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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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サイレントナイト

16/11/22 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:537

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いさおは窓の外のベランダのわずかなスペースに、妻と二人で小さなツリーをたてた。
妻が手製のモールや雪代わりの綿、ボール紙で作った星を無心で飾りつけているのをみた彼は、楽しかった子供のころを思いだして、ほほえましい気持ちになった。
「よく材料がみつかったね」
いまはもうどこも店はあけていないはずだった。彼も昨日街にでたが、スーパーもコンビニもシャッターがおりていたし、なかには無残に破壊されているところもあった。
ベランダ越しにのぞむ、日の落ちた地上にたちならぶ高層建築群はまるで、墓場のようにひっそりしていた。
遠くをみると、ときおり空間を縦に鋭く切り裂いて、赤い光の針が地上に突き刺さるのがみえた。侵略者たちの攻撃はいまなおつづいていて、あちこちにちらばる反乱軍を、完膚なきまでにたたきのめそうとしていた。
いさおも妻も、それらの光景をまるで別世界の出来事のような顔でながめていた。もはやいくらあがいたところで、我々人類が生き延びるすべはなかった。恒星間を飛びこえてやってくるほどの高度な科学力を築きあげた相手に対して、勝敗は戦うまえから決していたのだ。
いずれはここにも、侵略者はやってくる。先日も近所にひそんでいた家族が、つれさられるところをいさおは窓際から目撃した。つれさられたあとのことはわからないが、少なくともかれらは二度ともとの場所にもどってくることはなかった。ここも、いつまで安全かはわからない。逃げても、逃げなくても、危険はどこまでも追いかけてくるのだ。
「さあ、用意はできた。チヒロをよんでおいで」
妻はうなずくと、部屋にもどっていった。
いさおは、娘をつれて妻がもどってくるあいだに、ツリーの数か所にとりつけた小さなローソクにライターで火をつけていった。何軒もの無人の家々を探し回ってようやくみつけた貴重なローソクだった。赤や黄色の、たぶんこれは誕生日用のケーキにでも使うつもりでおいていたものにちがいない。しかしそのローソクはついに誰からも吹き消されることなく、食器棚の引き出しのおくにしまいこまれていたのだった。
そのときまた、さっきよりずっと近くで、赤い針が突き立った。音がまったくないのが、かえって不気味だった。侵略者の乗った船が空中から地上に放つ探査用光線で、甲虫の触覚のような役目をはたすらしく、周囲何キロの範囲にわたって、生命体の兆候をかぎとることができるとか。いまのはだいぶちかかったから、もしかしたらという不安がいさおの頭をかすめたが、いずれにしろそれは、早いか遅いかの問題にすぎなかった。
室内から、チヒロたちの声がきこえてきた。
彼は、おもむろにたちあがると、ベランダの隅に置いていた、ごわごわした布でできたものをひろげながら、身にまといはじめた。それは上下とも赤い色をしていて、痩せた彼にとっては少しだぶだぶしていた。服を着終えると、つぎは綿をのばしてつくった髭を顎にくっつけた。
カーテンから、妻が、そして娘のチヒロが外にでてきた。
チヒロは奇妙な服装のいさおを見るなり、いったいパパはなにをしているのだといわんばかり、ぽかんとしてこちらをみつめた。が、ローソクのあかりに、ゆらゆらとうかびあがるツリーに目をやり、ようやく彼女も今夜が、クリスマスだということに気がついた様子だった。
「チヒロ、メリークリスマス」
「パパ」
まだ幼く、いまのじぶんの気持ちをあらわすすべをしらないチヒロだったが、こみあげる歓びにかられてその場をとびまわった。
いさおは、いまこうして家族で、クリスマスをお祝いできることの幸せを、心からかみしめた。
「サンタさん、プレゼントは何をくれるの」
チヒロはいさおにむかって両手をさしだした。
そのとき、ベランダの向うの空間に、まんまるの物体が浮かんだ。重力を完全にコントロールして浮遊するその物体は、一目みて侵略者の乗り物だとわかった。
―――ついに、くるべきものがきたか。
いさおは観念した。避けられない運命なら、うけいれるしかない。あきらめの表情を妻とかわすと彼は、チヒロを抱き寄せようとした。と、その手が届くまえにいきなりチヒロは侵略者にむかってかけだした。
「サンタさん、プレゼントちょうだい」
赤い上下の、密閉した服に身をつつんだ侵略者は、口からたえずふきだす泡で顎から舌は真っ白におおわれていた。水から酸素をとりいれるため、生命維持装置にそなえつけられたタンクからたえず水をとりいれるかれらは、循環をくりかえすうちに水に粘り気がでてきて、それが泡となって口のまわりをとりかこむのだった。
「ねえ、プレゼント、ちょうだい」
そんな娘をみながらイサオは、もう一度口のなかで、
「メリークリスマス」
と、力なくつぶやいていた。


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