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結簾トランさん

お話を書くのが好きな、結簾トランと申します。紅茶とケーキと古めのものも好きです。よろしくお願いいたします。

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館の国のクラリーサ

16/11/07 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 結簾トラン 閲覧数:596

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 クラリーサは今日も件の館の前で仁王立ちしていた。ふん。こんなの、ただの容れ物じゃないの。
一昨日から此処へ、パリから侵略者が来ているらしい。あらあら、御苦労なこと。高い高い天井から洒落た青い旗が垂れる。ふうん、花の都ですって。だけどそんな肩書きに怯むクラリーサではないのだ。
 大理石の段々を悠然と上り(幅が広いので一段に二歩必要だ)、慣れた手付きで特設展示場への通行証を掲げる。半券を千切りながら、戦場の入口を守る騎士はこう言った。
「展示品には触らないようにね、お嬢ちゃん」
 この言葉はクラリーサを、それはもう大いに奮起させることとなった。

 さぁ、いざ征かん。侵略者を見定めてやるわ、この私が直々にね。今またもや戦意を削ぐような声を掛けてきたなまくら騎士に、カメラなんか持っていませんと深窓の令嬢のように目を合わさず言ってやった。私を見た目で侮らないことね!敵を侮る者は身を滅ぼすのよ、お父様の本に書いてあったわ。まあそれは外国語で、なんとか頑張ってどうにかこうにか、そこだけ解読出来たんだけど。何にせよ本物と写映機で戦えるもんですか。私のこの目だけが唯一頼れる武器なんだわ。
 可能な限りの大股で、クラリーサは出陣した。あら、まあ、まあ。軽くスカートを摘まみ、淑女らしくお辞儀してやる。早速御出でなすったわね、ナポ公。白いふっくらとした腕を組み、希代の英雄と対峙する。今日はいちばんお気に入りのブラウスを着てきてあげたわ、光栄に思いなさいとクラリーサはちょっぴり太っちょに描かれた彼に目配せした。
 それから激動の連戦が始まった。重厚で、濃密で、雄弁で、多彩。赤は血のように深く、青はボーンチャイナのカップの底のように色濃く。金ぴかの額縁にも気が抜けない。うっかり目に留めてしまえば、その彫り込まれた蔦のようにクラリーサの武器をも絡めとろうとしてくるのだ。慎重を期して備えられたこのチェーンが無かったら、もしかするとこの静物の隙間に取り込まれてしまってたかもしれないと、クラリーサは何度もひやりとさせられた。

 遂に辿り着いた。矢印が「こちらが出口です」と言っている。此度も良い戦いだったわとクラリーサは独りごちた。あのエメラルドの嵌まった首飾りなら、ちょっと付けさせて貰っても良いかな。硝子ケースに入っていなければね。無論、正々堂々がモットーのクラリーサはそのような不作法を己に許さないけれど。そして確かにパリは強敵だったが、自分は良く見極め、良く戦ったと彼女は心の中で自分を褒めた。
 でもさすがに草臥れてしまった。もうアタマが油絵具でぱんぱんだ。クラリーサはふらふらと一階へ降り、揃いも揃って白く細い入り口のひとつへと迷い込む。そこには「常設」と書かれていた。
 柳の生えた川縁で、少年とシェルティが遊んでいる。クラリーサはスカートのふくらみに気をつけて程近くに設置されたベンチへと腰を下ろした。
「クラリーサ、いらっしゃい」
 嬉しげに少年が呼んでくる。
「あなたはいつも気楽そうでいいわね」
 クラリーサは溜息を吐き、肩に掛かる巻き毛の先を直した。
「木苺は要るかい!キュウリのサンドイッチは?クラリーサ」
「ご遠慮するわ。ちょっと休ませてほしいの。……ミルクなら、後ですこしだけいただきたいわ」
 いいともと少年は笑い、シェルティも舌を出してニコニコした。彼らの暢気さに、感受の戦場で大いに精神を掻き回されていたクラリーサは、漸く人心地ついて目を閉じたのだった。


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