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比些志さん

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赤毛の女と少年

16/11/12 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 比些志 閲覧数:601

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少年は私が守衛をつとめる美術館に毎日やってくる。
そして、立ったまま、だまってモディリアーニの赤毛の女の絵を見ていた。
私はなんどか声をかけたが、少年は言葉少なに返事をするだけで、決して笑顔は見せなかった。
それでも私は短い会話を通じて、少年の母親がその絵を好きだったことを知った。女のやせ細った顔が、病床の母親に似ているともいっていた。母親は一ヶ月前にガンでなくなったらしい。

その少年がある日を境に姿を見せなくなった。
そしてその三日後、河原で遺体となって発見された。誘拐事件に巻き込まれ、無惨に絞殺されたのだ。

さらにその一週間後、犯人がつかまった。犯人は私の同僚だった。

私は自分の行動を悔やんだ。私は犯人である同僚に少年から聞いたままのことをほとんど話してしまった。ーーー父親は会社の社長であること。家は美術館の裏手にある豪邸であり、暮しも裕福であること。しかし母親がなくなり、少年は放課後いつも美術館に来ていること。父親は、夜遅くまで家に帰らないことなど……。

そして誘拐された日も私は美術館で同僚が少年に話しかけているところを目の前で見ていた。私は、知り合いの少年の誘拐の現場を目撃していたのだ。しかしーーーなにもできずに、子供を見殺しにした。

私は閉館後の美術館でモディリアーニの絵を前にして、涙を流した。
すると声が聞こえた。
「あなたにチャンスをあげる」
声の主は絵の中の赤毛の女だった。
「時間をもどすから、あの子を助けてあげて」
女はうっすらと青い目に涙をうかべながら、消え入るような声でそういった。

そこで目が覚めた。私は自分の部屋のベッドの上にいた。
その日はまさに少年が誘拐される日だった。

その日もいつもどおりの時間に、少年が美術館にやって来た。そして立ったまま、だまってモディリアーニの絵を見つめている。そこへ非番の同僚が現れ、少年に近寄ろうとした。私はすかさずふたりに駆け寄った。そして同僚の腕を取り、上司が連絡をとりたがっていることを伝え、そのまま守衛室につれていった。私は、同僚がひそかに保有金を着服していることを知っていた。事前に上司へ密告したので、このまま当分身動きできなくなるはずだ。

私は同僚を連行しながら、うしろを振り返った。少年は無事絵の前から立ち去り、退館するところだった。奥手の壁際からは、赤毛の女が満足気にその様子を見つめていた。了


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