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雪解さん

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争いは二つから

16/11/04 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 雪解 閲覧数:675

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 寒空の下、私の吐く溜め息はとても白く、空もそれに呼応するように雪を降らしている。
 大学からの帰り道、交差点で若者達が叫んでいた。
「宇宙人に核をぶちこめ! 地球が支配される前に!」
 あの人達が騒いでいる理由は、月にあった。月面上に異星人の宇宙船が停まって、それから半年、だんまりを決め込んでいる。
 私は思う。異星人が強大な力を持っているなら、地球を統治してほしい。世界には、人間には、争い事が多すぎる。誰かが押さえつけるべきなんだ、と。
 幼少期、強盗に殺された両親を思い出す。
 父と母は悪い事なんて一つもしていないような人物だった。
 なぜ、と今でも考える。悪い事をしようとしているやつなんて消えて無くなればいい。それが私の結論だった。
「面白い考えだね」
 突然、後ろから声がした。振り向くと、中学生くらいの少年が立っている。周囲にいた人は誰もいなくなっていた。
「急に何なの? あなた誰?」
「ああ、そうか。この体は親のいない子供のものを借りている。私は月から観察にきたものだ」
「そんなの信じるわけないでしょ。いい加減にして」
 無視して、歩き出そうとすると。
「君の両親は何も悪いことはしていない。問題はナイフを止めるものがいなかったこと」
 止まって、再び少年の方を向く。
「思っていることが読めるの?」
「良い思考の巡らせ方だ。我々がこれから起こりうる全てのナイフをへし折る。星の変革だ」
「本当に変えられるの?」
「私と地球を変えよう。君は選ばれた」
 異星人が手を差し伸べてきた。
 私は少しためらった後、その手を掴んだ。

 大学の裏手には小さな山がある。その木々の中に小型の宇宙船は隠してあった。
「私は何をすればいいの?」
 ついていきながら疑問をぶつける。
「我々の考えは君と一緒だよ。地球を平和にしたい。君には人類と我々のメッセンジャーをやってもらいたい」
「それで、あなた達には地球を平和にして何のメリットがあるの?」
「これは極秘事項なのだが、君にだけ話す。どうやら地球人の希望や安心感が我々のエネルギーとなることが判明したのだ」
「私達の幸福を餌にするってわけね」
「その通り。だが、お互いに利益がある。さあ、乗ってくれ」
 船に乗り込んだ私は驚きを隠せなかった。
「私の部屋だ」
「そう。君の家をスキャンして、全て同一にしてある。協力してもらうのだから歓迎しなければ」
「嬉しい気もするけど、やっぱり気持ち悪い」
「人間の多彩な感情は面白い。いち早く出発しよう」
 そうして、船は飛ぶ。平和を望む私を乗せて。

 宇宙を漂っている。船の機能なのか、無重力ではない。
 なぜか、とてもすっきりとした気分だ。
「星の重力って色んなものを縛っているのね」
「君は詩人に向いているのではないか?」
「あなた達にも詩って概念があるんだ」
「我々は言葉を大事にしている。言葉は生命の感情を揺さぶる。過去と未来を作る素晴らしいものだ」
「そう? 言葉なんてあっても人は、過去から学ばないし、未来にも生かせない」
「そんなことはない。君の言葉を聞きつけて我々は来たのだから」
 異星人がヘルメットのようなものを差し出してきた。
「これは?」
「人間の思考解析がまだ完全ではないのだ。よかったら、君で調整させてほしい」
「地球とあなた達のためね」
「君も含まれる」
「わかった。どのくらいつけていればいいの?」
「解析は地球時間の24時間で終了。同時に地球も収められている」
 私はほんの少しだけ頷いて、目を瞑った。

 目を覚ますと、既に地球に戻ってきたようだった。
「到着した。さあ、降りよう」
 異星人の声が少し変だ。何かを我慢しているみたい。
 船のハッチが開く。そこにはもう地面以外何も無かった。見渡す限り、荒野と化している。私は瞬時に理解してしまった。
 悪夢を覚まそうと、異星人に殴りかかった。だが、拳が届く前に、見えない力に吹き飛ばされ、痛みを感じる。これは夢ではない。
「その通りだ。夢ではない。地球上の生命体は君以外、もういない」
 言葉が出ない。
「言葉にしなくてもいい。君の考えが読める。動揺、絶望、悲しみ、怒り、逃避。まさにデザートにふさわしい」
 デザート?
「君に一つ嘘をついていた。我々が食すのは人間の絶望だ。これだけの想いを集めれば、しばらく食事には困らない」
 どうして?
「ああ、君の体も少し改造させてもらったよ。老いず死なない」
「これのどこが平和なの!」
「やっと出た、激怒の声だ。争いは二つ以上で起こる。だから、生き物を一つにし、それを観察者とする」
「私も殺せばいい!」
「それはできない。君には詩を考えてもらわねば。この平和な星に聴くものは誰もいないがね」
 笑っている。異星人が口を下弦の月のように曲げて。


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