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かつ丼さん

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札幌モスクワ特急

16/11/01 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 かつ丼 閲覧数:869

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西暦二千三十一年、北海道新幹線が札幌まで延伸された。その十五年前に開業した函館までの区間は利用が伸び悩み、札幌まで開通したことにより乗客が増加する事が期待されていた。だが北海道の人口減少は加速しており、その中にあって繁栄を続けていた札幌も近年は人口が減り始めていた。こういった状況で新幹線の開業は経済活性化の鍵を握ると期待されていた。

北海道ではもう一つの大プロジェクトが次の年に完成した。ロシアのハバロフスクから間宮海峡、サハリン、宗谷海峡を経て、札幌に至る区間が鉄道で結ばれたのである。勿論、結ばれたといっても、ロシアと日本国内では軌間が異なっていた。ハバロフスクからサハリンの南部のユジノサハリンスクまでは広軌でシベリア鉄道と同じ。そこから間宮海峡の海底トンネル区間を経て稚内までは標準軌となったが、これは建設費用を出来る限り抑える為である。稚内から札幌までは在来線を高規格化しただけで狭軌のままであった。そういうわけで、直通の列車は三つの異なる軌間を通ることになる。これにはフリーゲージトレインで対応した。

この新しい路線にはモスクワまでの直通列車が走ることになった。そして、日本側のターミナルは東京ではなく札幌に決まった。この決定は北海道経済の現状を考えてのことであって、ただ鉄道の始発駅であるというだけではなく、札幌、旭川、稚内等は経済特区に指定され、貿易や観光のための設備が建設された。ロシア人にはビザが免除され、日本人もロシアを訪問する際はビザは不要となり、国境では列車の車内で簡単なパスポートのチェックが行われるのみとなった。

しかし北海道民には経済効果への期待とは反対に、ロシアからの大量の訪問客に対する不安の方が大きかった。ロシアと北海道の交流はそれまでにも少なからずあったが、陸上交通機関が整備され、簡単に入国が可能となって、往来は否応なしに増えるであろう。こういう事は日本史上初めてであり、政府も対応に追いつかなであろう。特に犯罪の増加は心配された。日本の、平和ボケともいわれる社会がいきなり治安悪化を心配しなくてはならなくなるかもしれない。

いよいよ開業した札幌からモスクワまでの直通列車は連日ほぼ満員であった。開通当初週二便であったものが、三年後には毎日運行になったほどである。日本人の鉄ヲタぶりの面目躍如である。この人気の理由のひとつには稚内-モスクワ間で、割増の規則はあったが青春18きっぷが使用できることになったからである。ただやはり最も切符が手に入れにくかったのは豪華仕様の二人用コンパートメントであった。奈美もこの国際列車で夫の康介と、いつかロシアの街を訪ねて見たいと思っていた。結婚して三年、新婚旅行も道内でちょっと残念だったし、思い出に残る旅にしたいと思っていた。二人とも鉄ヲタなので、計画段階から気分は高揚していた。

ロシアから日本への旅行客も爆発的に増えた。乗客の約四割はロシア人であったろう。しかし彼らは単なる観光客ではなさそうだった。ロシアからの乗客は女性の割合が非常に高かった。これにも理由がある。北海道ではモスクワ直行列車が開通してからロシア文化への憧れが高まり、ロシア料理のレストランや、ロシアスタイルの喫茶店などが各地に乱立した。そこではロシア人女性があるいはウエイトレスとして、あるいはピアニストとして活躍していた。昔、関西にパルナスというロシア菓子のチェーン店があったが、今北海道にはそのような店がどの街角にもあり、店員はロシア人である。ロシア語もブームで、各地にロシア語学校ができた。この様な状況なので、今北海道の人口の一割はロシア系であるともいわれている。何しろその影響で、北海道の人口減少は止まり、漸増に転じた程である。北海道は平和であった。大陸と繋がったことで繁栄ももたらされた。

だが割を食ったのは日本の女性達であった。競争相手が増えて結婚がままならない女が街にあふれる様になった。ロシア人女性は相手が見つからなければ祖国に帰ればいいが、日本人はそうはいかない。更に悲惨なことには日本人男性とロシア人女性との間の不倫が珍しくなくなった。

奈美は康介が最近会社の出張でモスクワ特急を利用したのをふと思い出した。モスクワが目的地だと思っていいたのだが、ある日、彼がシベリアのとある街に滞在していたのを発見した。鉄ヲタの常で切符はすべて保存してあったので、調べてみたらあるロシア人女性と一緒のコンパートメントを利用していた。奈美はそれ以上は知りたいとは思わなかった。

ある年、札幌モスクワ特急は突然休止となった。影ではロシア女性の不倫に怒ったロシア政界の重鎮が圧力をかけたとも言われている。こうして北海道の束の間の繁栄は終わりを遂げた。世の中の平和は女性によってもたらされ、そして女性によって消されるのが常である。


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