W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

0

協定

16/12/11 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:901

この作品を評価する

敵は、破壊された家屋と瓦礫のあいだに身をひそめながら、俺たちのいる建物めがけて嵐のような攻撃をしかけてきた。
「こら、ぼんやりしてると、ヘルメットごと頭をふっとばされるぞ」
兵士として一年先輩のアオキが、俺の頭を蕪かなにかのようにおさえつけた。その直後、いままで俺の頭があった空間に、殺傷力の強い弾丸がうなりをたててとびすぎていった。
厳しい訓練をつんできた俺だったが、いざ本番となるとまったくかたなしだった。戦場には敵がいる。その敵は、俺たち同様、相手の命を奪うことに死にもの狂いになっている連中なのだ。このあたりまえのことを実感するには、とにかく最前線に身をおかないことには到底わかるもんじゃない。
俺はいつもアオキと行動をともにしていた。アオキはいつもいっている。俺とお前のどちらか一方がやられても、絶対にかまったりするな。たとえ俺が助けをもとめたって、蹴飛ばしてでもいいから、お前はさきにすすむんだ。ここにいる連中はみな、そのようにして生き延びてきた。倒れた仲間のうえを、へいきで踏み越えてきたからいまがあるんだ。
「わかりました」
じっさい、敵との銃撃戦のまっただなかにあっては、自分以外のことにかまけている余裕などみじんもなかった。まちがって仲間から狙撃される危険さえ多分にあるなか、己の身ひとつ守ることに、だれもがけん命にならざるをえなかった。
すさまじい爆発音とともに、俺たちのいた一階の壁が木っ端みじんにふきとばされた。
いっせいに兵士たちは逃げ出した。四つ這いで逃げる者、でんぐりがえりしながら逃げる者、とにかく誰れもがあくなき生への執着にかりたてられて、無我夢中で逃げていた。
なんであれ、生きてさえいりゃいいんだ。―――アオキの声が、物影から物影を走りまわる俺の耳によみがえった。
そのとき、ピーという甲高い電子音が、敵味方双方の拡声器から鳴り響いた。
それまで逃げまどっていた味方の兵士たちがピタリと足をとめた。無防備なままおきあがって、ヘルメットをはずし、一息つきながら額の汗をぬぐいだす者たちがいた。
アオキがタバコをくわえると、瓦礫の向う側から、むっくりとたちあがってきた敵の兵士が、あたまをさげながら口をひらいた。
「すいません。火を貸してもらえないですか」
「ああ、どうぞ」
しかしアオキのライターはガス欠なのか、なんど石をこすってもあがるのは弱々しげな火花だけだった。
すると火炎放射器をせおった味方の一人がちかづいてきて、
「よっしゃ、まかせろ」
と、いきなりグワッと放射器の先から火炎をほとばしらせた。
アオキと敵の兵士は、炎にチリチリと眉をこがしながらも、ようやくタバコに火をつけると、顔をみあわせ大声で笑いだした。
「きょうはあんたとこ、盛大に弾をつかったね」
「上部からの命令だから、しかたがない」
「一発いくらぐらいだろ」
「安くはないよ。これまで使った弾をまとめて売れば、ちょっとした財産だ」
「ついでにこの銃もつけたら、車の一台ぐらい、買えるんじゃないか」
「それならこの手榴弾もおまけだ」
「いい金もうけができそうだ」
「まったくだ。ははは」
敵と味方の兵士たちのあいだで談笑がはじまり、なかにはスマホにうつる我が子の写真を嬉しそうにみせあう者もあらわれた。
そのとき、ふたたび響いたあのピーと言う音が、せっかく訪れた辺りの和やかな空気を無残に引き裂いた。
とたんに、これまで話をしていた兵士たちが一様にさっと表情をこわばらせたと思うと、いっせいに左と右に身をひるがえして離れた。間髪をいれず、相手から放たれた銃弾が俺の背後の壁に無数の風穴を開けた。
「5分間協定というのは、このことだったのですか」
俺は横で形相もすさまじく自動小銃を連射しているアオキにいった。
「ああ、そうだ、敵味方双方で協定した5分間の停戦時間だ」
どんな戦況にあっても、一日の間のきめられた時間にかならず5分間の停戦をとるというのが、両者でとりきめられた協定だということを、俺はここに派遣されるまえに教えられていた。
「だけど、どうしてたった5分なんです。だれだってもっとながいあいだ、戦わずにいたいでしょうに」
俺は自分の疑問を口にした。
するとアオキは、吐き捨てたタバコを踏みにじりながら、
「おまえもみていただろう。5分のあいだ、味方も敵も、心から親しくうちとけあっていたのを。あんな平和なひとときがあれ以上つづいていたら、みんなから戦意が削がれて、戦争がつづけられないしゃないか」
「それで、5分間なんですか」
「わかったら、ぐずぐずしてないで、はやく戦闘態勢にはいれ」
すぐそばでは、さっきタバコの火をつけた火炎放射器が、こんどは敵兵を焼きつくすための炎を、さかんに噴き出していた。




コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン