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テツ0425さん

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クリスマス

16/11/08 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 テツ0425 閲覧数:642

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 午前6時、アキラは銃声の音で目が覚めた。一瞬寝ぼけたように目をこすった後の動きは素早かった。隣で寝ていた相棒のヤスとテツを叩き起こすと、銃を抱え、ヘルメットをかぶってテントの外に飛び出した。
 銃弾は東京芸術劇場の方からひっきりなしに飛んでくる。
「ちくしょう、なんでこんな朝っぱらからドンパチやらなきゃいけないんだ」
アキラが吐き捨てるように言うと、ヤスも「まだ昨日の酒が残っていやがる。おれの睡眠時間をかえしやがれ」とライフルを乱射しながら叫ぶ。
つい一週間前までは、池袋はアキラたち反政府軍が抑えていた。それがこの一週間で、政府軍が猛攻を仕掛けてきて、劣勢を強いられていた。
銃弾の嵐は衰えるばかりか、激しさを増すばかりだ。銃撃戦が2分、3分と続くうちに、アキラは現実の感覚を失っていった。
 アキラは生まれたころから、戦争が身近にあった。
中国と?北朝鮮と?ロシアと?違う。拡大する貧富、差別に耐えかねて、非正規雇用の労働者らが銃を持ったのは30年前。それ以来、日本各地で自衛隊と反政府軍の戦争は続いている。
 大手自動車メーカーで派遣社員として働いていたアキラの父も反政府軍に参加し、アキラが生まれて間もなく戦死した。母親は3年前、パートに行く途中、政府軍が設置した地雷を踏み死んだ。2歳上の姉は2年前にあったきりだ。
 たまに、衛星放送でヨーロッパの同じ年頃の連中を見ることがある。奴らは大学に通い、女と恋をし、青春を謳歌しているように見えた。でも、アキラはそれをうらやましいとすら思わない。子供のころから銃撃や爆撃の音とともに生活し、中学を卒業したら自分がそれらを炸裂させる側に回った。100人近くの人間を殺したし、アキラだって何回も銃撃された。右足には銃弾が残っている。
「おれにはこんな人生の方が似合っているんだ」
 そんなことを胸の中でつぶやいた瞬間、右肩が熱くなった。政府軍のスナイパーの放った一発が当たったのだ。
「うっ」
 アキラはその場に倒れこんだ。ヤスとテツは銃撃を続けながら、「大丈夫か」と言った。
「ヤバイかも」
「これでは太刀打ちできない。一度退却しよう。俺の肩につかまれ。テツ、悪い。おれがアキラをかついで逃げるから、しばらくの間一人で耐えてくれ。1分後にお前も逃げろ」
ヤスはそう言うと、右肩から血が噴き出しているアキラをおぶって、板橋方面に駈け出した。

 何とか銃弾を逃れ、2人は東上線沿線を歩いた。
「ヤス、悪い」
「今度ラーメンおごれよな」
そう言って、ヤスが笑った瞬間、ヒュン、という一発の乾いた音がアキラの耳元で響いた。ヤスは崩れ落ちるように倒れ、アキラも地面に顔面をこすりつけた。
乾いた音は2発、3発と立て続けに鳴り、アキラは地面をはいつくばり、草むらに隠れた。
 自力で逃げる力は残っていなかった。草むらからは、雲一つない気持ちのよい空が広がっていた。「あー、もうだめだ。政府軍のやつらがここに来ればもう終わりだ。チクショウ、あっけない人生だったな。もっといろいろな女とやっておくんだった」
アキラは眠りに落ちた。

 白い天井が見える。アキラは周りを見回した。殺風景な部屋に時計だけがかかっている。
ドア越しには軽快な音楽が響いている。アキラがドアを開けると、初老の男性と女性がテーブルに座っていた。
「おや、起きたのか」
「おれはどうしてここに?」
「一週間前にわしが、水を汲みに外に出ようとしたら、お前さんが草むらで倒れていたんじゃよ。傷もひどかったから、家に連れて帰ったんじゃよ。」
「ヤスは?」
「近くに倒れていた男かね。わしが見つけた時はもう息絶えていたから、この近くに埋葬したよ」
「そっか…」
「お、言い忘れていた。メリー・クリスマス」
 アキラは虚をつかれた。昔、日本にクリスマスという行事があるのは知っていった。でも、アキラが生まれてからは、そんなイベントはなくなっていった。少なくともアキラは体験していない。
「おまえさんは知らんかもしれんがの、昔、日本は12月25日はクリスマスという行事があったんじゃよ。わしが、この婆さんと結婚の約束をしたのも、このクリスマスの日じゃった。それ依頼、この日は欠かさずお祝いをしているんじゃよ。」
アキラがテーブルを見ると、イチゴもない、クリームも申し訳なさ程度においてあるだけのケーキが真ん中に置いてある。その周りには、サバや焼き鳥の缶詰が3、4個置いてあった。
 「どうだ、お前さんも一緒にこの輪に入らんかね。ワインもあるぞ。密造酒だがね」
 遠くでは銃声や砲弾の音が聞こえる。過酷な戦争という現実は変わらぬままだ。
 でも、今だけはこの老夫婦の何十年も変わらぬお祝いに参加するべきだと、したいと思った。
 アキラは生まれて初めて、「メリー・クリスマス」と叫んだ。




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