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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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粉々の屑

16/11/12 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:7件 クナリ 閲覧数:1227

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 来週に閉館を控えて展示物の多くを処分し、守衛にも暇を出した美術館のホールは、ひどく寂しく見えた。
「こんな時間に、何なの?」
と幼馴染のミヤが言う。
 夜の一時。女子中学生を連れ回していい時間ではない。男子中学生がふらついていていいわけでもないが。
「今までにも何度も忍びこんでる。お前を連れて来たのが初めてってだけだ」
「お父さんにばれたらどうするのよ」
 ここの館長はミヤの父親だ。
 ホールは常設展示場も兼ねていてかなり広く、館長の趣味らしいギリシャ彫刻風の石膏像が百体近く並んでいる。どれも全身像で、実物の人間より少し大きめなので、これだけ並ぶとかなり迫力がある。
「ミヤ。一昨年、俺の親父が蒸発したの知ってるよな」
「……うん。それが?」
「この像のどれかの中に、死体になって入ってるんじゃねえのか」



 二人暮しをしていた親父が姿を消した時、俺は血眼になって捜した。そして、この美術館に訪れたのを最後に、ぷっつりと消息が途絶えたのを突き止めた。
 しかしそれ以降の進展はなく、結局俺は施設に引き取られた。
 それ以来、俺は何度もこの美術館に忍び込んで、親父の手掛かりを探した。だが、中に入ったことは裏が取れたものの、館から出た形跡が全くない。
 馬鹿げた想像かもしれないが、親父はこの美術館の中で死んでいると考える方がしっくりきた。そうでなければ、絶対に俺を迎えに来るはずだ。
 地下から屋根裏まで、俺は館の中を漁りに漁った。そして最終的には、この百体の石膏像が残った。調べてみると、これが設置されたのは、親父が消えた直後だった。



「どうせ閉館するんだろ? ぶっ壊したって構わないよな。どうせ美術的価値なんてないガラクタだろ」
 俺は持参した小型ハンマーで、手近にあった一体を殴り倒した。中ががらんどうの石膏像は、床に落ちて砕け散る。
「何考えてんのよ!」
 俺は立て続けに、もう三体を壊した。像の中には大人一人何とか入れるくらいの空洞はあるが、親父の姿はない。
「本当に馬鹿げてる。確か死体って、ガスで膨らむんじゃなかった? 像の中になんて隠してたら、内側から破裂するわよ」
 更に五体を壊す。何も出て来ない。館内は控え目に常夜灯が点いているだけで薄暗いが、死体が出て来ればさすがに分かる。
 分かってる。俺は、納得したいだけだ。親父が戻って来ないのは、死んでいるからだったんだと確かめたいだけだ。
 俺がどんな思いをしているかも知らずに父親がのうのうと暮らしている可能性を、排除したいだけなんだ。そのために、親父の死体を探している。
 ただ、心のどこかでは、決して見つからないことを祈りながら。そんな矛盾の中で。
 ついに、三十体近くをバラバラにした。床は解体現場の用に散らかっている。いや、石膏像の解体という意味ではあながち間違いでは――

 解体。

 その言葉が、俺にブレーキをかけた。
 次の一体は台座から引き倒すのではなく、像のすねの辺りをハンマーで欠けさせた。次に腿、腰。その像の空洞は、腰の辺りが底のようだった。
 空洞に手を入れ、底に手のひらを這わせた。何かが指先に当たる。つまんで取り出した。
 持参した懐中電灯で照らしてみると、それは黒っぽい、何かのボロ屑のようだった。サイズは、小鳥くらい。
 数体の像に、同じようにしてみた。どれも、似たような物体が空洞の中に収まっていた。
「ミヤ。これが、親父なんだな。ガスがどうのって言ってたよな。それを防ぐために、……百個に分けたのか。すげえじゃねえか。これなら閉館ついでに像ごとぶっ壊しても、まとめて捨てられて終いだ」
「お父さんの知り合いに、死体を全身凍結してもらったの。後は割っただけ」
 俺の望みは叶った。親父が戻って来なかった理由は、俺が願った通りのものだった。だが。
「何でだよ。何で親父を殺した。俺達、たった二人の親子なんだぜ。お前だって昔から知ってるだろ」
「そうよ。だからずっと我慢してた。なぜ殺したのかを説明するには、あなたの父親が私に何をし続けていたのかと、私のお父さんがそれを知ってしまった日のことについて説明しなくちゃならないんだけど。聞きたい?」

 死ねば、全て終わりだと思っていた。
 『死者はいつまでもあなたの胸の中で生き続ける』なんてのは、戯言だと思っていた。
 それがこんな形で、その言葉の残酷さを思い知るとは思わなかった。
「……ミヤ、俺が像を壊すの強く止めなかったよな。バレないと思ったからか」
「どっちかっていうと、バレたらいいと思ってた」
「どうして」
「だってあんたが、私達がどんな思いをしているかも知らずにのうのうと暮らしてるなんて、許せなかったんだもの」
 ハンマーが、俺の手から滑り落ちた。
 床に散らばる石膏のように、俺も壊れてしまいたかった。


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このストーリーに関するコメント

16/11/30 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

美術品の中に死体を隠すアイデアと、散々探して見つけ出した結末が、タイトルと見事につながっていますね。長編的内容を会話と構成の上手さでコンパクトにまとめる力量が、いつもながら凄いと思います。

16/11/30 クナリ

冬垣ひなたさん>
そうなんです……当初はもっとミステリっぽく手順を踏んでいこうと思ったのですが、この内容では到底収まらないので、荒唐無稽に見えてもいいから気色悪さを優先して、サスペンスぽく仕上げようと思ってこのような構成になりました。
セリフによる説明を過不足なく入れるのにも腐心しましたので、誉めていただけて嬉しいです!

16/12/11 上村夏樹

石膏像を壊す主人公を、ミヤがどんな気持ちで見ていたのかを想像すると、なんだかゾッとしますね。何をされたのかが明確にされていないぶん、余計に怖く感じます。

16/12/11 タック

この内容を掌編にするのは非常に難しいと思うのですが、物語に一気に引き込まれる導入から、サスペンス的な高揚が続くのは見事だと思います。物語、登場人物の背景を知りたいと思わせる深みがありました。

16/12/19 クナリ

上村夏樹さん>
存在感がいまいちないキャラクタが物語の鍵を握るという構成が好きなので、彼女に存在感が出せていれば嬉しいです。
字数制限のなかでは、その制限のなかでの表現のしかたの幅を生かしたいので、彼女がされたことを説明せずにぼかしたのも有効になっていれば。

16/12/19 クナリ

タックさん>
どうにかして、ストーリーの背景とサスペンス的な話の運びを両立したい……と悩みつつ、あの手この手で入れ込んでみました(^^;)。
強引でもあり得なくても、書きたいことのためならもう気にしないのですッ。

海月漂さん>
タイトルは、壊された彫像とバラバラになった父親とのダブルミーニングなわけですが、読み終わったあとにああそうなんだと思っていただきたくて名づけましたッ。
彼女の一言で、主人公が猛らせた怒りは一気に沈静化してしまうわけですが、知らないということは怖いなあ……というテーゼでもあります。
世界なんて、ほんと薄氷の上に立ってるんですよね。

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