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ゆみさきさん

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ママはもう他人

16/11/17 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 ゆみさき 閲覧数:848

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「ママなんて大っ嫌い!!」

そう言って、勢いで家を出た。言った瞬間は確かに爽快。でも、数分後には後悔するのがいつものパターンだ。

暗い街を歩きながら、亜香里の目には涙が溢れていた。

母のことを嫌いなのは、事実である。だから、私は、正直に自分の気持ちを相手に伝えた。私がしたことは何も悪くないはずだ。しかし、気持ちを相手にストレートに伝えた自分が、どうしようもなく幼く感じた。実際に、気持ちを正直に母に伝えれば伝えるほど、家族の関係は悪くなり、私は居場所を失っていった。私が今していることは、不合理で無意味なことだ。私には何の利益もないし、人間関係のすべてが負の方向へ動き出してしまう。
きっと、大人になるとは、自分の気持ちを相手に直接言わずに、遠回りして、オブラートにくるんで、必死にかみ殺して、自分自体を他の「何か」に変えることなんだと思う。そうしないと、私はまた誰かと衝突して、傷ついて、苦しんでどこにも居れなくなってしまうんだろう。要するに、今私は他の「何か」に変わらなきゃいけない。でも、私にはそれをすることが出来ない。本当はありのままの自分を愛してほしい。「甘え」や、「今の私を受け入れてほしい」っていう願望から、こうやってナイフの様な言葉をなげつけることしか出来ない。私はまだ大人になりきれなくて、すべてを壊して、自分を粗末に扱って、こんな寒い夜に一人で外で歩いている。この状況を綺麗に解決する方法がわからないのだ。また家の中で自分の居場所を失ってしまったと思うと、素直に悲しかった。 

瞳にあふれてくる涙を、必死に戻す努力をしながら、亜香里はどこに行こうか考えていた。

母の愛情を、愛情でないと気付いたのはいつからだっただろう?
彼女は私のことを、何かの商品だと思っているんだ。
商品はもちろん社会的に強力なラベルがついていなくちゃいけない。そうじゃないと客に魅力的じゃないのだ。カッコいいラベルがついていない商品はゴミと同じ。母の理論は単純明快で、私も理解できる。でも、じゃあ商品に対する愛はないの?って考えるようになってから、母は本当の意味の愛情がないと気付いた。

きっと、私はそこまで強いラベルを持ってない。だから、母は私を粗末に扱うし、それが当然で普通だと思っている。私が母の態度に気づいて拗ねたり、暗くなっていたりしたら、母は「あの子はなぜか曲がって育ってしまったんだ」って笑って誰かに言うだろう。結局、全部私のせいにされるんだ。母は、自分が悪いだなんて、一秒も考えたことがない。所詮私は商品なんだから、不良品を大切にしないのは当たり前なんだ。

そう考えたら、私は素直に笑えなくなった。

強いラベルを獲得できなかった自分を責め続けた時期もあったが、私の母親には愛情が元々無かったという事実の方が、苦しくて辛くて逃げたくなった。


亜香里は一番近くにある喫茶店に吸い込まれるようにして入った。ホットティをひとつ頼んだ。周りにほかの客がいることを確認し、心を落ち着かせていた。


名も知らない、性格もしらない人たちと距離を置きつつ、同じ空間にいることを亜香里は好んだ。「この人たちは私の闇も希望も知らない、でも何食わぬ顔をして生きている。私他人から見れば何食わぬ顔をして生きている。」こんな単純な事実だったが、亜香里は名もない味方を手にいれた様な気になっていた。

「でも、よく考えたら、ここにいる人たちも本当は私の敵なのかもしれない。味方なんていないのかもしれない。」 そう考えたら、何もかもがどうでもよくなって、亜香里は出された紅茶をじっと見ることしか出来なかった。


「ママなんて、大っ嫌い!!」

亜香里は、自分が言った言葉を頭の中で繰り返した。
そうだ。私は自分の母が嫌いだよ。言ったことは事実だった。


でも、もうこの言葉をいうのはやめよう。

亜香里は心の中で、そう小さく誓った。これは、もう母親に甘えないという、亜香里なりの強い決意だった。「今の自分を受け入れてもらおう」と考えるのは、もうやめることにした。同時に、母親はもう他人であり、自分は自分でない「何か」になりきって、母親から傷つかないように生きていこうと思った

紅茶をすすると、携帯を何気なくいじった。3時間くらいたって、亜香里は家に帰る支度をした。

これから帰る場所は、本当の家ではない。私も、本当の私ではない。

店から出た亜香里の表情は強張っていたが、眼だけば鋭く前を見ていた。


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