1. トップページ
  2. 拾い屋

守谷一郎さん

細々と書いてます。どぞ、よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

拾い屋

16/11/19 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 守谷一郎 閲覧数:590

この作品を評価する

 僕は拾い屋。人が吐いて捨てた台詞を集めるのが仕事だ。
 人は掃きだめ業者なんて揶揄するけれど、僕は存外この仕事が気に入っている。
 ここには貝塚のように言葉たちの残骸が積み重ねられていて、僕はひとつずつ拾いながらそれらにどんなエピソードが込められていたのか想像する。

 例えば、前に拾った台詞はよかった。ポケットのなかを探ってソレを取り出してみる。

   『ジジイ!覚えてろよ!』

 昔の漫画みたいなテンプレートな捨て台詞だ。
 見慣れたようでいてこんなことを言う人が本当にいたのか、と少しこそばゆいような気持ちになる。
「ジジイ」と罵るからには僕と同じくらいの歳の人が言ったのだろうか。
 たぶんこの若者はチンピラみたいなはみだし者で、きっとおじいさんにいいようにやられてしまったに違いない。
 もしかしておじいさんは武術の達人で、強引なナンパに困っている女の子を助けるために獅子奮迅、みたいな。
 捨てられた台詞からそんな空想をするのが好きだった。

 今日はどんな台詞が見つかるだろうか。
 高揚する気持ちを抑えもせず、山のように積み重なるそれらへ今日もシャベルを突き立てる。

 ザクザクザクと小気味のいい音がして数時間。
 しばらく夢中になって掘っていると、珍しい色をした台詞を見つけた。

   『好きだったよ。ずっと待ってる』

 手に取ってみるとずいぶん小さい。
 これはどういうシチュエーションだったのだろう、と僕はさっそく想像を巡らす。
 花火が上がる景色を背に、男子高校生が幼馴染の女子高生に告白する。
 女子高生には意中の人が別にいるのを、その男のコは知っている。それでも、気持ちを抑えることはできなかった。
「いまは自分に振り向いてくれなくていい。でも立ち止まって横を向いたとき自分は傍にいる」
 うん、きっとそうだ。これはいい。

 僕がソレをウキウキしながら膨らんだポケットに収めようとすると、後ろから声をかけられた。
「ねえ、それ私の・・・!」女性の声。小さく「だったの」と付け足される。
 30歳を過ぎたOL風の女性が拳を固く握りながら立っている。
 これ?と僕が掲げるとその人は唇を噛みながらゆっくり頷いた。
 どうやら僕の空想は随分的外れだったらしい。そういうこともある。
「こんなこと今更いう権利なんてないのかもしれないけど」僕と目を合わせないで彼女は言う。
「捨てたけど、やっぱり捨てきれないの」

 ここに戻ってきてまで捨てた台詞を取り返したいという人は少ない。だって、捨て台詞は恰好悪くて、考えなしで言われたことが多くて、もう二度と見たくない言葉がほとんどだからだ。『ジジイ!覚えてろよ!』なんて台詞は人生で一回言えばお腹いっぱいだ。
 でも、本当にたまにこうして、もう一度同じ風に、同じ人に向って、同じ気持ちを込めた弾丸を放ちたいという人が僕の前に現れる。
 そんなとき僕はどうするか。
 一度捨てたんだからもうこれは僕のもの、と意地悪してもいい。けれど、せっかく来てくれたんだから返してあげるのもやぶさかじゃない。
 結局、少し「もったいない」と迷いながら、僕は彼女に台詞を渡してあげる。
「でも、もう一度言っても同じ結果になるかもしれないけど」
 受け取った台詞に彼女はまごつく。
 どうして彼女がこんな捨て台詞を吐いたのか、その真実を僕は知らない。けど、せっかく拾った台詞をそのまま胸のうちに隠されてしまうのもモヤモヤする。
「そうしたらもう一度捨てにきてくれればいいよ」
 結末がハッピーでもバッドでも、想像したのが真実でなくても、僕の仕事は捨てられた台詞を拾うことだ。
 彼女は目をぱちくりさせて驚いた後、「そうね。3回目はたぶんどっちにしろ言わないだろうから」と笑う。
 どうしておかしいのか僕にはよくわからなかった。
 けどその表情は悪くない、とも思った。
「待ってるよ」何の気なしにでた言葉に、「ありがとう、拾い屋さん」と彼女が去り際にお礼を言う。やっぱりそれは笑いながらだった。

 僕は誰もいなくなったその場所をしばらく見つめていたあとに、「どういたしまして」と手を振ってから背を向ける。
 さあ仕事に戻ろう。
 山のような台詞たちをまえに、僕はどこから手をつけてやろうかと、腕まくりをして意気込んだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン