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若早称平さん

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ラブオアピース

16/11/04 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:693

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 ある日突然戦争が終わった。僕が小学生の頃から続いていた隣国との戦争は「本日を持って終戦となります」というアナウンス一つで本当に終わってしまった。
 昨日まで殺せ殺せと狂ったように言っていた軍上層部は手のひらを返したように、速やかに部隊を解散するよう促してきた。僕達ほぼ最前線で戦っていた兵士はぎゅうぎゅうの電車で故郷の町へと帰らされることになった。数時間腕一本動かすこともままならない状態にも関わらず、訪れた平和のおかげか、文句を垂れる者はいなかった。
「だから言っただろ?」
 体がぴったりと密着している状態で隊長が話しかけてきた。
「この戦争が終わったら、俺彼女と結婚するんだってな」
「でもそれまだ言わない方がいいですよ」
 多分この世で最も有名な死亡フラグを口にする隊長を僕は笑いながらたしなめる。戦場で絶対に相対したくないくらい厳つい顔をした隊長は、文字通り僕が所属していた部隊の隊長だった。年も離れているので同郷ということがなければ直接話をする機会さえなかったかもしれない。
 都市から遠く離れた僕達の故郷はさほど人口も多くない田舎町で、隊長の婚約者の父親がやっている事業が貧しい町にもたらしている恩恵は大きい。つまり、
「逆玉ってやつですよね」
「おい!別に金目当てじゃないからな」
 僕以外からも何度もその手のからかいを受けているのを知っている。一度写真を見せてもらったことがあるが、何故こんな人が隊長と付き合っているのか不思議に思える程の美人だった。

 こんなことを言うと不謹慎だろうが、この超満員の電車に毎日乗るくらいなら戦争をしたいる方がましだと思った。立ち続けた足が限界を迎えた頃、地方で最も大きい街に電車が止まった。押し出されるように車外に出た僕達は半日ぶりに外の空気を吸う。そこからさらに乗り継ぎ、ついた頃には日も暮れていた。
 その駅で降りたのは僕達だけだった。街灯も少ない駅の前で僕の両親が出迎えてくれた。家族をこの戦争で亡くしている隊長を迎えにきてくれる者はなく、僕は少し気まずくなる。てっきり噂の彼女は来るものだと思っていたのだが、何か都合でも悪かったのだろうか。両親に隊長を紹介すると、やはり彼は地元では有名で、うちで一緒に食事でもと父が誘ったのだが、彼女の所へ行くからと丁重に断られた。父は何か言いたそうにしていたが、何か言い辛いことなのか「いやなんでもない」と飲み込んでしまった。

 三年振りに帰ってきた我が家の安心感に僕は大きな溜め息をついた。室内の暖かさに、倒れ込んだベッドの柔らかさに、そして母の作ってくれた豪華な食事の美味しさに、平和の片鱗を感じていた。
「ところでなんで終わったんだろうね、戦争って」
夕食も半ばにさしかかった頃、僕としては当然の疑問を口にした。終戦からばたばたしていてその肝心な理由を知らない兵士も少なくないはずだ。
 父母の手が止まる。その明らかな動揺に「え?なに?」と僕は首をひねり、二人は顔を見合わせる。
「お前には言い辛いんだが……」そう前置きして父は隊長の婚約者の名前を挙げた。情報に疎い前線の部隊以外国中の人間が知っていると言っても過言ではないらしい。
 話を聞いてすぐに僕は走り出していた。隊長の家は以前聞いたことがあり、おおよその場所は分かっていた。とにかく隊長に会わなくては、という思い一つでここまで来たが、これからどうしようと考えていたらとぼとぼと俯いて歩く隊長を見つけた。
「隊長!」叫びながら駆け寄ると、しょぼくれた遠目とは裏腹にその眼光は戦場にいた時のような、野獣のような鋭さだった。
「なんて言ったらいいか……」
「なにも言わなくていい」
「なにする気ですか?」
 隊長はその問いには答えず目の前の建物に入っていく。僕も黙ってそれに続いたが咎められることはなかった。
 灯りを点けても薄暗い、殺風景な部屋だった。ベッドと小さなテーブル、隊の宿舎の方がまだ生活感があった。
「隊長の家ですか?」
「ああ」と短く答えながら隊長は床に無造作に置かれたバッグを開ける。つい数日前までよく目にしていた隊長愛用の武器が露わになった。
「なにする気ですか?」僕はもう一度さっきと同じ質問をした。
「こんな平和なんて糞食らえだ」
 静かに、しかし苦々しく吐き捨てたそれが僕に対する答えだったのだろう。
 だからあんな死亡フラグ口にするもんじゃないって言ったじゃないですか。などという軽口を叩ける雰囲気では既になく、その代わりに
「やるなら付き合いますよ。僕も納得いかないんで」気付いたらそう口走っていた。同時に心の中で両親に謝る。ごめんなさい、僕は大馬鹿野郎なのかもしれません。でも、誰かの犠牲の上に成り立つ平和を受け入れられる程まだ大人じゃないんです。
 僕は隊長から武器を受け取った。


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