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kouさん

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音の光

12/10/27 コンテスト(テーマ):第十六回 時空モノガタリ文学賞【 テレビ 】 コメント:0件 kou 閲覧数:1930

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 いくら売れても、キャリアを積んでも、偉そうにしない。上から目線で詞を投げ込むことなく、あくまでも音楽で勝負してくる、かっこよさ。それが世間でのシンガーソングライター千葉竜介の評価だ。時代を痛烈に批判し、ストレートな言葉をメロディに乗せる。その音楽は年代を問わず聴かれ、ある著名人からは、「君の音楽には嘘がない」と真剣な表情で言われ、竜介は照れる。古着とスニーカーを好み、常に飄々としている彼も二十代は苦難だった。
 閉塞感漂う現代を象徴するかの如く彼の曲には時折死≠連想する曲がある。竜介自身、デビューできない日々が続いた。そのやりきれない憤り、不満、喪失、それら噓偽りのない詞をメロディに乗せることは必然だった。
 が、竜介の曲に心酔して、ファンが集団自殺を図った。そのニュースは翌日メディアで、ああでもない、こうでもない、と憶測を巡らし、あるコメンテーターは、「彼の曲には問題がある」と曖昧な言葉で表現した。それを観ていた竜介は、君の容姿に問題がある、と画面に映る脂ギッシュに抑揚のない声を放つ。
 竜介自宅の玄関チャイムが鳴る。壁には大型液晶テレビが埋め込まれている。そして竜介は玄関を開ける。多数のマスコミが屍肉を漁るハイエナのように押し寄せ、「ファンが集団自殺を図ったことについてどう思いますか?」とか「責任は感じてますか?」と唾を飛ばしながら放つ。なので竜介は、「音楽が人に影響を与えたということを証明できたと思います」その発言が元で彼は活動休止を余儀なくされた。
 一夜にして彼は悪者≠ヨと変貌を遂げた。テレビは竜介の過去を暴露し取り上げる。全て嘘ばっかりだ。それでも自宅には根強いファンから手紙が届く。私は今いじめに合ってます。町も小さく古びた小学校だから、目をつけられると、いじめの連鎖は止まりません。それでも千葉さんの曲を聴いて前向きに頑張ってます。お願いです。音楽活動を始めてください。天使と悪魔より≠ニ端正な字で綴られていた。その後、その子からの手紙が定期的に届いた。ある手紙には母親が逮捕されました。人生に希望はあるのでしょうか≠ニも書いてあった。

 両親が離婚し母親と暮らす東上真美は父親がいなくても裕福だった。母親が必死に仕事をしているからだ。小学校の友達も、「真美ちゃんの家はなんでもあるね」と明るい表情を見せつける。しかし事態は一変した。母親が詐欺師として逮捕されたからだ。それは人を騙してお金を稼ぐ方法だった。その後、学校では、「真美ちゃんがお金持ちだったのは犯罪者だったからなんだ」という言葉が小さい学校を埋め尽くした。必然的に母方の親戚の家に引き取られ、引っ越しを余儀なくされた。それでもどんな苦難にも怯みたくないと、真美は思う。千葉竜介の曲を聴くと常に思う。それでも彼の曲を聴いてファンが自殺し、音楽活動を休止した。真美はショックだった。なので手紙を書くことにした。もちろん返信はなかった。それでもいつか活動を再開してくれることを願って。
 親戚の家は気まずい。やはり気を使ってしまう。いつしか学校帰りの居場所は駅の待合室だった。暖房もついている。ここにテレビがあればいいのに、と思うのだが、ない。でも、ある日大型のテレビが壁に埋め込まれていた。スイッチを押す。千葉竜介の音楽が流れ、彼が画面に映った。

 竜介は天使と悪魔なる手紙の送り主を業者を使い調べてもらった。苦難に陥ってるとき、それでも見捨てず支えてくれるのがホンモノのファンではないか。彼はそう思う。一週間後、その名は東上真美と判明した。会いに行こうと思い、彼は移動を開始する。真美は小柄で整った顔立ちだった。大人になったら綺麗になるな、と竜介は思う。真美は駅の待合室で時間を潰す。彼女の環境が影響してるのだろう。竜介は閃いた。大型液晶テレビを駅待合室の壁に埋め込むことを。彼の行動は早かった。駅支配人に事情を説明し、「お願いします」と頭を下げ頼み込み、「熱意は伝わった。OK」とアメリカンな対応で返された。その後、真美がどういう反応をするか覗きみる。彼女はおそるおそるスイッチを押す。画面が映る。真美の目が輝くのを竜介は見た。

「竜介!」事務所主催のパーティ会場でマネージャーの佐々木が呼び止める。隣に美人がいる。
「どうした?」と竜介はビールを一口飲み、「新しい風を入れたいってこの間言ってたよな。作詞を新しい才能に任せたいって」と佐々木はクラッカーを口に放り込む。
「そうだね」
「こちら、今売れっ子作詞家の東上真美さん。お前の曲に合うと思う」
「はじめまして。東上真美です」
 竜介は内心の動揺を隠しお久しぶりですという言葉をビールと一緒に飲み込み、「はじめまして。千葉竜介です」と大人になった真美と握手を交わした。


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