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クナリさん

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座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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女嫌いをわずらってみた――えっせえのようなもの

16/11/27 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:4件 クナリ 閲覧数:998

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 小生、中学から高校くらいにかけて、女嫌いを患ったことがある。
 特別ドラマチックなトラウマなどはなく、色々細かいことの積み重ねなのだが、クリスマスで思い出したことがあるので、小生の女嫌いのしょうもない種のひとつをご笑覧いただければ幸いである。

 小生、埼玉のある高校で、一人の女子、Nさんと出会った。それなりに気が合い、クラスも違ったが、頻繁に会うようになる。
 頻繁に会うといってもほとんどが校内の、小生が根城にしていた薄暗い図書室の一角に、Nさんが訪ねて来てくっちゃべるという程度のことである。
 それでも小生にとっては、対女子という意味では「頻繁」であった。
 どの面下げて女嫌いなどと偉そうにのたまったのかと思うと、まことに度し難い。どうもすみません。

 ある日、Nさんが小生に提案した。
「小生君、明日からお弁当作ってあげようか」
 何たるフラグ。
 なおこのNさん、背はやや低いが顔立ちは可愛らしく、茶髪でスカート短めの、制服を適当に着崩した、イケてる部類に余裕で入る方である。
 普通であれば、「ヨロシクゴチになりまーす!」一択だが、そこはチキンの小生、始まる前から終わり方を考えるタチである。
 そもそも弁当とは、実の母親でさえ「チッ、めんどくせえ。何で高校は給食ねえんだ」と毒づくほど面倒くさい代物(※個人差があります)。それを、彼氏どころか親友とも言い難い小生のために作らせるなどということが許されるのだろうか。
 更に、小生が食べた後の弁当箱を洗わせるなどという真似が、許されるのだろうか。何かそっちの方が恥ずかしい気がする。
 しかも、そうなったら小生は毎日Nさんから弁当を受け取らねばならないことになる。小生、規則正しい動きというものが全くの苦手であった。楽しみにしていたドラマも、毎週同じ時間にテレビの前にいるということができずに、まともに視聴できない駄目人間であった。
 何より、Nさんがめんどくさくてもうやめたくなった時、その空気感は地獄のそれであることを、小生は見抜いていた。
 ――これは、お互いに得よりも損の大きい申し出だ。
 そう懸命に判断した小生、Nさんにお断り申し上げた。

 この話は、図書室の片隅で行われた。それがどう漏れたか知らないが、小生のクラスの女子が、翌日にはこの話を知っていた。しかも弁当を断わったくだりは伝わっていなかったらしく、
「小生君て、4組のNさんと付き合ってるんでしょ」
と恐ろしい話になっていた。小生、頑張って訂正した。しかし小生のしょぼい鎮火能力では、江戸の大火のごとき女子高生の拡散能力には勝てなかった。
 小生はとにかく「違うんだ」と必死で否定し続けた。しかし彼女らはえへらえへらと笑いながら「へえ。ふーん」と頷いていた。
 そしてやって来たクリスマス、クラスの女子は「小生君はNさんと過ごすんだよねーえ」と抜かして来たので、頭にきた小生は、「だから違うっつってんだろ」と若干迫力を出して言ってみた。
 ようやく彼女らは「あ。マジで付き合ってないわこれ」と悟ったようだった。
 しかし彼女らの間では、小生とNさんの交際が既成事実化している。従って、出た結論は
「小生君はNさんにフラれたのだ(※イケてる度数の格差による方向付け)」
であった。
 かくして小生は、交際どころか、告白どころか、片思いでさえなく、恋愛感情すら抱いてないのにフラれるというミラクルを成した。無中生有とはこの事であろう。
 そんじょそこらの非モテではなかなか成しえまい。小生、快挙である。

 だが。
 Nさんとクラスの違う女子達は知りえないことだったのだが。
 小生がなぜ手製弁当に浮かれなかったかというと、当時のNさんには彼氏がいたのである。
 その彼氏というのが、Nさんの近所の歯科医(独身)であり、Nさんが中学生の時から交際していた。
 ここで小生が問題にしたいのは、その歯科医の嗜好や倫理観や日本国における未成年系の法律のことではない。当時あまり裕福ではなかった小生が「十個入って300円のロールパンを、三日に分けて食う」という食生活を送っており、それを見かねた心優しき女子生徒が施しの手を差し伸べようとしてくれたのに、しょうもないゴシップとしてその心遣いをヘラヘラ消費してくれた、大衆というものの腹立たしさなのである。
 たぶん。

 なおクラスの女子は、「クリスマス前に別れるなんてありえない。Nさん可哀想」とついでのように小生の株も落としていた。
 小生、残り火にさえ手も足も出なかった。勝手に作られた醜聞は、これまた勝手に終息した。
 小生、こうしてまた少し、女子が嫌いになったのだった。

 まあ、次の年には、新しい彼氏と腕組んで歩いてるNさんを、千葉県柏市のマルイで見かけたりしたのだが、それはまた別のお話である。


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このストーリーに関するコメント

16/11/30 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

弁当を断ったくだりが伝わっていたら、それはそれで面倒なゴシップが広まっていたと思います。正確さ皆無な噂話の被害に私も遭ったことはありますが、女子ながら共感を覚えました。語り口が軽妙で面白かったです。

16/12/05 クナリ

冬垣ひなたさん>
自分のいないところで、自分が勝手に形づくられていく怖さは、しゃかになってからはむしろ年上の男性からよく感じるようになりました(^^;)。
拡散って怖いな〜って思いましたね……。

17/01/09 光石七

軽妙な語り口で楽しく読めましたが、当時のクナリさんは大変だったでしょうね。
噂って怖い……。
報道でも、何が真実なのかわからないことがありますね。

17/01/14 クナリ

光石さん>
こまりものの報道といい、「自分は困らない」ことに大義名分がくっつけば、大抵のことはできてしまうんでしょうね。
もうちょっと面白おかしく書ければより良かったのかもしれませんが、こんな仕上がりになりました(^^;)。

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