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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
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自分勝手な杭

16/11/21 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:705

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「先生、あ〜ん」私はナイフで切り分けたローストチキンを先生の口元へ運ぶが、顔を背けられる。「どうしたんですか。食べてください」
「まず、この体勢をどうにかさせてくれ」
「そんなこと言って、逃げるつもりでしょ」
「違う。僕は成瀬と、落ち着いた状態で話がしたいんだ」
「じゃあその後、私と二日間、一緒に過ごしてくれますか?」
 この質問には、嘘でもイエスと言わない。
「ごめん。それはできない」

 若田先生はいわゆる熱血教師で、生徒一人一人と向き合い、心でぶつかる。みんなから頼りにされている先生なのだ。
 だからこそ、いつも暗い表情でなにを考えてるんだかわからない私のことを放ってはおけなかったらしい。

 クリスマスイブ前日、わざわざ私の家まで来て、悩みを聞いてくれた。
「うちは母子家庭で、母は夜の仕事なので家を空けることが多いです」「お金は必要最低限だけくれます。暴力的な虐待は受けてません」「ただ、母は私に対して無関心です。興味がないんです」「仕事がお休みでも、母は外で男の人と飲み歩いてるんです」「私、正直寂しいです」
 一方的に私は内なる想いを吐き出す。こんな話をされたって、解決方法なんてない。正直、困惑するだけだと思っていた。

「成瀬とお母さんの関係をすぐに良好な状態へ持っていくのは難しいだろう」「だけど、なにもしないとなにも変わらない」「僕もできる限り協力するから、困ったことがあれば遠慮なく言うんだぞ」
 先生の言葉は、孤独で凍える私の心を溶かしてくれた。それ故、私を救ってくれる神様だと思えた。だから私はーー。

「困ったことがあれば聞いてくれるって言ったじゃないですか」
「人の飲み物に薬入れて、寝てる間に拘束するだなんて、やり方が間違ってる」
 先生はテーブルを挟んで向かいの、白い壁に磔にしてある。両腕は左右に伸び、その手首には革のバンドが巻かれ、壁に取り付けた金具へきつく固定した。もちろん、足首も同様。ホームセンターで一式揃えて作ったのだ。

「でも先生は、どのみち私とクリスマス、過ごしてくれないんでしょ?」
「と言っても、もうイブの夕方だけどな。……悪いが、待ってる人がいるんだ。息子が楽しみにしてるんだよ」

 生徒のことを第一に考えてくれる先生だと思っていたのに、結局家族が一番なんだ。
「それじゃあ“僕が力になる”なんて、無責任なこと言わないでくださいよ。みんなが楽しそうに過ごしてるクリスマス。私は毎年一人だった。だから先生の言葉がすごく嬉しかったのに……」
「ごめん、成瀬。僕が悪かったよ。だけど、今日はどうしても駄目なんだ」
 先生が浮かべる切なげな表情を、私は見逃さなかった。
「そんな大事な日なんですね。クリスマスって」
「あぁ」
「それなら私、」
「……」
「なおさら一人でいたくないです」
「成瀬……」

 先生は弱々しく私の名前を呟くと、諦めがついたのか項垂れた様子を見せる。

 その後、私がいくら話しかけても先生はなにも応えてくれない。無言の状態が四時間も続いた。

 先生まで私に関心を無くしちゃうの?

「帰りたいですか?」
「……」
 先生は無言で頷く。
「当たり前ですよね」
 こんな質問自体、ナンセンスだ。 
「あのさ、僕考えたんだけど」
「えっ、なんですか」
 このタイミングで先生は、一体なにを言い出すんだろう。
「よかったら僕の家、来るか? 成瀬も僕の家族と一緒にクリスマスを過ごせば、寂しい思いしなくてすむんじゃないか」
 先生の意外な提案に、私は心の底から驚く。
「いいんですか?」
「あぁ。なんでこんな簡単なこと、今まで思いつかなかったんだろ」そう言って先生が笑うので、私もつられて笑う。「もう夜も遅いし、そろそろ僕も限界だからさ、コレ外してくれないかな」
 その問いかけに、私は首を何度も縦に振る。
 私は、にやけ顔を先生に見られないよう拘束具を取り外した。じんわりと心が温かくなってくる。

 ーー次の瞬間、私は肩の辺りに鈍い痛みを感じ、テーブルの方へ吹き飛ばされた。せっかく作った料理が混ざり合って、吐瀉物みたいに床へ散らばる。どうやら私は先生に、思い切り蹴り飛ばされたようだ。

「ちょっと、なにするんですか!」
「家族団欒の場に、なんで僕が無関係な人間呼ばなきゃいけないんだよ! アホか!!」
「せ、先生」
「やっと解放しやがったな! 他人様のクリスマスを台無しにしやがって!! お前、絶対許さねーからな」
 そう吐き捨てると先生は、ハンガーにかけたコートをぶん取るようにして羽織り、乱暴にドアを開く。先生は寒空の下へ駆け出した。

 ーー私のつかまえたキリストは、罪なことを言うだけで、贖罪もせずに逃げてしまった。
 開きっぱなしの扉から部屋に入り込む冷たい風は、私の心を再び凍えさせる。


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