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つつい つつさん

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聖なる夜の嘘つきさん

16/12/11 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:529

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 わたしは自慢じゃないけど嘘なんてつかない。学校の先生にだって「穂奈美ちゃんは正直でよろしい」なんて言われるし、いつだって自分の思ったことをまっすぐ言う。だけど、今悩んでる。もうすぐクリスマスだっていうのに考えすぎて頭が痛い。わたしは正直なままでいいのかな。
 昨日の朝御飯の時もそうだった。わたしはママについ思ったことを言っちゃった。
「ねぇねぇ、今年もうちにはサンタさん来ないの?」
 ママはなんでもない口調で返す。
「そうね、穂奈美はわがままばっかりだから、こないかも」
 わたしは怒って反撃する。
「嘘だ。うちが貧乏だからこないんだ。優香ちゃんだってわがままなのにお金持ちだから、毎年すごいプレゼント貰ってるもん」
 ママはわたしの攻撃に動じない。
「優香ちゃんだって、穂奈美の知らないところでいい子なんじゃない。だから、サンタクロースが来てくれるのよ」
 わたしはさらにカチンとくる。
「なんでうちはクリスチャンなのに来ないの」
「まだ、わかんないでしょ。クリスマスまでいい子にしてなさい」
 わたしはまだ言い足りなかった。
「貧乏ってつらいな。毎日お祈りしてるのに、サンタさんも来てくれないなんて」
 ママはブスっとしてトイレに行ってしまった。わたしは毎朝、ハンバーグが食べたい、新しい洋服が欲しい、ゲームが欲しい、思ったことをママに言ってはケンカしている。嘘をつかないのはいいことかもしれないけど、正直者だって、つらいんだ。

 土曜日の学校の後、昼から教会の手伝いに行った。手伝いといっても掃除や片づけをするだけで、ママが帰ってくる夜まで教会で待ってなさいってことだ。わたしは考えすぎてつらいから、三つ上の中学生の灯里ちゃんに相談することにした。灯里ちゃんは美人でスラっとしてモデルさんみたいなのにみんなに優しい素敵なお姉さんだ。わたしはここ最近のママとのことを話した。
「正直なのはいいことだよ。穂奈美ちゃんえらいね」
 そう言って灯里ちゃんに誉められると、すごく嬉しくなる。
「私は正直じゃないかも。ついつい、嘘って言うか、自分を誤魔化しちゃうな」
 灯里ちゃんが正直じゃないなんて、わたしはびっくりした。
「灯里ちゃんでも嘘つくの?」
 灯里ちゃんは穏やかにうなづく。
「うん。嘘つくって言うか、相手の気持ち考えて答えを選んじゃうのかな」
 わたしは、首をかしげた。
「たとえば、穂奈美ちゃんのママが忙しくて、晩御飯がカップラーメンだけだったらどうする?」
「わたしだったら、これだけって文句言うよ」
 灯里ちゃんはうんうんと相づちをうつ。
「私もそう思うよ。だけど、私はママの疲れた顔見たら、食欲ないからこれで十分だよって嘘つくと思うの」
 わたしはやっぱり灯里ちゃんは大人だって思った。そういえばわたしは自分のことばっかりで、ママが疲れてるかどうかなんて考えたことがなかった。
 灯里ちゃんはわたしの考え込んだ顔を見て困った顔をした。
「別に、気をつかうことが正しいわけじゃないんだよ。でも、穂奈美ちゃんのママもすごく疲れてる時もあると思うんだ。そういう時は気づいてあげて」
 わたしは何度もうなづいた。灯里ちゃんちも貧乏だ。だから、わたしの気持ちもわたしのママの気持ちもわかってくれる。わたしはずっと灯里ちゃんみたいになりたいって憧れている。

 クリスマスの日、ママは遅くても七時には帰ってくるって約束したのに、帰ってきたのは八時を過ぎていた。わたしはムッとしてドアを開けると、ママが息をきらし入ってきた。
「ごめん、遅くなっちゃった。すぐご飯用意するから」
 そう言うと慌ただしく晩御飯を作り始めた。髪だって、ぼさぼさだし仕事終わってから急いで帰ってきてくれたのはわかった。しばらくしてテーブルに並べられたのは、お魚の焼いたのと、お味噌汁だった。ママはすました顔で言った。
「忙しくてチキンもケーキも用意できなかったの。ごめんね」
 いつものわたしなら「そんなの、クリスマスじゃない。せめてどっちか用意するのがママの役目だ」なんて憎らしいこと言ってたと思う。だけど、口から出たのは、こんな言葉だった。
「べつにいいよ。しょっ、食欲が、ないみたいなの」
 ママは驚いた顔してその場に立ち尽くした。
「ごめん、穂奈美。次はちゃんと用意するから。ママ、もっと、もっと頑張るから」
 そう言ってママはわたしに駆け寄り、わたしを抱きしめて泣いた。こんなこと言ったの初めてだから、すねてるって思われたのかもしれない。ちがう、そうじゃないって言いたかったけど、涙がポロポロこぼれて言葉にならなかった。
 ごめんね、ママ。私は灯里ちゃんみたいになりたいだけなんだよ。怒ってもいないし、すねてもいないんだ。
 だから、頑張らなくてもいいんだよ……ママ。


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