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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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カエ男

16/12/19 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:8件 クナリ 閲覧数:1227

時空モノガタリからの選評

繊細で個性的な世界観が魅力的でした。種を超えた絆にノスタルジックな魅力があり、ザラザラとした痛みを伴って胸に響きます。蛙であるカエ男の尻尾が二人をつなぐ接点となる点や、二人の距離感がなんとも絶妙でいい話≠ナは終わらないオリジナリティがある内容ですね。精読するほどに、ユーモラスで繊細な会話や心情表現のひとつひとつが胸に迫ってきました。特に「その気持ちには、ちゃんと人間が名前をつけてあるんだぜ」という箇所はやはり強い印象を残します。一言で安易に言い表されるよりも、ストンと胸に落ちるものがありました。この設定は通常だと、カエ男は、モゲ太の心の成長を表す象徴的なものと解釈可能ではないかと思います。しかし彼が「妄想ではなかったのか」と内心怖れながらも、カエ男の実在への確信を次第に強めていく過程が丁寧に描かれることによって、読み手にもカエ男のリアリティが強く迫ってくるものがあるのではないかと感じました。練られた文章から、密度の濃い感情がジワジワ伝わって来るような作品でした。

時空モノガタリK

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 ある町内に、ある老人が住んでいた。
 彼は近くの川の護岸工事に反対していて、しかし強硬に反対活動をするでもないので、自治体からは少々煙たい変わりものに見られていた。
 昼間から時折、道路の側溝に手を突っ込み、泥水の中をさらうような動作をしてニヤニヤしているので、どこかおかしいのではないかと思われていた。
 しかしどういうわけか彼には友人が多く、老人はいつも楽しそうにしていた。



 僕が小学三年生の時、飼っていた蛙が逃げ出した。
 そしてその蛙と、五年の時に再会した。何でその蛙だと分かったかというと、本人がそう言ったからだ。
「おうモゲ太。俺だよ俺」
 ドブの水から顔だけ出したその蛙には、確かに見覚えがあった。
「蛙が喋った! えっお前カエ男なのか?」
「もうそのネーミングに愛情がねえもんな。俺が逃げても大してショックでもなかっただろ」
「何言ってるんだ、寂しかったよ。僕は今も昔も、人間の友達がいないいじめられっ子だぞ」
「威張るな。いいか、この町のドブの底には、どこでも一本の紐が渡してある。それを強く引けば、俺が助けに来てやる」
 ためしに道路脇の細いドブに手を入れると、確かに紐があった。
「アデュー」
 そう言って、カエ男はドブに消えた。
 ほっぺをつねった。ベタに痛かった。

 次の日、僕は学校からの帰り、同級生三人にいつも通り小突きまわされた。
「ウハハハ、モゲ太、お前なんかはドブの水でも飲めッ」
 体格のいいウシ太郎に突き飛ばされ、僕は道路脇のドブに足がはまった。ブタ夫とウマ助がブハブハと笑っている。
 よし、今日こそ死のうと思った。
 考えてみれば蛙が喋るはずはないし、都合よく再会できるわけもない。全ては都合のいい僕の妄想だ。
 しかし、一応ドブの底を手でさらってみると、確かに昨日と同じ紐があった。
 僕は、その紐をつかみ、ぐいと引いた。
 数秒の沈黙。
 何も起きない。よし、この紐で首を吊ろう。その時。
「よくぞ呼んだモゲ太!」
 反対側のドブから、カエ男が飛び出してきた。
 そして……そのお尻には、蛙なのに細い尾が伸びている。紐のような。
「えっ待ってこれカエ男の尻尾?」
「まあな!」
「何か思ってたのと違う怖い!」
 驚いている僕を尻目に、カエ男は瞬く間に三人を蹴散らした。
「ありがとうカエ男」
「おう、男として当然よ」
「蛙なのに男とか女とかあるの」
「両生類ってのはそういう意味じゃねえよ」
 気がつけば夕日が沈もうとしていた。僕らの影が、道路に長く伸びる。
「カエ男、また僕と暮らそうよ」
「それはできねえ。所詮人間と蛙じゃ、言葉が通じても住む世界が違うんだ。だから他の蛙は皆、諦めて喋らねえだろ」
 そうだったのか。
「それに……実は俺が逃げ出したのは、モゲ太には人間の友達が必要だと思ったからなんだ。蛙の俺に逃げ込んでちゃだめだと思った。でも、辛かったらいつでも呼べよ」
「何で……カエ男は、そんなに僕を助けてくれるんだよ」
「何でだって? ならお前は、役にも立たないし可愛いわけでもない俺を、どうして捨てもせずに飼い続けてたんだ。飼い主の責任か?」
「それもあるけど。何となく楽しかったんだ。オタマジャクシの時からやせっぽちだったカエ男が、元気に大きくなっていくのが」
「その気持ちには、ちゃんと人間が名前をつけてあるんだぜ。それがある限り、また会えるさ」
 カエ男はドブに飛び込むと、どこかへ泳いで行った。
「カエ男、またな! 僕、人間の友達一杯作るよ! だからまた会おう!」
 僕は再び、ドブの中に手を浸した。やはり、カエ男の尾があった。
 僕はその尾をそっとなでた。
 その感触は、ちゃんとお前に伝わるだろうか。

 月日は過ぎた。
 僕は結局それ以降、カエ男の尾を引くことはなかった。
 それほど深刻な事態に陥らなかったためでもあるが、何より僕は怖かった。
 カエ男が喋ったのは、やはり僕の妄想ではなかったのか。尾を引き上げてみたら、ただの紐だったらどうしよう。
 妄想ではなかったとしても。蛙の寿命というのは、どれくらいなのだろう。カエ男が特殊な例だとしても、いずれ寿命は尽きてしまう。
 尾を引いてみて、その先にあるのが、カエ男の亡骸だったら。尾が朽ちたり、途中で噛みちぎられていたら。僕は、耐えられるだろうか。
 それでも僕は、時折道端のドブに手を入れて、カエ男の尾をなでてみた。
 尾は、いつまでもそこにあった。
 何十年経っても、朽ちずにいた。
 僕はここだ。
 お前はそこかい。
 何度も心の中で語りかけた。
 オタマジャクシの頃、ドブに流れる米のとぎ汁に飲まれていたところを拾った、でも僕なんかよりもずっと強くなった、住む世界の違う友人へ。

 あまり人には話さない、僕の、いちばん最初のともだちの話。


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このストーリーに関するコメント

16/12/29 奈尚

「カエ男」拝読いたしました。
題名、何の事だろうと思っていたのですが、蛙の名前だったとは!
決してベタベタせず、けれどモゲ太君を見守り、危機には助けてくれるカエ男さんに目尻が下がりました。
直接助けたのは一回ですが、その後もモゲ太君の心に残り、支え続けたという描写が好きです。
すてきな作品を、ありがとうございました。

16/12/29 クナリ

奈尚さん>
自分はなかなか「いい話」というものが書けない書き手なので、書きたくてかいているとはいえこうしたストーリーラインのときはかなり苦しいのですが、評価していただけて報われた思いです。
コメント、ありがとうございました!

16/12/31 タキ

読後の余韻の中、最初から読み返して冒頭の「川の護岸工事に反対して…」のくだりを見ると、「いい話やなー」ってホワッとしますね。

17/01/02 クナリ

タキさん>
ありがとうございます。
いい話は本当に難しく、自分には向いていないのだろうなと思うのですが、そういっていただけると嬉しいです。
最初に結末を書いておく構成も、好んでよく用いております。楽しいですよね。

17/01/23 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

最後まで読み終わり、冒頭のシーンが違ったものに感じました。
面白くてどこか切なく「優しさ」というテーマが押しつけがましくなく
「その気持ちには、ちゃんと人間が名前をつけてあるんだぜ」じーんとくる台詞でした。

17/01/26 クナリ

そらの珊瑚さん>
「いい話」がとにかく苦手なので、評価していただけて嬉しいです!
冒頭シーンとラストでの対比のギミックって、かなり好きな演出なんですよね。
動物を擬人化したり人間と意思疏通できる話のときはなるべくぶっとんだ話にしたいので、それが物語として成立していれば嬉しいです!

17/02/13 秋 ひのこ

入賞おめでとうございます!
ユニークな発想と奥深い人物像(カエルもいるので、キャラクター像というべきですね……/笑)に大きな感銘を受けました。
生涯に渡り尾を触って確かめ続けているものの、引くのは怖い、という感情も大変人間臭く、わたしもこういう人物、こういう心情を書けるようになりたいです。

また、「その気持ちには、ちゃんと人間が名前をつけてあるんだぜ」がこの話の名台詞であることは言う間でもありませんが、わたしはひそかに「アデュー」がいちばんお気に入りだったりします。
何度も読み返したくなる作品をありがとうございました。

17/02/19 クナリ

秋 ひのこさん>
ありがとうございます!
キャラクタ造形はなかなか難しく、毎回四苦八苦してるわりには同じような登場人物になってしまうのですが、今回は変な奴のお陰で変かがつけられたような気がします。
基本的に、動物を擬人化したり人の言葉がわかったりするものはかなり書きづらいのですが、今回は突き抜けて書けたので、自分としても思い出深い一作になりました。

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