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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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投げ捨てたボール

16/11/13 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 霜月秋介 閲覧数:1006

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 僕の家の近くに、川原がある。その川原には、テントを張って暮らしているおじちゃんがいる。
 僕はいつも夕暮れ時、部活が終わって学校から帰ると、そのおじちゃんとキャッチボールをしている。
「たくや、明日野球の試合なんだろう?どこ守るんだ?」
 おじちゃんがボールを投げ、僕はそれを左手のグローブでキャッチした。そして、おじちゃんにまた投げ返した。
「補欠だよ。試合に出してもらえるかわからない。僕よりうまい人がいっぱいいるから」
 おじちゃんがまた、僕が投げた球をキャッチする。そしてまた、僕に投げた。
「そうか。いつか出られる日が来るといいな」
 僕はまた、キャッチする。
「うん」
 僕とおじちゃんがキャッチボールを続けていると、ママの声がした。ママは僕の手を引っ張り、そのまま僕を家まで連れ帰った。
「何度言えばわかるの!あの人とキャッチボールしちゃだめって言ってるでしょ!?あの
人は普通の人じゃないのよ!?」
 ママは眉間にしわを寄せて僕を怒った。普通の人じゃないって、何だろう?おじちゃんも、僕と同じ人間なのに。川原にテントを立てて住んでるから?ひげをもじゃもじゃに伸ばしているから?いつも同じ格好をしているから?いつも一人だから?じゃあ、普通の人って何なんだろう…。

「たくや、お前、他に友達はいないのか?例えばほれ、野球部の中とかに」
 ある日、おじちゃんは僕にボールを投げながらそう尋ねた。僕はボールをキャッチすると、首を横に振って、ボールをおじちゃんに投げ返した。
 僕にとってそれは、聞かれたくない質問だった。もともと僕は、友達がいない。野球部の中にも、僕と仲のいい人はひとりもいなかった。だから、部活が終わってからはいつも川原でひとり、ボールを投げては拾って、また投げては拾ってを繰り返して遊んでいたんだ。そこに、おじちゃんが声をかけてくれた。それから、僕とおじちゃんのキャッチボールの日々が始まったんだ。
「それはいかんな。いいかたくや、人間は一人では生きていけないんだ。こうやって会話ができるのも、キャッチボールができるのも、相手がいるからだ。野球だって、ひとりではできないだろう?仲間をつくれ。お互いを信頼し合えるような友達をつくれ」
「いつも一人でいるおじちゃんに言われたくない!」
 僕が投げたボールは、おじちゃんのはるか上を通り抜け、川の真ん中に落ちた。
「たくや…?」
「ママから聞いたよ。おじちゃん、ホームレスっていうんだろ?みんな、おじちゃんのことを嫌がってるよ。働かないでいつもこんなところにひとりでテントを張って、服も汚いしニオイもひどい。誰も近づきたがらない。だからせっかく、僕が付き合ってやってるのに!えらそうに僕に説教しないでよ!」
 僕はそう言い捨てて、その場を去った。

 なぜあのとき、僕はおじさんにあんなことを言ってしまったのだろう。僕はあのときのことを後悔している。一緒に遊んでもらっていたのは僕の方だったのに。僕が放ったあの言葉だけは、おじちゃんにキャッチしてほしくはなかった。キャッチできずに川へ落ちたあのボールのように。
 おじちゃんはあのあと、僕が暴投したあのボールをとりに川へと入り、足を滑らせてそのまま溺れて、帰らぬ人となった。
 なぜおじちゃんは、川へ入ってまでわざわざ僕のボールを取ろうとしたのだろう。あんなひどいことを言った僕のボールなんか、放っておいてもよかったんだ。もう、おじちゃんからは二度と、言葉もボールも投げかえってくることは無いんだ。そう思うと、涙が止まらなかった。
 おじちゃんが川で見つかったあと、警察が、川を流れていた僕のボールを届けてくれた。おじちゃんは、続けたかったのかもしれない。僕とのキャッチボールを。僕があのとき投げ捨てた言葉を拾って、また僕に何かを言い返すために、あのボールを僕に投げ返そうとしたのだ。
 僕はそのボールを、おじちゃんの墓に供えた。『ありがとう』とメッセージを書いて。


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