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ケイジロウさん

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ガラガラガラとザクザクザク

16/12/18 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:754

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「ああ、そういえば今日クリスマスイブだったっけな」
 山本雪雄の声が、一人きりの小屋の中でむなしくこだました。足の裏と腰に張り付けたホッカイロがようやくあったまってきたからか、それとも先ほど舐めたワォッカが効いてきたのか、体がホカホカしてきて、饒舌になって来た。
 しかし、誰も雪雄に返答する者はいない。そもそも今日がクリスマスイブだということを雪雄は知っていた。だからこそ街を離れ、山の頂上にあるこの小屋に引きこもり夜を過ごそうということになったのだ。
 クリスマスとは、幸せな者をもっと幸せにする日であり、慈悲の心が欠けている。
 クリスマスの日、街にいると孤独を感じる。
 部屋にいると情けなくなる。
 そうだ、山にいればいいんだ。
 山は、雪雄の予想をはるかに超えた寒さだった。クリスマスイブだから余計寒いのではないだろうか、雪雄はワォッカを舐めて苦笑した。
 先ほどからミノムシのように入り込んでいる寝袋から、腕を取り出して、雪雄は時刻を確認した。まだ夕方の5時だった。
 うつ伏せになり雪雄は煙草をくわえた。一瞬躊躇したが、どうせオレしかいないんだし、と煙草に火をつけ、ワォッカの瓶のキャップをキュルキュルと回した。
 ガラガラガラ
 うつ伏せのままワォッカを舐めてると、開くはずのない扉が目の前で突然開いたので、雪雄はワォッカを吹きそうになった。
 部外者だ!と雪雄は一瞬警戒したが、ここは雪雄の家ではないことをすぐに思い出した。
「あのー……」
 女だ。
「ここ、泊まっていいんですよね?」
 若い。
「……」
「あのー」
「あっ、いいんじゃないっすかね。たぶん」
 今日はクリスマスイブだ。
「あのー、お邪魔してもいいですか?」
「えっ、いいんじゃないっすかね。たぶん」
 その女の子は敷居をまたいだ。警戒心がチラッと目の奥に光ったのを雪雄は感じた。
「あっ、すみません、こん中、禁煙っすよね?」
 雪雄は慌てて煙草をもみ消した。
「大丈夫ですよ。えーと、少なくとも私は。職場では、煙草の煙の中に私のデスクがあるので。慣れてますんで」
「あっ、そうっすか」
 その女の子はザックを下ろし、玄関に腰を下ろし、ため息をついた。
「あー、疲れた。この山、急ですね。途中で死んじゃうかと思っちゃった」
「あっ、そうっすか」
 雪雄は、女の子の火照った耳から慌てて目をそらし、ワォッカを舐めた。
 開けっ放しの入口から冷たい風が入り込んでくる。
 安心と安全――クリスマスイブと言えども、いや、クリスマスイブだからこそ、安心と安全だ。オレは安心で安全であり、オレの行動理念は安心と安全なのだ、雪雄はそう自分自身に言い聞かせた。
「あのー、それなんですか?」
「あっ、これっすか?ワォッカ。寒くてね。することもなかったから、もう半分になっちゃったっす。飲みます?」
「わー、今夜はパーティーですね」
「さあさあ」
 と雪雄はうつ伏せのまま瓶を突き出す。
「その前に私着替えてきますね。汗が冷えちゃうんで」
「あっ、そうでしたね。すんません、気付かずに。あの、僕少し散歩してきますよ。戻ったら、入口をノックしますんで、ごゆっくり」
「いいですよ。もう始まってるようですし。私が外で着替えますよ」
「いやいや」
 雪雄は雄々しく寝袋から脱皮し、ワォッカと煙草を持って小屋をでた。恐縮している女の子に、硬派な笑顔を向けてから、扉を閉じた。
 クリスマスを作った人、君はエライ、雪雄は小屋の前にあるベンチに腰を下ろし、熱くなりだしたホッカイロをはがした。
 あの子が「寒い」って言ったら、オレの寝袋を貸してやろう。オレは寝袋なしで寝ても死ぬことはない。なんてったって、今日はクリスマスイブなんだから。クリスマスを作った人、もう一度言おう、君はエライ、慈悲心アリ。いつの間にか口が緩んでいるのに雪雄は気付き、「よしっ」と気合を入れ、また硬派な顔を作ってみた。
 ザクザクザク
「あのー……」
 男だ。
「ミキ、あっ、いや、女の子来ませんでしたか?ちょっと前に、ここに着いたはずなんですけど……」
 誰だコイツ。
「あっ、来ましたよ。小屋の中にいますよ」
「あっ、そうですか、スミマセン」
「あっ、今着替えてますよ」
「あっ、いいんです」
 ガラガラガラ
「おーい、着いたぞー。あー疲れたー、なんだよ、ミキ、どんどん行っちゃうんだもん」
「わっ、なんだ、タケルかあ。だってタケル、遅いんだもん。ちょっとそこにあるブラ取って、あと、ドア閉めて、寒い」
 ガラガラガラ
 扉は閉まった。雪雄はワォッカを煽った。そして、雪雄はホッカイロをポケットから取り出し、もう一度足の裏に張りなおしたのであった。


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