1. トップページ
  2. あたしのサンタ

待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

3

あたしのサンタ

16/12/16 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:741

この作品を評価する

 ミニスカワンピのサンタの衣裳に、ずっと憧れていたわ。クリスマスにケーキの売り子さんたちが着てるやつ。真っ赤なワンピースの裾がふわって広がるのがとっても可愛くて、あたしはずっと「いいなぁ」「あれが着たいなぁ」って思っていたの。
 だけどあたしは男の子だったから、スカートが穿きたいなんて言えなかった。それに、うちはクリスマスにパーティーをして浮かれられるような家庭じゃなかったから、ミニスカワンピどころかツリーもケーキも出てこなかった。
 クリスマスには親からプレゼントがもらえるものらしい、なんていうのも、同級生から聞いて初めて知った事だったわ。
 でも、知ったからってねだったりはしなかった。お母ちゃんの機嫌も悪くなるだろうし、それに一番叶ってほしい願いは誰にも言えない事だったから、親に言えるわけもなかった。
 親が離婚したのは小学校高学年の頃。お母ちゃんはいつもお父ちゃんに苛々してばかりだったから、いつかはそうなるんだろうなって思ってた。
 お父ちゃんは離婚届を突き付けられても「俺が悪いんだものなぁ」なんて言って、食い下がりもしなかった。
 お母ちゃんの言う事にうん、うん、って頷いて、かばんをいっこだけ抱えてお父ちゃんは家を出て行った。
「もうお父ちゃんに会えないの」ってあたしが訊くと、お母ちゃんは「会わせてあげるわよ」って不服そうに答えた。「もう家族でもないくせに、よりによってクリスマスですって」と付け加えて。
 お母ちゃんの言葉に頷くだけだったお父ちゃんが、あたしと会うならクリスマスじゃなくちゃ駄目だ、って言ったらしいの。これまでクリスマスなんて祝った事もないのにね。
『どうしてクリスマスにしたの?』
『誕生日は譲ってもらえないと思ったんだ。プレゼントをあげられる日が、後はクリスマスしか思い付かなくて』
 そんな会話をしたかしら。お父ちゃんは普通の何でもない日に贈り物を渡せない、小心者なの。……ふふ、頼りなくって可愛いの。
 初めてのクリスマス、お父ちゃんはリボンのついた紙袋を寄越してきた。「開けてみろ」ってにこにこしながら。
 ――中には大きなお花のついた可愛いヘアピン。
「可愛いだろう」って、にこにこするの。
 ……嬉しいというよりもまず、あたしは青くなったわ。女の子になりたいだなんて誰にも言った事なかった。髪を伸ばしたい、綺麗に飾りたい、あたしは女の子なんだ――って、そんな事。
 頭が真っ白になって何も言えなくなったあたしに、お父ちゃんはこう言った。
『綺麗になったなぁ』
 ――あたし、その頃第二次性徴期の真っただ中よ。どんどん女の子から離れていく自分の体に絶望してた頃。……暗い気持ち全部吹っ飛ぶくらい、嬉しかった。
 あの言葉だけであたしはもう、その先どんなひどい言葉を浴びせられても辛くなくなった。
 ……いつから気づいてたのって、訊けなかったけれど。
 思い返してみれば、小さい頃からお人形が好きだったり、お母ちゃんの化粧品を塗っていたような子だったから、告白するまでもなく気づかれていたのかもしれない。
 次の年にはペンダント。次の年には綺麗な手鏡。自分は去年と同じ古びたコートを着てるっていうのに。
 会う度に「綺麗になった」って言ってくれたの。高校生になっても成人しても、仕事をするようになっても。決心して女の格好をして会いに行ってみたら、おんなじ調子で「綺麗になったな」って言葉をくれた。
 自立して家を出ても、お父ちゃんと会う事はやめなかった。恋人に会ったりするだろう、だなんて気を遣われて、クリスマスをずらして会うようになった。
 でもね、あたしの中では、お父ちゃんこそがサンタクロースよ。よれよれの服を細い体で頼りなく着ているお父ちゃんが、あたしのサンタ。……どんどん歳をとって、笑って出来る皺もうんと深くなったけれど。
 …………。
 ……三年前にお父ちゃん、急に倒れてしまった。お母ちゃんももう死んじゃってたから、うんと怖かったなぁ……。
 ――頭、撫でてくれるのね。あったかい。
 幸い命は取り留めたのよ。退院してからは一緒に暮らしせるようにもなった。認知症がだいぶ進んじゃったけどね。
 ――あ、そろそろ時間だわ。外に出ましょっか。ハイ、手袋もして、ニット帽も被ってね。
 ん、なぁに? 「何の話をしてたっけ」って? ――あたしの大好きなお父ちゃんサンタの話よ。あなたの話。それでね、今度はあたしがお父ちゃんのサンタになるんだって、そういう話なの。
 とっておきのプレゼント用意してるから、楽しみにしててね。
 ねぇ、ケアセンターのクリスマス会、あたしサンタの格好して参加してもいいかしら? 大丈夫よ、さすがにこの歳でミニスカートなんて穿いたりしないから。え? 「あんた綺麗だからそれも似合うよ」?
 ふふふ。――ありがと。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/12/20 待井小雨

海月漂 様

コメント有り難うございます。
クリスマスということで、悲しい話よりも明るめの話を書こうと思いました。
主人公は子供の頃は大人しめ性格という風に考えています。大人になって強くなれたののは、父親の言葉が支えとなったからだと思います。
優しいラストとの評価、有り難うございます。。

16/12/29 奈尚

「あたしのサンタ」拝読いたしました。
作品全体がとても優しい空気に包まれていて、読み終わった後もほんわかと幸せな気持ちになれました。
なかなか表に出せない自分自身を肯定してもらえること、評価してもらえることの嬉しさは、他の何ものにも勝るなと改めて感じました。
二人が再び一緒に暮らせるようになって良かったです。
素晴らしい作品を、ありがとうございました。

16/12/30 待井小雨

奈尚様
コメント有り難うございます。
表に出せない・出してはいけない自分自身を受け入れてくれる存在は大きなものだと思います。この話で父親をそういった存在として描きたかったのですが、表現出来ていたでしょうか。
離婚や認知症など、軽く扱ってはいけないものだとは思いますが、主人公の心情に添うように重くならないよう気を付けました。「ほんわかと幸せな気持ちになれる」との言葉、とても嬉しいです。

ログイン