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本宮晃樹さん

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エコ思想はすばらしい

16/12/05 コンテスト(テーマ):第94回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:653

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 今月の電気メーターを前に、わたしは愕然とした。割当量を七ワット「も」超過しているじゃないか! これはまずいことになった。いったいなぜ? 細心の注意を払って電気消費量はセーブしていたはずなのに。
 まるでわたしの焦りがテレパシーかなにかで伝わったかのように、ちょうどエネルギー管理局の職員が駐輪場に自転車を停めたところだった(連中はむろんいけ好かないし、態度だって尊大だ。だが本事例からもわかる通り、エコ思想をみずから体現することを強いられていて、こうして管轄地域を自力で回っているのだ。まことにご苦労さまである)。
「日下部さんですね」問いかけではなく断定だった。「エネルギー管理局の者ですが」
「これはどうも」気色の悪い媚びへつらった笑みを浮かべてみる。やつの表情を読む限り、逆効果のようだ。「今日はなんともすばらしい日和ですな。太陽光パネルの稼働率も上がる。地球環境もよくなる。いいことずくめですよね」
「一年中晴れてくれればと思いますよ」職員は汗を作業着の袖で拭いながら、「ところでそうした地道な努力が、心ない利用者のせいで消し飛んだようですね」
「ほう。誰です、そのけしからん非地球人は?」
 その瞬間、やつの顔が鬼の形相に早変わりした。「あなたでしょうが! そこにある電気メーターを見てください。割当量七ワット超過ですよ。これがなにを意味するかわかってますか?」
「もちろんです」めちゃくちゃにおっかない。「電力の消費量が増えると火力発電所を余分に操業しなきゃならない。窒素酸化物が放出されて環境が汚染される。地球がだめになる」
「そこまでわかってて、なぜこんなお粗末なまねができるんです?」
「ぼくにもわからないんですよ。いったいなにが起きたんでしょう?」
 今度はとぼけているわけではない。本当にわからなかったのだ。割当量を超過しないよう、日々われわれは些事にまで気を遣い、せせこましい思いをしている。その一環が例の消費電力一覧表である(上は第三次世界大戦から下は豆電球の点灯まで、およそ考えられる限りの人間活動の消費電力が(kWで)表記されている)。
 さらに念の入ったことに、それにもとづいたありがたい行動指針が打ち立てられており、これにしたがえばいちエコ地球人として認められるばかりか、個人割当量を決して超過することなく暮らすことが可能だ。
 と、いままでは思っていた。わたしは今月もその指針にしたがって寸分の狂いもなく、ほとんど有機ロボットのごとく生活してきた。にもかかわらず呪わしい七ワットのチョンボが出たわけだ。
「ちゃんと指針にしたがってるんでしょうね」
 ちょっとむっときた。その指針とやらのせいでこんなことになってるんだろうが。「したがってますよ。むしろこっちが聞きたいですね、なぜ超過しちまったのか」
「家電製品の更新リストは確認しましたか?」やつの勝ち誇った顔とは裏腹に、わたしは一気に青ざめた。それをうっかり怠っていたのだ。だってこないだ新しい「エコ」冷蔵庫が出たばっかりじゃないか! 「最新の〈推奨エコ家電〉に買い替えなかった。そうじゃないんですか?」
「あのね、つい一か月前ですよ」よせ、連中に逆らったっていいことなんかひとつもない。「どれだけ消費電力が改善されてるってんですか? そりゃ確かにそれらを全品揃えれば、あんたがたの割当内に収まるんでしょうよ。でもその家電を設計して次々に量産するより、ちょっと古くて効率が悪くても、従来型のやつをそのまま長く使ったほうが地球には絶対に優しい。ぼくはずっとそう思ってきましたがね」
 これはいちばん言ってはいけないことだった。そんな理屈は誰もがわかっている。たぶん生まれたての新生児でさえ現行の方針には首を傾げているにちがいない。
 だってそうじゃないか? 太陽光パネルを設置していないやつはいっぱしの文明人とは認められず、エコ家電が聖杯みたいに後生ありがたがられ、リサイクルの材料として徹底的にプラスチックの廃棄方法が定められ(ふつうに製造するよりもはるかに莫大なコストがかかっているにもかかわらず!)、そのくせ原発は「危ない」からといって窒素酸化物をまき散らす火力発電だけでなんとかしようとする。そのツケは全部国民に転嫁されている。割当量というかたちでだ。
「あんたらは疑問に思わないのか。いったい誰が得をしてるか考えたこともないのか?」
「すべての地球人が得をしてる」職員は無表情だった。それを見てわたしは悟った。この国は終焉に向かってひた走っているのだと。「かけがえのない地球を保全するというすばらしい理念によってね。それは回りまわってすべての人間に還元される」
「それは実に気宇壮大な話ですな」
「割当量超過とエコ思想に対する反逆。行政処分は覚悟しておいてください」
 やつは颯爽と自転車に乗って去っていった。地球を守るために。
 いやちがう。家電メーカーと石油輸入業者とリサイクル施設、およびそれに群がるハイエナどもの既得権益を守るために。


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