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タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
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座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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絵画閲覧お断り

16/12/05 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:2件 タック 閲覧数:636

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美術館に入ろうとする私の足を止めたのは、一人の男だった。
その男はニコリとかすかに口角を上げると私のTシャツの右肩を抑え、その場に留まらせた。驚き、狼狽したものの、私は姿勢を正し、男に尋ねた。
「……あ、あの、なにか。私が、どうかしましたか」
「…………」
私の言葉にも男は苦く笑いをこぼし、圧力を弱めようとはしなかった。
その無言の制止に私は再度進もうと試みるも男の抵抗は途絶えず、意味不明な停止を余儀なくされ続けた私はついにしびれを切らし、語勢を強めた。すると男は、それに勿体ぶるように返答した。
「……っ! なんですか、どうして、止めるんですか」
「あの、すみません。あなたのご入館は、こちらとしては許可しかねます」
「なぜですか。この美術館は無料で、誰でも入館できるのではないのですか」
「いや、だって、あなたは、……ねえ?」
そうして、語意が掴めず困惑する私を前に男は目線を下げ、私の剥き出しの腕を見つめた。腕をじっくりと眺めた後、視線を再び私の顔へと戻し、目を合わせる。男の表情が間近に窺え、意地の悪そうな笑みが貼付されていることに、私は小さな苛立ちを覚えていた。

暫時の後、男は同様の言葉を繰り返し、私は同等に反発した。
「……あの、申し訳ありません。やはりあなたのご入館は、許可しかねます」
「……ですから、その理由を、尋ねているのです。はっきりと、おっしゃってください」
「……あのですねえ、」
そして、男の発した言葉に私の体は粟立ち、心臓は悪く鼓動した。男が言った。
「……あの、正直、あなたのような『アメ人間』は、当館では入館をお断りしているのです。申し訳ありませんが、お引き取りを」
男が肩を押し、私は数歩後退した。
その際、リンゴの芳香が自分でも分かるほどに拡散し、私のリンゴ味の足は地面を掴み、体を場へと止めさせた。数秒後、男の信じがたい発言を理解した私のアメ製の心は驚愕し、リンゴ味の体は、震えるほどの憤りに満たされていった。

「……な、なぜ、『アメ人間』は駄目なのですか。同じ、人間なのに」
私の反駁に、男は平然と答えた。
「……人間。まあ、そうですね。しかしあなたが入館されることで、不都合もあるもので」
「ふ、不都合とは。私のような『アメ人間』は美術館にとって、迷惑だというのですか」
男は否定せず、まして酷薄な笑みを浮かべて言った。「……まあ、率直に申せば」
そして男が次いだ言葉に、私はアメの血液が沸騰するのを感じた。
それは私の、また私たち『アメ人間』の人権を、真っ向から否定する言葉であったせいだった。
「……仮にですね、あなたが絵画に触れれば、絵画は台無しになってしまいます。こちらとしても、絵は大切にしたいので」
「……ば、馬鹿な。そんなこと、するはずがない。私だって、絵画の価値は知っている。そんなこと、するはずがないじゃありませんか」
男は静かに言った。「……いえ、そうとも言えません。こう言っては失礼ですが、『アメ人間』の方に、私たちと同じ常識が通用するかは分かりかねますので。『アメ人間』の方が、どのような行動を起こすか、『ヒト』である私たちには、想像ができかねますので」
「……な、なんて偏見だ……ひどい……! 私たちを、動物かなにかと一緒にしている……!」

――そうして、諍いが明らかな差別意識の元に平行線を辿り、我慢も限界に差し掛かっていた時、私の元に届いたのは微かな呟きであり、視線の確かな気配だった。
目を向けた先、そこには美術館に訪れたらしい少数の人々がおり、人々は遠巻きに私たちを眺め、みな一様に哀憫を浮かべているように窺えた。

その表情に、私が瞬時に抱いたのは、一種の期待だった。
男は私たちの人権を侵害し、あまつさえ美術館への入館を拒否した。
それは横暴以外の何物でもなく、また、非人間的な思想に他ならないものだった。

私は男の行動への非難に期待し、人々に視線を送った。人々は私を見返し、期待通りに言葉を発する。
だがそれは、私にとって、想像外の言葉だった。

一人の女性が言う。
――ねえ、あれ、『アメ人間』でしょ。

それに、友人らしい女性が返した。
――ほんとだ。キモーイ。あれの、どこが人間? 一緒にしないでほしいよねー。

ある男が、隣に言った。
――俺さあ、電車であいつらと隣同士になったんだよ。気色悪かったぜ。邪魔なんだよ。近づくんじゃねえよなあ。

最後の壮年の女性の声に私は、自身が溶けかかるのを感じていた。
――まさか、絵を見に来たのかしら。あの人間じゃない体で、一体なにが分かるのかしらねえ。

「……すみませんが、お引き取り下さい」
自信を増した男に突き放された私はグラリと揺れ、美術館から遠のいた。
無料の美術館はヒトを歓迎していたが、『アメ』である私は、その範疇から外れているようだった。


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このストーリーに関するコメント

16/12/10 クナリ

文字でストーリーを追いかけていく小説ならではのストーリーライン、面白かったです。
彼が受けたのは、差別なのか、区別なのか…これは、簡単に答えを足してはいけない問題ですよね。

16/12/16 タック

クナリさん、コメントありがとうございます。

お読みいただき、とても嬉しいです。差別と区別のテーマ、そしてシュールさをもう少し抽象的に出したかったのですが、現在の状況ではなかなか難しく感じます。もっと頑張らないと……とクナリさんや皆様の御作を拝見し、切に思う次第です。
書き手の皆様に少しでも近づけるよう、頑張ります。
ご一読、ありがとうございました。

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