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あばよは二度は言わせない

16/11/21 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:1件 奈尚 閲覧数:608

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「いよいよ貴様も年貢の納め時だな! 怪盗コウモリ」
 豪奢な屋敷のパーティルーム。その床がぱっくりと割れて、きらびやかな部屋の様子にそぐわない落とし穴を形成している。無様にも穴に落ちた怪盗を前に、刑事は高らかに笑った。
「神出鬼没、狙った獲物は逃がさないとうたわれたお前も、このカラクリ屋敷からは抜け出せなかったとみえる」
「フッ、せいぜい今のうちに喜んでおきたまえ」
 嘲笑を浴びせられても、怪盗コウモリは冷静な態度を崩そうとしなかった。
「だが刑事さん。まだ勝負はついておらんことを忘れるんじゃないぞ」
「ハハン。そっちこそ、今のうちにありったけの負け惜しみをほざいておけ。どんなに泣きわめこうが、その汚い腕に手錠がかかれば最後、貴様は二度とお天道様を拝めなくなるんだからな。ま、コウモリとしてはその方がありがたいかもしれんが」
 先ほど本部に連絡をしたが、怪盗コウモリを護送する手筈が整うのは明日になるとの返事だった。
「明朝には牢屋へ運んでやる。それまでは、そうして床に這いつくばっているんだな。あばよ」
 捨てゼリフを残して、刑事は落とし穴の扉をぴしゃり、と閉めた。

「これで奴も一巻の終わりだ」
 数時間後。刑事はホテルの自室で一人、祝杯を挙げていた。この時のためにととっておいた最高級の赤ワインが五臓六腑に染みわたる。
 落とし穴の前には多くの警官を配置してきた。万が一、奴が出てきても逃げ道はどこにもない。
「もう、奴の影に日夜怯えることなんてないのだ」
 嬉しさがこみあげてくる。と、そんな彼にワイン瓶の口が差し出された。
「お、これはどうも」
 空になったグラスにワインを注いでもらう。と、そこでハッとした。
「だ、誰だっ!」
 この部屋には自分一人きりしかいない筈だ。酒を注いでもらえるわけがない。グラスを手放し勢いよく立ち上がる。怪盗コウモリその人が、ワイン瓶を手に微笑んでいた。
「おいおい、せっかくのワインが台無しじゃないか。それに、赤ワインは染みになるんだ。後でボーイが泣く」
「貴様。何故ここに。落とし穴の中にいる筈じゃ」
「なに簡単なことさ。君がくれた捨てゼリフ通りに這いつくばっていたおかげで気がついたんだがね、あの落とし穴には床の所に、捕虜を窒息させないための小さな通風孔がつけられていたんだ。厳重に錠がかけられていたが、そんなものが私に対して役に立たないことは、君もよく知っているだろう」
「た、逮捕だ」
「いいね。私もその為に来たんだ」
 笑顔で頷くと、怪盗コウモリは素早い動作で刑事に近づき、そして彼の手に手錠をかけた。
「へっ?」
「いい加減、三文芝居はやめたらどうだ。【怪盗コウモリ】」
 先ほどとはうって変わった、唸るような低い声ですごむ。そして刑事の顎に右手、自分の顎に左手をかけると、まるで皮を剥がすように勢いよく腕を振り上げた。
「わ、わ、待て。やめろ!」
 べろん、としか形容ができない音がして、二人の顔を覆っていた皮がめくれあがる。いや、皮のように見えたのはフェイスマスクだった。そして、刑事のマスクの下からは怪盗コウモリの顔が、怪盗コウモリのマスクの下からは刑事の顔が、それぞれ現れた。二人は互いに変装し合っていたのだ。
「私に化け、罪は全て私に着せてまんまと逃げおおせようとしたんだろうが、そうは問屋が卸さなかったな」
「むむ、こうなっては仕方がない」
 パチリ、と指を鳴らす怪盗。するとまるで手品のように、手錠が怪盗の腕から抜けてしまった。呆気にとられる刑事。高笑いが部屋に響き渡った。
「なかなか面白かったよ。やはり君は私の好敵手だ。好敵手というのはこうでなくてはいけない」
 けたたましいエンジン音が近づいてくる。いつの間に呼んだのだろう、一台のヘリが、ホテルの壁に寄り添うようにして窓の外に現れた。
「貴様、逃げるつもりか」
「ふふん。本来なら逃げるなんてあさましい言葉を、この私に向かって使ってもらいたくないのだが。今日のところは、優秀な刑事である君に敬意を表して、甘んじて受け入れるとしよう」
 窓から勢いよく身を躍らせ、右手でヘリのスキッドにつかまる怪盗コウモリ。
「あばよ刑事さん。縁があれば、また会おう」
 空いている左手で気障ったらしく敬礼をする。しかし、刑事は落ち着き払っていた。
「馬鹿野郎。敬礼は右手でするもんだ」
 そう言うや否や、刑事も窓からひらりと身を投げ出した。離れようとしていたヘリの足を器用につかむ。コウモリの顔が蒼くなった。
「お、おい貴様、何を」
「今日という今日は、何が何でも貴様を捕まえると決めたんだ。たとえ空の上だろうが、地獄の底だろうが付き合ってやるさ」
「なんて執念深い奴だ」
 呆れてため息をつく怪盗。刑事はにやりと口角を上げた。
「あばよは二度と言わせねえよ」


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