糸井翼さん

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カブ

16/11/19 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 糸井翼 閲覧数:571

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「カブね」
彼女のつぶやいた捨て台詞が忘れられない。だって、あまりに不可解じゃないか。
彼女とは、少しずつ仲良くなって、一年くらい経った。彼女の誕生日は十二月。ちょっと格好いいプレゼントをあげるぞ、と思って、詩を贈ることにした。前に自作の詩を彼女に褒められたことがあったからだ。文学研究部の僕は、その褒め言葉だけで、恋のスイッチが入ってしまったわけだ。笑うなよ。
彼女はフランスに留学経験のある、優秀で社交的な女性だった。英語、フランス語ともに堪能。さらに、性格もさっぱりしていて、男友達も多い。だから恋愛のガードは間違いなく固い。それくらいのことは鈍い僕でも分かっていた。一年もかけてじわじわ距離をつめていく作戦だったんだ。その最終局面としての詩のプレゼントだった。
僕のプレゼントに、かなり驚いたようだった。僕の恋心がにじみ出る詩だったと思う。要するに、文学が得意な僕なりの告白ということだ。彼女は文学も好きそうだったし、気づくはずだ。絶対に。
彼女は言った。「ありがとう・・・これは・・・」
「誕生日おめでとう」
彼女は驚いた表情のまま、僕の詩をかばんにしまって、あの不可解な言葉をつぶやいた。「カブね」
「え、カブって」
「え、あ、この時期カブおいしいよね。」彼女はにっこりした。ごまかされた。
彼女の真意が分からない。そもそも僕に向けて言ったのかどうかも分からない。独り言のようにも思える。それ以来、何か彼女の態度が変わったかと言えば、そうでもない。だから告白が伝わったのかどうかすらわからない。直接聞くのも野暮ったいし。悶々する。
このことを、前から彼女のことで相談している友達に話してみた。
「何か聞き間違いじゃないの」
「いや、間違いないって」
「カブ・・・食べ物だよな。冬が旬だし、褒めていたんじゃないのか。うまいぞ、みたいな」
「しょうもないこと言うなよ」
「それか、何かことわざとか。文学ネタかも。そういう小説とかないの」
「大きなカブとか・・・大きくてカブが抜けないやつだけど」
「まさに、一筋縄にはいかない謎かけってことか」
こうなってくると、気になって仕方がない。彼女からのヒントも答えもないが、僕には、この彼女の言葉は深い意味が隠されている気がした。最近のよそよそしい態度は、気づいてよ、文学研究部のあなたならわかるよね、という彼女の思いがあるのかもしれない。うん、きっとこの謎解きを解いてみせる。
インターネットで調べてみる。何度も調べてみたことなのだけれど。一応、食べ物のカブ以外も調べてみた。カブというと、オートバイが出てくるが、関係があるとは思えない。却下。株、ということなのだろうか。切り株、株価・・・見えてこない。やはり、最初に思っていた通り、カブは食べ物の、植物の、あのカブだろう。
カブで調べると、やはり、レシピや栄養の内容が多い。冬が旬であることは間違いないが、何か関係があるのだろうか。ことわざのようなものも調べたが、「カブはウズラとなり、山の芋ウナギになる」くらいだ。意味もめったにないことが起こるというようなもので、ぴんと来ない。なにより、「カブね」という言い方とは合わないだろう。
いろいろ調べたが、わからない。ばかばかしくなってきた。ふと、机の横の地球儀が目に入った。そういえば、彼女はフランスに留学していたな。フランス文学にも詳しかったはず・・・。フランス語のことわざはどうだろう。
調べて、ようやく結論が出た。そして、がっかりした。そういうことか。彼女の気持ちはだいたいわかったよ。
「え、で、なんだったの」友達は聞いてくる。
「フランスの語のことわざでね」
「うん」
「カブは駄作ということらしい」


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