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KOUICHI YOSHIOKAさん

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【光の樹】

16/11/28 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:752

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 商業ビルに四方を囲まれた公園の中心に今年もクリスマスツリーが飾られた。「光の樹」と名付けられたそのツリーの周りの木々も煌びやかなイルミネーションで満たされ、公園中がこの時期だけクリスマス気分を味わいたい人びとであふれていた。
 光の樹は高さ八メートルある二等辺三角形のオブジェで、様々な色の光を放つ幾何学的な装飾物が多数つけられていた。
今年も青年は光の樹の前に立っていた。毎年十二月一日から二十五日までの間、光の樹が点灯されてから日が変わるまでの時間、毎日立ち続けていたのだ。晴れた日だけでなく雨の日も雪の日も立っていた。光の樹の前で何かをするというわけでもなく、光の樹を背にしてただ黙って立っているだけだった。
三年間も続けていれば自然に人の目にもとまるようになり、やがては話題にもなってマスコミにも目をつけられていくものだ。
タウン誌やローカルテレビが取材をしようとして何度も話しかけたがすべて失敗した。青年は一言も口を開かなかった。誰も青年が光の樹の前に立ち続けている理由を知らないし、誰が話しかけようが青年が言葉を発することはなかった。
商業ビルの四階にある喫茶店でアルバイトをしている女学生がいた。喫茶店の窓からは光の樹が見おろせて、その前に立つ青年の姿も目に入っていた。仕事をしながら横目で眺め、仕事が終われば公園に出て青年の前に立った。
「こんばんは。どうして毎日立っているんですか」
 女学生は毎日仕事の帰りに青年に聞いた。青年が答えないことはわかっていたが、いつかは答えてくれるのではないかと期待していた。好奇心というよりも心配に近い気持ちからだった。
 青年の側に立っていると、よくカップルから写真を撮ることを頼まれた。季節の風物詩として少し有名な青年と写真を撮りたかったようだった。青年だけを写真に撮ったりする人や恐る恐る体に触る人もいた。幸い公園の入り口には交番があり、いつも警官が夜回りをしていたので、青年に悪戯をする人はいなかった。
 十二月も二十四日になり公園の賑わいは最高潮に達した。女学生は飽きずに毎日青年に話しかけ、青年は女学生が姿を現すと意識してか瞬きを多くした。
この日、女学生は多弁だった。イヴの雰囲気が気持ちを高揚させ、これまで感じてきた想いが爆発したようだった。
「綺麗な光の樹の元にみんな集まってくるわ。そして自然にあなたの存在に気づいて、光の樹と一緒にあなたを見るわよね。クリスマスツリーは特別な存在よ。あなたはクリスマスツリーのような特別な存在になりたかったんじゃないの。人とは違う存在。それを感じたくてここに立ち続けているんじゃないの。確かにあなたは何もしないことによって注目を浴びた。でもそれであなたが特別な存在になったわけじゃないと思うの。だって、あなたは自分の目ではなく、他人の目によって特別になろうとしているんだもの」
 突然、青年は激しく泣きだした。捲し立てるように言った女学生はハッと我に返った。
 近くで光の樹と青年を眺めていた幾人もの人がいっせいに写真を撮りはじめる。公園の名物青年が見せた涙、それを泣かせた女、好奇心は隠されることがなかった。「ふたりはどういう関係ですか」「彼女さんですか」どこか楽しそうに声をかけてくる。さっそくSNSにアップしている人もいる。
 女学生は泣きじゃくる青年の手を取ると駆け出した。シャッター音を背中に浴びながら、公園を出て、ビルとビルの間の細い路地裏へと入って行った。わざわざ追ってくる人はいない。
 驚きから泣き止んだ青年は、周りを気にするように見渡した。
「人が苦手なんです。目立つのが嫌いなんです。話すのが苦痛なんです。自分に自信がないんです。独りが怖いんです」
 青年の声は細い糸のようにすぐに切れそうだった。
 ああ、と女学生は唸った。この人は光の樹の前で動かなかったんじゃないんだ。動けなかったんだ。背中を押してくれる人、手を引っ張ってくれる人を探していたんだ。三年間も……。
「明日のクリスマスが終われば光の樹も撤去されてしまうわ。ねえ、最後の一日、私もあなたの横に立っていてもいいかな」
 激しく瞬きをしながら青年は頷いた。
 クリスマスの当日は綿のような雪が降っていた。青年と女学生は光の樹の明かりが点灯されると同時に立った。手を握り合い、光に包まれた。写真を勝手に撮る人たちに微笑みかけ、商業ビルの遥か上から降ってくる甘い雪を見上げた。
「ねえ」と、女学生は青年の手を強く握りながら言った。
「人が苦手でも、目立つのが嫌いでも、話すのが苦痛でも、自分に自信がなくても、独りが怖くても、それでいいじゃない。それがあなた自身なんだからね。否定しちゃだめよ。自分を認めてあげないさいよ」
 青年の手が力強く女学生の手を握り返してきた。痛いと思いながらも女学生の手は暖かかった。


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