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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

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将来の夢 星座になること
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クリスマスイブの夜 少しにぎわうコンビニがある

16/12/09 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:4件 そらの珊瑚 閲覧数:732

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 今夜、クリスマスイブにコンビニのバイトのシフトを入れたのは、特に用事がなかったからだ。二十代なら、それが寂しいと思っただろう。しかし三十も半ばを過ぎれば、それは例年通りの普通のクリスマスイブなので、不幸感は既に麻痺してる。年はとってみるものだ。
 そもそもクリスマスだからといって全ての人が幸せだとは限らない。レストランでデートしてるカップルが幸せそうに見えても、本当に幸せかどうかは分からない。ワイングラスで乾杯しながら、クリスマスが終わったら別れようと心で考えているかもしれないのだ。
 「幸せ」ってなんだろう。生きていることが奇跡の産物だしたら、今、私が生きて働いていることこそ幸せと呼んでいいはず。
 と思いつつも、日付が変わるまであと一時間。似合いもしない販売促進用サンタの帽子を被って働く女が、他人の眼に幸せに映るものかどうかは疑わしい。
 けれどアルバイトしつつ作家なんぞを目指して、いつ日の目を見るともしれない、永遠に光など当たらないかもしれない、そんな生き方を選んだのは紛れもない自分なのだ。
 いかん。クリスマスイブは、孤独な者にとって厄介な夜だ。思考が堂々巡りする。能天気に点滅を繰り返しているツリーの電飾が眼に痛い。
 バックヤードの大型冷蔵庫には、予約のクリスマスケーキが10個ほど並んでいたが、次々と客に引き取られて、残りあとひとつ。
 忘れられたのか、おまえ。不憫なやつ。
 冷蔵庫のモーターが、グウンと唸った。

 入り口の自動ドアの開く。入ってきたのは宅急便の制服を着た二十代半ばくらいの男性。コンビニでは宅急便も扱う。出入り業者の一人だろう。その顔に見覚えがある。でもこんな時間に何の用だろう?
「すみません。クリスマスケーキを予約してて。これ」男はケーキの引換券を差し出した。
「ああ、よかったです」
「よかった?」
「ええ。最後の一個なので。あ、ごめんなさい。よけいな事でした」
「いえ。遅くなってすみません。もっと早く来ようと思ってたんですが、仕事が長引いてしまって」
「お仕事遅くまで大変ですね」
 男はククッと少し笑った。笑うと目が糸のように細くなった。穏やかで人の良さがにじみ出るような笑顔だった。中学の時に片思いしていた同級生の男の子も、同じ目をしていたなあと懐かしく思い出していた。なんでこんな時に、そんな昔の事を思い出すのだろう? 
「何かおかしかったですか?」
「だってあなたの方がよほど遅くまで大変そうだなあって思って」
「あっホントだ」
 私も少し笑った。営業用スマイルでなく笑ったのはいつぶりだろう。
「少々お待ちください」
 奥から最後のクリスマスケーキの箱を持ってきて、カウンターに置く。
「食べるの明日でも大丈夫ですかね?」
「はい。賞味期限は明日までですから。保冷剤、入れておきますね。お帰りになられたら冷蔵庫で保管してください」
「子供と一緒に食べようと思ってたんですが、もう寝てるでしょうから。明日の朝一緒に食べます」
「お子さん、おいくつですか?」
「二歳です。これから託児所に迎えにいくんです。父子家庭なもんで」
「そうなんですか。大変ですね」
「あなたもね」
「あっそうだった」
 そうしてまた二人で笑い合った。大変さは人それぞれ、か。それでもささいな事が胸を温かくすることがある。誰にもプレゼントをもらえない今夜の私への、誰かからの贈り物みたいな時間だった。
 再び入り口が開く。パーティーの帰りだろうか、二十代とおぼしき男女入り混じった数人の集団が、外の冷気と浮かれた空気感を連れて入ってきた。
「ヤダーめぐちゃん、頭になんかついてるよ」「えー取って」「はい。クラッカーの中身みたい」「ビールがいい人?」「私、チューハイ」「つまみ、何にしようか」
 女の子たちが華やかに笑いさざめく。これから誰かの家で二次会でもやるのだろうか。そして恋が生まれたりするんだろうか。

「ありがとうございました」ケーキをビニールの手提げに入れて男に渡す。
「こちらこそ、どうも」
 宅急便の服を着た男は店を出ていった。ケーキを胸の辺りで水平にして大事そうに抱えて。
 入れ替わり、また客が数人入ってきて店内がにぎやかになる。不思議に夜のコンビニには混み合う時間があったりする。理由はたぶん夜にしか分からないことなんだろう。
 アルバイトの山手君がフライヤ―でポテトを揚げ出した。揚げ物の匂いが店内を漂っていく。
「グッドタイミング。山手君。ポテト絶対売れるよ」
 お酒のつまみには断然揚げ物。翌日胸焼けしようが、私の知ったこっちゃない。
 大学4年生の山手君は就職が決まり、もうすぐアルバイトは辞めるそうだ。

 来年のクリスマス、同じように私はここで働いている気がする。
 けれど、それはそれで案外幸せなことかもしれない。


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このストーリーに関するコメント

17/01/04 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

わたし、この作品大好き!
仕事でよくコンビニとか行くんだけど、まさにこんな感じでやってますね。
クリスマスの夜に、若くて愛想のいい女子店員がシフトに入ってたりして、
思わず、今夜も仕事なの? って、訊いてしまった。大きなお世話だろうけど(笑)
クリスマスの夜のコンビニを淡々と描いているけど、それでいて印象的です。
父子家庭の彼とロマンス生まれないかと想像してしまう。

17/01/08 滝沢朱音

クリスマスイブは恋人と過ごすもの。そんな呪縛にとらわれて、見栄でシフトを休みにした遠い日も…恥

いろいろな形のイブがあるけれど、コンビニのたえず明るい光は、どんな人も包容力たっぷりに包んでくれるような気がします。
託児所で待ちくたびれた子どもさんも、きっと素敵なクリスマスの朝を迎えたのでしょうね。
人はそれぞれ、幸せなのだ。たとえ定型通りじゃなくても…そんなことを思いました。

17/01/23 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
大好きといっていただけて、書いてよかったと思いました!
あるあるなかんじのエピソードをつなげただけです。
ロマンスが生まれたらちょっと手軽すぎるかも…コンビニなだけに。


17/01/23 そらの珊瑚

滝沢朱音さん、ありがとうございます。
見栄をはりたい、その気持ちわかります!
真夜中のコンビニの灯り、ほっとする気がします。
はたらいている人は大変だと思いますが。
人はそれぞれ幸せだと気づいたら心が軽くなりそうですね。

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