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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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捨て台詞を笑う者は捨て台詞に泣く、かもしれない

16/11/21 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1372

時空モノガタリからの選評

 文字通り、捨てられたものとして「捨て台詞」を扱った作品は他にいくつか見られましたが、それ以外の要素がユニークだと思います。小説家志望の青年が「著作権」などを気にして遺失物として警察に届けてしまうという展開は新鮮でした。思いがけない落し物に、警察の困惑した対応が目に浮かぶようです。青年の言い分は確かに「何かがずれている」とは思いますが、以前よりも著作権などの権利関係に厳しい昨今では、実際そのおかしな主張も現実味を帯びてきそうな気もします。ラストの「捨て台詞」という言葉の意味をそのまま生かしたオチもうまいと思いました。

時空モノガタリK

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 ある日の午後、丸跋交番に一人の青年が訪れた。
「落とし物を届けに来ました」
「どうぞ、こちらにお掛けください」
 新米警官の沢津はにこやかに椅子を勧めた。先輩の矢内は午前中の物損事故の書類を仕上げている。
「さっき、バイト帰りに拾ったんです」
 背中からリュックを下ろし、青年が話し出す。沢津は拾得物件預り書を用意し、机を挟んで青年と対座した。
「星印書店の脇の路地に入って五十メートルくらい進んだとこで、道端に転がってて」
 言いながら青年がリュックから取り出したのは、手のひらサイズの紫の球体だった。
「ガチャガチャのカプセルですかね?」
「いえ、台詞です」
「……は?」
「もっと言えば捨て台詞ですかね。言葉の内容的にも、落ちてたって意味でも」
 青年の返答に沢津は困惑した。
「中を見ればわかります」
 青年に促され、沢津はカプセルを手に取り開けてみた。小さなカードが入っている。
「……『幸せになりやがれ、バーカ』?」
 沢津が印字された言葉を読み上げると、青年は嬉しそうに語り始めた。
「最高の捨て台詞ですよね? 僕、作家志望で、中坊の頃から小説書いてるんです。でも最近スランプで。アイデアも湧かないし、全然書けなくて、いっそ筆を折ろうかって思い詰めてて。それが、さっきそれを拾って読んだ瞬間、スパーンってインスピレーションが降りてきて。どういう状況での誰の台詞で、そこに至るまでに何があったのか、ストーリーもキャラクターもどんどん膨らんで、一気に構想が固まったんです。これなら湖崙文学賞も狙える、プロへの道が開ける。早く家に帰ってパソコン開こうと思ったんですけど」
「はあ……」
「だけど、僕の小説が広く読まれるようになった時、この捨て台詞の落とし主が名乗り出てこないとも限らない。後から盗作だの著作権だの騒がれたり、印税をよこせと脅されたりしたらかなわない。そこが不安になって。だから、警察に届けることにしました。三か月経っても落とし主が現れなければ、僕のものですよね? 正式に僕の台詞と認められれば、堂々と書いて発表できる」
 何かがずれている自己中心的な言い分だ。どう返すべきか沢津が困っていると、矢内が来てくれた。沢津の隣に座り、青年に言う。
「確かに、三か月以内に落とし主が判明しない場合は、拾い主の所有権が認められます。こちらにお名前と住所、連絡先をお願いできますか?」
 矢内は青年にペンを渡し、拾得物件預り書に記入させた。そして拾った場所やカプセルの特徴などを書き込み、拾い主の権利を放棄しない旨を青年に確認した。判を押し、控えを青年に渡す。
「落とし主から届け出があった場合、もしくは落とし主が不明のまま三か月過ぎた場合、ご連絡しますので」
「受け取りにこの控えが必要なんですよね?」
「はい」
 喜々として帰る青年を見送った後、沢津は矢内に頭を下げた。
「ありがとうございました。ああいう手合いは不慣れで……」
「拾った人間がどんな奴だろうが、動機が何だろうが、拾得物の届け出にはさして関係ない。どんなにちゃちな拾い物だろうが、こっちはやるべきことをやるだけだ」
 矢内の言葉に沢津は頷いた。
「そうですね。しかし、三か月後に受け取る気満々でしたね」
「三か月きっかりに向こうから連絡してきそうだな。ま、それまでこいつには本署の保管庫で眠っててもらおう」
 矢内はカプセルを手のひらに載せた。
「拾われて、大事に保管されて……。『捨て台詞』って言葉、合わなくないですか?」
「お前、全然うまくないぞ」
 矢内に小突かれ、沢津は頭を掻いた。

「なんで消えたんですかねえ……」
 沢津が力なく呟く。
「保管庫の管理は会計課の責任だろ。なんで俺らが叩かれるんだ」
 矢内は仏頂面だ。
「向こうにしてみりゃ担当者は俺たちで、警察全体が一括りなんじゃないですか」
 『捨て台詞』の落とし主は結局現れなかった。ところが、拾い主の青年に連絡を入れようという段階になって、当のカプセルが無くなっていることが明らかになった。青年は激怒し、「小説は書き上がってるのに、台詞の所有権をどうしてくれるんだ!」と、やはりどこかずれた主張を喚いた。
「お前ら、絶対許さねえ!」
 そう言い放った青年は、「市民の善意をないがしろにしている」だの「警察の怠慢」だの、矢内たちを名指しにしてSNSに書き込んだ。その反響は大きく、マスコミまで動き始めている。
「保管庫への出入りは制限されてるはずだし、盗んだところで金にはならなそうだし……。やっぱり『捨て台詞』じゃなくなったから、『捨て台詞』としての存在を保てなくなって消えたんですかね?」
「呑気に馬鹿言ってる場合かよ。捨て台詞の一つでも言いたいのはこっちだ」
「すみません」
 沢津は縮こまった。矢内は顔をしかめたまま、深いため息を吐いた。


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このストーリーに関するコメント

16/11/21 霜月秋介

光石七さま、拝読しました。
私もその捨て台詞からインスピレーションがスパーンと浮かんで来ちゃいましたよ(笑)でもすぐ消えそうです。
なぜ捨て台詞が消えたのか?沢津さんのいう通り、捨て台詞じゃなくなったからなのか、捨てた本人の意思で消えたのか?疑問ですね。

16/11/28 光石七

>霜月秋介さん
コメントありがとうございます。
私も本来は作中の『捨て台詞』がクライマックスになる物語を書こうと思ったのですが、スパーンと降りてきたのは『捨て台詞』だけでした(苦笑)
捨て台詞が見える形で落ちていたら、それを拾ったとしたら……という案もあったので、組み合わせて書いてみました。
『捨て台詞』が消えたことで起こるドタバタをもっと書き込めば、話としての盛り上がりも増したかなあと思います。消えた理由はあまり重視してなかったですね(苦笑)
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。

16/11/30 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

物書きとしてはそそられる捨てゼリフですね。こんな世界観なら、あちこちに落ちていないか探してしまいます(笑)。どのような保管方法なら良かったのでしょう、地面にポンと放置したまま遠くから見守るとか……色々警察は大変です。

16/12/04 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
作中の『捨て台詞』に興味を示してくださり、うれしいです。
捨て台詞が目に見える形で落ちているなら、私も探して拾って小説のネタに使いたいですね(苦笑) ……あれ? 拾ったら『捨て台詞』じゃなくなるかしら?(笑)
“捨てられた台詞”としてこじつけて書きましたが、楽しんでいただけたのでしたら幸いです。

16/12/04 佐川恭一

光石七さま
拝読しました。
「捨てゼリフ」が本当に物理的に捨てられているセリフだ、という発想に感動しました。思いつかなかった…笑
警察側のやり取りもリアリティがあって、短い中でしっかり世界が立ち上がっていてすごく面白かったです!

16/12/05 待井小雨

拝読致しました。
捨てゼリフを巡るどたばたとしたやりとり、とても楽しませていただきました。
拾われて、あまつさえ大事にされたりなんかしちゃったら、確かに「捨てゼリフ」ではないですよね(笑)
落とし主もうろうろ道を探したりなんかしたのかな、と想像してしまいました。

16/12/08 あずみの白馬

光石七さん、拝読させていただきました。

落ちの深さに唸らされました。
捨てゼリフが捨てゼリフでなくなったから存在価値が無くなった。
これぞ掌編といった感じで、見事なオチが決まっていたと思います。

16/12/11 光石七

>佐川恭一さん
コメントありがとうございます。
「捨てるなら拾うこともあるんじゃない?」という単純な思いつきと、ふと浮かんだフレーズを組み合わせてみました。
実はこの話を書く二週間ほど前、出先で落とし物を拾い交番に届けまして。生徒手帳だったので拾い主の権利も連絡をいただくのも遠慮しましたが、そのことが頭の片隅に残っていたのかもしれません。
面白かったとおっしゃっていただき、うれしいです。

>待井小雨さん
コメントありがとうございます。
『捨て台詞』という言葉へのこじつけ、言葉遊びのような発想で、話の体裁を何とか整えた感じでしたが、意外な高評価をいただき戸惑っております。
落とし主のことはあまり考えてなかったです……(苦笑)
楽しんでいただけたようで、うれしいです。

>あずみの白馬さん
コメントありがとうございます。
オチ、決まっていましたか? 無理矢理だなあ、と自分では思っていましたが。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

17/02/20 タキ

初めて時空モノガタリに来た昨年末、ここで読んだ最初の小説がこの作品でした。
作家志望とか賞に関する内容が、今から作品を応募しようとする自分と、不思議なリンクをしているような気がしながら読んだものです。三か月後に、応募作が箸にも棒にも引っかからず、捨て台詞を心中で吐きながらここから去る事になってたらイヤだなー、なんて苦笑して。
個人的な話で恐縮ですが、思い入れのある作品です。

17/02/21 光石七

>タキさん
もったいないコメントをありがとうございます。
拙作をそのように読んでくださっていたとは。ありがたすぎて泣きそうです。
未熟な自分が書いたものが誰かの心に残る喜び。タキさんのコメントで、初心に返ることができました。

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