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志奈さん

多方面で創作活動を行っております。 ラノベ・マンガ・イラストetc... 一次創作中心。ノベルはライトノベル寄り。 ファンタジーが好物。 重厚派ストーリー推し。シリアスで泣けて、ラストは笑える、そんな王道作品を崇拝しています。 Twitter→@cc_Shina

性別 女性
将来の夢 人の記憶にいつまでも残る、そんな物語を作りたい。
座右の銘 諦めたら試合終了。

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ちいさなヘイワ

16/11/04 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:1件 志奈 閲覧数:712

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「オトナって、何でヘイワができないの?」

 眉根を寄せた、いかにもおマセな少年の言葉。
 その物言いに彼のクラス担任である私は、胸を鷲掴みにされるような緊張感を覚えた。
「ねえ、西先生?」
 小学一年生である彼の純粋無垢な瞳が私を見上げている。何か答えなければ。
「安藤くんは平和って何だと思う?」
「なにって、これでしょう?」
 そう言って彼は廊下の一角、掲載スペースを指さした。
 そこには全生徒の絵画から選ばれた、いわゆる優秀作品が誇らしげに並んでいる。
 掲げられたテーマは、平和。
 戦争放棄を訴える絵や、世界中の国旗の作品。肌や髪色の異なる人々が手を繋いで笑っているものもある。
 全て違う方向性に着眼した、様々な平和だ。
「オトナって、イヤなことばかりだもん」
 大人が平和な世界を作れない原因を、彼はイヤなことと捉えているらしい。
「大人も平和を作ろうと頑張っているのよ」
「ほんとにー? オトナは顔がわらってても、心はちがうんでしょ。なんだっけ、うわだけの、えみ?」
 上辺だけの笑みとでも言いたいのだろうか。
「先生だって、さっきキゲン悪かったし」
「え?」
 先ほど終えた終業前ホームルームのことだと安藤くんは言った。
 隠していたつもりだったのに、子どもに悟られるとは。
 まだまだ私は教師として至らない。人としても……。
「母ちゃんが言ってた。オトナのせいで、センソウはなくならないって」
「お母さんが……」
 幼い子ども相手にすごい母親だ。教育方針なのだろうか。
「オトナはなんで、みんな仲良しできないの?」
「どうしてかしらね……」
 私には、彼の母親のような答えを与えてやれそうにない。
「安藤くんは皆と仲良く出来るの?」
「うん。オレ、今日クラスのヘイワを守ったんだ!」
 問いかけると、彼は嬉々として喋りだした。
「マオちゃんがね、オレをムシしたんだ」
 マオちゃんとは親の都合で中国からやって来た転校生だ。
 初めこそ言語の違いに苦しんでいたが、最近やっとクラスに馴染めた女の子。
「どうして無視したの?」
「あのね、昨日の給食で、マオちゃんのケーキのイチゴ、オレが食べちゃったんだ」
 何とも子供らしい理由。
「キライだから、のけてると思ったんだ。早く遊びたかったから」
 それは彼の親切心が引き起こした行為。
 けれどマオちゃんは咄嗟に嫌だと言えなかったのだろう。言語の壁は、まだ厚い。
「オレごめんってした。なかなか許してくれなかったけど、クリスマスケーキのイチゴあげるからって指切りしたんだ」
「そう。ちゃんと仲直り出来て偉いね」
「うん! 二人で、ごめんしたんだ」
 取ってごめん。無視してごめん。イヤなことをして、ごめんなさい。
 そう互いを許し合えたのだという。
「あんどうくん、あーそぼ!」
 すると私たちの元に少女の声が届いた。
「うん、遊ぶ。先生さようなら!」
 安藤くんは迎えに来たマオちゃんに駆け寄り、そのまま去って行った。
 その光景に、私は左手で胸を押さえた。
 なかなか無くならない戦争。国境や人種、または宗教や生活など、世界は様々な問題に満ちている。
 それはあまりに規模が大きく、私一人ではどうすることも出来ない。
 そんなもの何一つ関係なく、個と個が向き合い、許し合う子どもの方が、きっと平和に近い場所にいるのだろう。
「ごめんなさい、か」
 薬指に光る小さな指輪を、私は見つめた。
「西先生、今一人ですか?」
 声とともに歩み寄ってくる一人の男性教員。私は勢いよく彼から顔を背けた。
「いい加減無視すんなよ」
「……」
「昨日は本当にごめん。行きたくて行ったんじゃなくて、合コンの人数合わせを断れなかったんだよ。相手は先輩だったから」
 ここにも一つ、小さな争いがあった。
 これが私の隠していた不機嫌の正体。
「でも俺は何もしてない。ただ座っていただけだ」
「若い女の子に、鼻の下伸ばしてたんじゃないの?」
「そ、そりゃ目の保養にはなったけど」
「ほら!」
 そして二人、黙り込む。まさに一触即発の冷戦だ。
 けれど、そんな私の脳裏に安藤くんの声が蘇った。
 オトナって、何でヘイワができないの?
 ああ、どうしてだろう。
 社会、付き合い、上下関係。大人の世界は複雑だ。
 でも。
「イヤな思いをさせてごめん! 何度でも謝るから」
「……私も、意地張ってごめんなさい」
「んん、許してくれるのか?」
 いつもよりクールダウン早くない? と目を丸くする様がおかしくて、思わず笑ってしまった。
 イヤなことがあると、時には無視して喧嘩して。
 世界の喧嘩は洒落にならないけれど。
 でもその後に互いを許し合うことが出来れば、世界も少しは平和に近付くことが出来るだろうか。
 私はひとまず、目の前に小さな平和を築いてみた。


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このストーリーに関するコメント

16/11/04 クナリ

子供が大局の平和を、大人が身近な平和を思うところが面白い対比でした。
子供ならではの鋭さがありますが、大人も色々大変ですよね。

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