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宮下 倖さん

宮下 倖です。 楽しくたくさん書いていきたいです。

性別 女性
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妹からひとこと

16/11/21 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:641

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 かすかな身じろぎと小さな欠伸に続いて、ふとんから抜け出す遠慮がちな気配がとなりで生まれた。こちらを窺うようなわずかな間があったけれど私は眠ったふりをする。淋しげな吐息を背中で聞いたときは少し胸が痛んだけれど、私は動かなかった。
 身支度をする密やかな空気の流れを全身で感じる。戸口に向かう足音が止まり、「薫、あとでね」という柔らかな声を残して部屋のドアが閉まる音がした。私はふとんの中でぎゅっと目をつぶる。体の中でいろんな感情が渦巻き、出口を求めて暴れ出す。目を閉じ、息を詰めて体を丸めていないとひどいことを叫んでしまいそうで怖かった。


「薫、起きてるの? 遅れるよ!」

 どれくらい経ったのか、私は母の苛ついた声にのそのそと体を起こした。ドアを開け「今行く!」と階下に声を投げてから、気乗りしない感情と体を無理矢理動かす。パジャマのままキッチンに入ると、振り返った母が悲鳴を上げた。

「あんたまだそんな恰好してるの!?」
「服もメイクも向こうで予約してるもん。……響は?」
「とっくに出たよ。花嫁さんは支度に時間がかかるんだから」

 ふうんと口を尖らせながら椅子に座ろうとした私のお尻を、母が「顔くらい洗ってきなさい!」とたたいて追い立てた。


―― * * * ――


 私と響は同じ日に生まれた。鏡に映したように同じ顔、同じ仕草、声も話し方もそっくりな双子。何をするのも一緒だった。離れることなんて考えもしなかった。私の半身、たいせつでかけがえのない存在。そんな姉の響が結婚をするなんて、この家を出るなんて、祝えるわけがない。今日が式当日の朝だって、私は納得なんかしていないのだ。

 それでも時間は無情に過ぎるし、両親はそれ以上に非情に私を車に押し込むし、気づけば薄いグリーンのワンピースに身を包みそれに似合ったメイクを施された私は、「妹からのお祝いスピーチ」を読み上げるべくマイクの前に立つところまできてしまったのだった。


「……ただいまご紹介に預かりました新婦の妹、薫と申します。ご覧になっておわかりのように、私と響は双子の姉妹です。生まれたときから……いいえ、生まれる前から母のお腹の中で共に過ごしてきました」

 まあ本当にそっくりねえと言い交わす声が耳に届く。鏡に映したように同じ顔。でも、私たちの性格は大きく違う。大らかで寛容、気遣いが濃やかな響に対し、私は気弱を隠すために虚勢ばかり張って後からぺっちゃんこになるタイプだ。そんな私をいつも響は励まし、守ってくれた。

「姉だから妹だからなんて……双子ですから大して意識はしませんでしたが、響は私をいつも守ってくれるお姉ちゃんでした。本当は気の弱い私のこと、それを隠したくてつい空威張りしてしまう私のことをわかってくれるいちばんの理解者でした」

 わずかに息を継いだ一瞬、高砂の響と目が合う。響は、私がまだこの結婚にふてくされていると思っている。それは、気遣わしげにこちらを見る表情で察せられる。
 でも……でもね、響。

「私も自分が響のいちばんの理解者だと思っていました。だけど、もっとすごい理解者が傍にいました。隆英さん……いえ、幼馴染のタカ兄がその人でした。思えばタカ兄は昔から私たちを間違えたことがなかったんです。騙そうと思いわざと演技したこともあったのに、こんなにそっくりな私たちを間違えませんでした」

 本気でやれば両親をも騙せた私たちだったのにいつもタカ兄は見抜いた。たぶん、ずっと響のことが好きだったからだ。私と響の同じところではなく、私と響の違うところに敏感だったからだ。

「響がずっと私を守ってくれたぶん、私もいつか響を守るんだと思ってきました。でも弱い私はなかなかそれができなくて……。だから今、タカ兄にその役目を任せることが本当はちょっとだけ悔しいです」

 響のとなりでタカ兄が笑っている。わかってるよというふうに。ああもう、本当に悔しい。

「響、タカ兄。本日はご結婚おめでとうございます。本当は嬉しいくせに、素直になれない妹からの一言です」

 私はマイクから一歩退いて、高砂のふたりにまっすぐに向き合った。

「響、幸せにならなかったら絶対に許さない! タカ兄、響を幸せにしなかったら絶対に許さない!」

 わっと拍手が湧く。せっかくきれいにメイクしてもらったのに、私の顔きっと台無しだ。見れば響の顔もくしゃくしゃで、たぶん今私たちは鏡に映したように同じ顔なんだろう。


 あんな捨てゼリフみたいな乱暴な言葉、でも私には精一杯のお祝いの言葉。
 伝わるかな、伝わったかな。
 目の前をひらりと舞った純白。首に回された柔らかな腕。涙で溶けた「ありがとう」が幸せの螺旋を描き、きらきらと輝きながら私の耳元を撫でていった。


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