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上村夏樹さん

はじめまして、上村と申します。 公募に挑戦するワナビです。突発的にショートショートを書きたくなる面倒くさい生き物。 最近、初めて買って読んだ詩集で泣きそうになるという、やはり面倒くさい生き物。 物書き、そして読者のみなさん、よろしくお願いします!

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就活サンタ

16/12/05 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:2件 上村夏樹 閲覧数:839

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「私、この仕事辞める。将来のことを考えると不安だし」
 ミニスカのサンタ服に身を包んだ彼女は、ビールジョッキに口をつけた。
 テーブルにジョッキを置く彼女。鼻の下に白い泡のヒゲができていて、なんだか滑稽に見えた。


 株式会社ニコニコサンタ。それが俺と彼女が務めている会社の名前である。
 彼女は俺と同期入社のサンタだ。年は二十三歳。サンタ専門学校を卒業し、資格を取ったのちに入社している。
 今日は十二月二十六日。クリスマスは終わり、俺と彼女は居酒屋で打ち上げをしている。
 ……はずだったのだが、いつのまにか彼女の愚痴大会が始まった。どうやら現状に不満があるらしい。
「急にどうした。この仕事、好きだって言ってたじゃないか」
 尋ねると、彼女は唇をつんと尖らせた。
「そりゃあ、子どもを笑顔にする素敵な仕事だって誇りはあるよ? だけど、いつまでもミニスカ履いていられるわけじゃないじゃん?」
 彼女のスタイルはよく、ミニスカサンタ姿はとても似合う。でも、あの露出の激しい衣装は、ある年齢になったら着られなくなるだろう。
「男はいいよね。ジジイになってもサンタできて」
 彼女はすねた声でそう言った。
「気持ちはわかった。でも、辞めてどうするんだ?」
「ショップ店員になる。可愛い服をいっぱい売って、お客さんを笑顔にするの」
 彼女は得意気にそう言った。人を笑顔にする仕事という根幹がブレていないことが、なんだか彼女らしいなと思う。
「お前、そういうの得意だもんな。クリスマスプレゼント選びも完璧だし、上手くやれると思う」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると自信がつくよ」
 彼女は頬を緩め、ビールを飲んだ。
 彼女がサンタを辞めたら、こうやって飲むこともできなくなるのかもしれない。
「……同期はお前だけだし、寂しくなるな」
「悲しいこと言わないの。私が辞めても、私たちは友達じゃん!」
 そう言って、彼女は俺の背中をばしばし叩いた。
 彼女の底抜けの明るさに、何度励まされただろうか。
 新人サンタ研修のときも、先輩サンタの雷が落ちたときも、いつも彼女がそばにいて、俺を元気づけてくれたっけ。
 本当は、辞めてほしくないけれど。
「次の仕事も頑張れよ」
 彼女がそうしてくれたように、俺は笑顔でエールを送るのだった。

 翌週のことだった。彼女が辞表を提出したのは。


 ◆


 半年後、俺は彼女と居酒屋で飲んでいた。
「……じゃあ、ショップ店員辞めたの?」
 半眼で睨むと、彼女はジョッキをテーブルに叩きつけるように置いた。
「だって先輩たちがウザいんだもん!」
「というと?」
「私の販売成績がいいからって、先輩たちが意地悪してくるの! 新人のくせに生意気だって! だから私、実力主義の世界じゃないんですかって言ったら逆ギレされたの! その日からいじめられるようになって、ムカついて辞めた!」
「世渡りが下手だなぁ……今は無職なの?」
「うん。でも、もう仕事の内定はもらったよ」
「今度はなんの仕事?」
「遊園地のスタッフ」
 これまた人を笑顔にする仕事だ。彼女に向いている職業だと思う。
「職場はここから遠いの?」
「隣の県だよ。寮生活するから、引っ越ししなきゃいけないんだ」
「そうか……気軽に会えなくなるな」
「寂しそうにしなさんなって! いつでも会いに来てあげるから!」
 そう言って、彼女は俺の背中をばしばし叩いた。
 彼女の優しさに、何度救われただろうか。
 俺がミスするたびに笑って「どんまい」って言ってくれた。
 本当は、引っ越してほしくないけれど。
「次の仕事も頑張れよ」
 彼女がそうしてくれたように、俺は笑顔でエールを送るのだった。

 翌週のことだった。彼女が他県に引っ越したのは。
 ……これ、デジャビュじゃないよね? 気のせいだよね?


 ◆


「あれだけフラグ立てたら、また辞めると思ったよ!」
 俺は居酒屋で激怒した。
 今日は十二月二十六日。クリスマスは終わり、俺と彼女は居酒屋で打ち上げをしている。
 彼女は見慣れたミニスカサンタの衣装を着ている。前の職場を退職してから、またうちに戻って来たのだ。
「だって、上司がセクハラしてくるんだもん。おしりを強く触られたときは、さすがに頭にきて三角締めきめちゃった。そしたらクビだって」
「当たり前だ」
 上司に寝技をかける女がいるか。
 呆れていると、彼女はビールを飲み、そして一言。
「私、サンタの仕事以外向いてないかも。他の仕事は先輩たちとソリが合わないし。サンタだけにね」
 したり顔の彼女の鼻の下には、泡のヒゲができている。
「……ヒゲができて、ジジイサンタになってるぞ」
「おぉ! じゃあ、一生サンタできるからいいね!」
 彼女が「うはは!」と豪快に笑うので、俺もつられて大笑いした。


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このストーリーに関するコメント

16/12/09 上村夏樹

>朔雲みうさん

ご感想ありがとうございます!

サンタ、好きなんでしょうね(笑)
サンタの仕事……クリスマスは徹夜業務でしょうし、その日までに子供たちの好きな物をリサーチしたりするんでしょうか。給料的な面でも苦労しそうです(^_^;)

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