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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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あの子にサンタクロースは来てくれるかしら?

16/12/13 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:872

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暖炉が赤々と燃える居間で、父は家族一人一人にクリスマスプレゼントを手渡していく。
「さて、末娘のサラのプレゼントは? エイダ叔母様から届いていたはずだが?」
 わたしは、そっぽを向いたまま答えた。
「わたし、早く見たくてイブの真夜中にプレゼントを持ち出したの。お母様に叱られ、怒りに駆られてプレゼントの靴の片方を川に捨てました」
 父は、わたしの頬を平手打ちした。
「どうして、いつもこういうことになるのだ。クリスマスの朝だというのに、仕置きをしなければならない私の気持ちを察してはくれないのか」
 母が、待ってましたとばかりに口を開いた。
「サラを、これからマノン村へ連れていきます」
「この子に何をさせるつもりだ」
「教育です」
 母は、わたしの手を引いて居間から出た。10分後には、質素な服装で地味に仕立て上げられた馬車に向かい合わせに座っていた。母は、大きなバスケットを私との間の床に置いた。母が話しかけてきた。
「贈られた靴を簡単に捨ててしまうなんて、仕立ててくださった職人の苦労を思いなさい。また、贈ってくださったエイダ叔母様の心を踏みにじる行為です。わかりますか?」
 わたしは素直に頷いた。
 マノン村は遠い昔、疫病の患者を隔離するために作られた村だそうだ。そのため村人は外の世界を知ることがなく、代々この村で生きてきた。屋敷を出て三十分後、村の入口の壊れかけた鉄扉の前で馬車は止まった。
 マノン村は廃墟と化していた。乾いた砂の道。崩れかけた家々。風の音だけが鳴る静かな世界は、クリスマスを締め出していた。
 屋根が今にも落ちそうな家に、母は入っていく。わたしも黙ってついていった。火の気のない台所。壁の隅を歩く小さな蜘蛛。壁に開いた穴から、12月の風が容赦なく吹き込む。奥の部屋から、咳の音が聞こえた。母は躊躇いなく奥の部屋に入り、わたしも恐る恐る母の後を追う。
 傾いたベッドに寝込んでいる瘦せた女性は、震えながら「寒い寒い」と繰り返した。
「来ましたよ、奥さん」
 母は優しく声をかけ、薄い布団を直してやる。バスケットの中の物を一つ一つ取り出しては、「パンとリンゴ。こちらは、よく効くお薬ですよ。それから、豆のスープも作ってきましたから食べてくださいね」と手際よく傍らのテーブルの上に置いていく。
「いつもありがとう、奥様」
 女性は微かに微笑み、「息子を呼んでほしい」とわたしに向かって手を伸ばした。彼女の貧しさは手ごたえのない頼りなさで、わたしはそれを心の底から恐ろしく感じ、夢中で家を飛び出した。
 川のほとりで釣りをしている少年を見つけた。牡丹色のコートだけが裕福さを示していたが、彼にはまるでそぐわない。彼は弾けるような笑顔で、わたしに話しかけてきた。
「ぼくのお母さんの見舞いに来てくれたのですよね? ありがとう。あ、川で素敵な物が釣れたので、あなたへのクリスマスプレゼントにしたいけど、いいですか? ぼく、誰かに何かを贈るのは初めてなんです。とても綺麗なものですよ」
 彼が草むらから取り上げたのは、わたしが川へ捨てた靴の片方だった。外国製の素晴らしく美しい短靴。桜色の革製で、小さな赤いリボンと数えきれないくらいの小さな宝石で飾られた高級品。
「あ、ごめんなさい。拾ったものをそのまま贈るなんて、あまりにも失礼でした。じゃあ、どうしようか……あぁそうだ、これにしよう!」
 彼は手元のナイフで、自分のコートの一番上のボタンを切り取った。
「このボタン、ちょっとお洒落なんですよ。ぼくのコートは、慰問箱に入っていたんです。女物だけど、ぼくにしかサイズが合わないってことでもらえました。とても暖かいんです」
 少年は、宝石のような靴の中に乳白色の大きなボタンを入れた。それを笑顔でわたしに差し出す。
「メリークリスマス」
「あ……ありがとう」
 わたしの手は、自然に自分の首に巻かれたマフラーを取ると、彼の首に巻いた。
「お返しに」
「ほんとに? ありがとう。……なんて暖かいんだろう!」
 わたしは、もらったプレゼントを胸に抱えて立ち去ろうとして、大切なことを思い出した。
「あなたのお母様が、あなたを呼んでいるわ」
   ◇
「サラ、いつまで泣いているのですか」
「牡丹色のコート、わたし、気にいらなかったから慰問箱に入れたの。靴も、怒りに任せて川に投げ捨ててしまったの」
「まったくあなたらしいことにね」
「あの子にサンタクロースは来てくれるかしら?」
「もう来たでしょう。あの子にとっては、あなたがサンタクロースだったのでしょうね」
「わたし何もしてないわ」
「あなたは、あの子がクリスマスプレゼントを人に贈る初めての機会を与えました。今まで与えられる立場でしかなかった彼にとって、大きな‘喜び’になったと思いますよ」


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