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つつい つつさん

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16/11/13 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:744

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 そういえば女子を泣かせたことあったな。

 平日の昼間から美術館に入ったのは絵に興味があったわけではなく、時間を潰したかったからだ。営業で得意先回りをしている時、急に二、三時間空いてので、ファミレスかパチンコでも行くかとも思ったが、たまたま貰った美術館の招待券が財布に入ってることを思い出し行くことにした。
 美術館に入ると、平日のせいか人はまばらだった。説明書きを読むと並べられている作品は二十世紀に活躍した最近の風景画家のものだった。絵に詳しくない自分が抽象的な絵を見せられても退屈していただろう。奇抜なものを見せられても、なにが奇抜なのか知識のないものにとっては、ただの変なものにしか見えない。つまり、がらくただ。いい作品か悪い作品かなんて、見る側の知識や感性が必要になってくる。そのどちらも自信がない自分にとっては、素直にわかる風景画だったのは良かった。今までこんなにじっくり絵を見たことなんてないなって思えるくらいゆっくりと絵を見てまわった。その中の一つが強く目にとまった。その絵の前でまるで金縛りにあったように動けなくなった。ただ、それはどこにでもあるような田舎の風景だった。木造の粗末な家、その前には川が流れ、素朴で小さな黄色い花が一面に咲いていた。
(祖父ちゃん、祖母ちゃん、会ってないなぁ)
 そう思ったら、自然と涙が頬をつぅっと伝うのを感じた。なんだか照れくさいような、温かいような不思議な気分だった。そして、祖父ちゃんと祖母ちゃんを思い出すと同時に、あの女子のことも思い出した。

 あれは、中学校の時の社会の授業で、美術館に行った時のことだ。その日は、学校の近くの美術館に学年全体で絵を見に行った。だけど、あの頃の自分も絵に全然興味はなく、美術館に入っても友達同士で大声でしゃべり合い絵なんて見ないで遊んでばかりいた。すぐに館内を見終えた自分は、その後もロビーで友達とふざけていたけれど、それでも時間を持て余し、もう一度展示会場に戻った。その時同じクラスの女子で、名前も忘れてしまったけど、地味な子が一つの絵の前で涙を流しているのが見えた。自分はその女子に気があったわけじゃなくて、ただ絵を見て泣くなんてことが自分には信じられなくて、つい、つぶやいてしまった。
「えっ、こんな絵見て泣く? 意味わかんないな」
 自分の言葉が聞こえたのか、その女子は自分のほうをキッと睨むと、大粒の涙をボロボロこぼした。そう、自分は女子を泣かした。正確には絵を見てなにかを感じ流した涙を自分の無神経な一言で悔し涙に変えたのだ。でも、その時はそんなに罪悪感は感じなかった。絵を見て泣いてるほうがおかしいと思った。あの時から、さっきまで絵を見て泣くことがあるなんて自分の中ではあり得ないことだった。だから、その女子には悪いけど特に反省するなんてことはなかった。

 そんなことを考えながら絵を見ていると、横からそっとハンカチを差し出された。びっくりして差し出された方向を見ると、美術館のスタッフの女性が立っていた。
「中島君が、絵を見て泣くなんてね」
 突然、名前を呼ばれあたふたしていると、その女性はさらに続けた。
「あ、ごめんなさい、覚えてる? 私、三上由利です。あの、中学の時同じクラスだった」
 あの時、自分が泣かした女子だった。そう、三上さん。そう気づくと、さらにあたふたした。
「あ、ごめん。こちらこそ、あの時は。その、悪気はなくて」
 とりとめのない言い訳をして、しどろもどろになっている自分を見て三上さんは笑った。そして、他に客の姿もなかったのでそのまま話をした。
「中島君が昔のこと覚えてるって思わなかった」と、三上さんは感心するように言った。
「いや、ごめん。すごくムカついただろ、あの時」
 三上さんは大げさに何回も首を縦に振った。
「私のこれまでの嫌な奴ランキング、中島君が一位だったんだよ」
 そこまで嫌われてたなんて思ってなかったので、苦笑するしかなかった。だけど、三上さんはなんだか嬉しそうだった。
「中島君も絵とか興味あるようになったんだ」
 話を合わせても良かったんだけど、なんだか真剣に答えないといけないような気がして、今日たまたま暇つぶしに入っただけで、相変わらず絵に興味がないことを正直に打ち明けた。
「でも、今日見に来て良かったでしょ」
「絵って、すごいなって思ったよ」
 そう言うと、三上さんは満足気な顔で冗談ぽく、自分の肩をポンポンと叩いた。
「そう思ったのなら、これからも来てね。ここの美術館、毎月いろいろ企画考えてるから、よろしく」

 美術館を後にして、得意先回りに戻ってからも美術館のことばかり考えていた。家に帰ると、来月どんな企画をやっているのか早速検索した。


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