りだした。それは小さな声で、近くにいなければ戸中井は聞き逃していただろう。

「サンタクロースは人々に喜びを運ぶ」
 戸中井はその言葉を知っている。それは彼らの、サンタクロースの教訓だ。
「サンタクロースは人々に幸せを運ぶ」
「お前は運んだよ。喜びも、幸せも」
「サンタクロースはいつも微笑んで見守っている」
 壊れた人形のようにサンタクロースの教訓を語るキヨシ。戸中井はそれを止めようとしなかった。
「サンタクロースは笑顔を与える」
「与えていたよ。今年も」
「サンタクロースは……」
 声が、震えた。かみしめるように少しの間を置き、そして、詰まっていたものをほぐすように呟く。
「悲しみを与えない」
 戸中井は声に出さず、ただ頷いた。今年のキヨシも完璧な仕事ぶりで、悲しみを与えることはなかった。
「悲しみを与えなかったよ……でも俺は? 俺の気持ちはどうなる」
「言っていいぞ、聞いてやるから」
 今にも消えてしまいそうなか細い本音が、溜息と共に零れ出る。
「……さみしいよ」
 クリスマスが終われば、また次のクリスマスまでキヨシのことは忘れられてしまう。彼はクリスマスの間だけ、自由を得られるのだ。
「俺、うまく届けられたかな」
「届けていたよ」
「さみしさを押し殺して、幸せを届けられただろうか」
 一瞥もせず戸中井は頷いた。キヨシの肩が震えているのは寒さ以外の要因だと戸中井は知っている。
「幸せと喜びを届けた、お前は立派なサンタクロースだよ」

 夜の公園にぽたりと、落ちていく。
 それは赤い服に、白い袋に。
 キヨシの頬から一滴また一滴。
 夜風が涙を運んでいく。

「俺のこと、忘れないでいてほしい」
「ああ、また来年も来よう」

 それ以上、言葉は交わさなかった。
 朝が近づき、キヨシが立ち上がる元気を取り戻すその時まで、サンタクロースは寂しさを噛みしめていた。

 1年で最も忙しい日。今年のクリスマスが終わった。




 メリークリスマス。
 ある夫婦にとって呪われた言葉だった。皆に幸せが運ばれる12月のその日に、宝物を奪われてしまったからだ。

 メリークリスマス。
 愛犬の散歩に出かけた宝物は戻ってこなかった。悲嘆に暮れた夫婦は可愛い子だったからサンタクロースに愛されてしまったのだろうと呟いた。

 メリークリスマス。
 その日がくるたびに懐かしさと寂しさが届けられる。一日中宝物のことを考える日だった。

 メリークリスマス。
 けれど今年は違った。夫婦の元にサンタクロースがやってきたのだ。

 メリークリスマス。
 きっと来年の今頃、夫婦の元には新しい宝物がいるのだろう。
 きっと来年の今頃、宝物を囲む温かい家族の様子を見に、サンタクロースがやってくるだろう。

 メリークリスマス。
 サンタクロースがやってくる。


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