1. トップページ
  2. 今生の別れ

チャイナさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

今生の別れ

16/12/12 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:0件 チャイナ 閲覧数:860

この作品を評価する

 俺はどこで間違えたんだろう。
 どうして俺は4年も付き合った彼女と別れてしまったんだろう。寒い。寂しい。ほんの5分前まで俺はセンスのいい間接照明がぼんやり明るい部屋の中、彼女の肩を抱いて二人で「LEON 完全版」のDVDを見てたってのに。レオンの愛嬌に俺たちは声をあげて笑い、マチルダの「いいタトゥーね」にため息を漏らし、二人の間にある歪な愛の是非を議論していたのに。どこで俺は間違えたんだろう。なんで俺はあの暖かい部屋から追い出されたのだろう。
 この5分間で俺はなんで彼女を失ったんだろう。
 彼女の腕を強く掴んで痛がらせてしまったからだろうか。それともその後に茶化してキスしてしまったからだろうか。流れで押し倒してしまったからだろうか。あんまり彼女が本気で抵抗するから萎えてしまったからだろうか。それとも萎えたからって勝手にやめちまったからだろうか。
 そうじゃない。結局今日起きたのは今まで溜まってきた感情が流れ出ただけなのだ。俺と彼女の間に元々溝はあったのだ。4年前の告白の時も、3年前のクリスマスも、2年前の海外旅行でも、去年の夏祭りでも。それは今まで俺たちの度重なる努力や恋の熱量により丁寧に包み隠され、俺たち二人からも見えなくされていたのだ。
 今日、それが隠しきれなくなった。小さな小さな蝶のはばたきが二人の間に嵐を生み、愛はそれに流されてしまった。残ったのは大きく深い溝の姿だけだ。
 一人、夜の吉祥寺を歩く。駅から少し距離があるのでそれほど賑やかではない。駅付近の明るさと対照的にここは闇が深い。闇は苦しみを覆いこみ、隠しれくれる。俺は気分が楽になる。カレーとナンの香りがする。帰ろう。自分の家に。途中で大盛りのラーメン食べよう。失った彼女を考えるのはよそう。今は夜に身を任せよう。
 風が吹くが寒くはない。俺と世界の間には分厚い膜がある。今宵の俺は不感症だ。来るなら来いや。
 俺は元々一人だったのだ。放任主義の親の元に生まれ、バカな友達に馴染めず東京の大学に進学した。理系だったが研究に飽きて投資ファンドに就職した。あらゆる物事に適性があったが、それらと継続的な関係は築けなかった。彼女だけは違うと思っていた。初めて得た本物の関係だと思った。これが愛情かと感激した。でも違った。次は誤解に気をつけよう。それだけの話。

 そうして俺は家に帰り、案外ぐっすり眠れて次の朝起きて気づく。今日俺は何を希望に働くのだろう。何を1日の楽しみに生きるのだろう。仕事が終わった後のビールだろうか。趣味のチェスや読書だろうか。新しい女の子達とのワンナイトラブだろうか。どれもしっくりこない。結局、俺は彼女を求めてしまっている。俺の心に元々空いていた穴を彼女は暖かく塞いでくれた、俺も何かを彼女に与えた。そんなわけで俺たちは付き合いだしたのだ。そして、そのくっつき方は4年間で深く、強くなり、この穴は他の何物でも代替できないように感じる。
 いやいや。待て俺。身支度を整えながら考える。自分の過去を肯定する。結局、彼女はそれらしく俺の飢えを満たしてくれたけど、完璧ピッタリってわけじゃなかったのだ。だからこそ溝が残り、そこに膿が溜まってこの苦しみを産み出したんだ。
 俺は若い。だからこの痛みを理由と解決策を周りの大人に聞く。大人は皆が鼻で笑いながら口を揃えて、「今のうちに悩め苦しめ」と言った話をする。でも、この苦しみを超えて何かが俺の手に入るとは思えない。生産的な何かであるとはどうしても思えない。そう言われて素直に信じ切れるほど俺は幼稚ではない。
 現状に存在する痛みを肯定することが最善だと知っていても俺はなかなかそれが出来ない。なんでこんな苦しみを味合わなくちゃならないんだ。
 こんな苦しみが人生に渡って何度も俺に降りかかるっていうのか。こんな人生を俺は生きて行かなきゃなんないってのか。

 という朝を俺は頭に描き、気づく。俺は彼女が大好きなのだ。たまらなく好きで、まだまだ彼女は俺のそばに必要だ。
 来た道を早歩きで戻る。闇はもう必要ない。ゆっくり彼女と話がしたい。この5分間は二人の笑い話になるだろう。俺はそれを確信している。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン