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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

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二郎の捨てゼリフ

16/11/11 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 鮎風 遊 閲覧数:721

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 人の本能的な思いは脳内の大脳辺緑系の旧皮質で、また情緒的な感情は古皮質で、さらに論理的な思考は新皮質で呼び起こされ、互いに絡み合う。そして扁桃体により制御され、その記憶は海馬によって管理される。つまり心はこのシステムから生まれ、進化する。
 しかし完璧なものではない。呼び起こしの僅かな時間ズレや脳組織の微細な瑕疵で、結果としてもう一つの心を持つ自分が脳内に生まれることがある。それは奇跡ではなく、よくある話しだ。
 例えば一郎、少年時代にアナザー・ミー(another me)とやらが棲み着いた。そして高校の時に、こいつは自分ではあるが、微妙に人格が違うと認識する。こうなれば追い出すことが出来ず、一緒に生きて行くこととした。
 一郎の思考はどちらかというと情感を軸として成り立っている。だがもう一人の自分は論理的でクール。結果、二人の間柄はもちろん兄弟よりは近い。だが一郎自身ではなく、生命生活の相棒ってところだろうか。
 こんな仲ならば名前も必要。そこで一郎は、分心同体という変ちくりんさも考慮し、己の名からの横滑り、すなわち二郎と名付けた。二郎はこれに一旦歓喜したが、元々高慢ちきなのか、これを契機に何事にもあーしろこうしろと出しゃばるようになった。

 二郎、確かに五月蝿いヤツだ。とは言っても一郎は、二郎に随分助けられてきたことは事実。一例だが、サラリーマンの単身赴任時代、何にでもイッチョ噛みの進言連射で孤独ではなかった。お陰で一郎は無事勤め上げることができ、第二の人生へと突入した。そして金欠自由人となる。
 こんな一郎をある日二郎が誘う、「刺激がなさ過ぎないか、一緒に小説書いて、世に打って出よう」と。
「えっ、俺が作る筋書きでは絶対辻褄が合わないぜ」と五感だけ人間の一郎が弱音を吐くと、「拙者がストーリーを組み立てる、お前はその文章に化粧をしてくれたら良いんだ」と説得される。「なるほど、その手があったか」と一郎は納得し、その後合作で数編を執筆した。
 しかし、基本はどこまで行っても同一脳内での創作。眼を剥くほど面白い作品が出来上がるわけがない。うううと悶える日々だけが流れ行く。そしていよいよシニア本番となってくる。その現象は、まあ言ってみれば、酒を飲まなくともいつも酔っ払った状態、ちゅうことで、幸せ雲にフワリフワリと乗ったような気分で暮らしていた。
 されども、たとえ人生の終盤においても厄介な事態は起こるもの。この期に及んで、苦難を共にしてきた妻の夏子が夕飯時に、鰺の干物の身をほじくりながら仰りました。
「あなた、毎日全日空なんでしょ。だったら、青春時代にやり残してきた事でもやってみたら」
 まことに心暖まる提案だ。されど魂胆がありそう。そこで一郎は「夏子の場合は何をしたいんだ?」と聞き返した。すると夏子は半世紀振りに女学生の眼差しをし、夢見心地で「トップスターのオッカケよ」と。そして一拍置き、「ヅカ命よ、だから家を空けることが多くなるから、よろしくね」と冷ややかな笑みを滲ませビールをグビグビと呷った。一郎は「了解です」としか返せなかった。
 そんな時に二郎が「夏子のアナザー・ミーは誰だか知ってるか?」と一郎に訊いてきた。
 妻のもう一人の自分て? 一郎が頭を捻ってると、二郎が教えてくれる、「心が氷点下の…冬子だよ」と。夏子には冬子が棲み着いていたのだ。これで一郎は夏子と歩んできた人生、すべての謎が解けた。そうだ、あの時のケンカ相手は冬子だったのかと、目から鱗がポロリと落ちた。
 それにしてもこんな小さな家で、一郎、二郎、夏子、冬子の4人で暮らしてきたのかと感慨深い。されども一郎は「青春時代にやり残してきたこと、夏子がオッカケなら俺は、そうだ、フラメンコ・ギターだ、早速習いに行くぞ」と言い切った。この放言に、二郎/夏子/冬子の面玉がビー玉の如く飛び出した。

 年を重ねてからの一念発起、そこから1年が経った。練習量だけは誰にも負けてない。しかし判明した、指の凝結は脳の固化より進行が早いと。すなわち音譜は読めるが、指が動かない。つまり弾けないのだ。
 夕飯を終え、今夜も…タカタカチャンチャンとラスゲアード奏法の練習。
「アナタ、Aが出演中よ。テレビ観てる時に、その気色悪いリズムで弾かないで、吐きそう」
 夏子は怒り、その後冬子に変身し、「フラメンコ・ギター、生意気ね。元々才能なんてないのに、20歳の時に置いてきたからと言って、今さらやってみたところで、絶対に弾けないわよ」とボロクソ。
 一郎はムカッときて、ジャカジャカと指を激しく走らせる。それを見ていた二郎が「おっ、カッカして弾いた方が良いぜ、まっ頑張れや。俺は小説を続ける、もし気が変わったら、また一緒に」とニッと笑い、「だけど人生時間切れかもな」と捨てゼリフを吐いて消えて行った。


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