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フォロー・ミー

16/10/26 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 alone 閲覧数:910

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男は朝食を食べながら、ニュースを見ていた。
「今週のフォロワー数ランキングの発表です! まず第十位から――」
ハリウッド俳優や有名モデルの名前が次々に挙げられる。誰もが知っており、一度はフォローしたであろう有名人ばかりだ。
「そして今週の第一位は……ジャスビー・ティンバー! 平均フォロワー数は驚きの三億越え、さらに今週で十週連続の一位です!」
人気ポップアーティストのジャスビーか。ときおり事件を起こすお騒がせな奴だけど、そこがまた受けて、ついついフォローしてしまうのだろう。
「ここでジャスビーから大発表! なんと十週連続一位を記念して、本日はパーティーを開催するそうです。普段フォローしてない人もぜひフォローしてね、とのことです!」
記念パーティーか、面白そうだな。
男は食事の手を止め、指揮者のような手つきで指先を動かす。その動きで視界上のインターフェースが操作され、お目当てのものが表示された。
目の前の空間に小さくタッチし、男は自らの『複写像』を起動する。
そして身体を『複写像』に任せ、男の意識はジャスビー・ティンバーをフォローしに向かった。

「私たちは『複写像』のおかげで、真の平等を手に入れました」
大統領はマイクに向けて、嘘偽りのない、心からの言葉を語る。
「他者の気持ちが分からない、他者の痛みが分からない。些細なことを契機に疑心暗鬼に陥り、一触即発の事態にまで発展する。かつてはそんなことが頻繁に起こり、互いに傷つけ合ったり、争い合ったりすることがありました。
 ですが、現在ではすべて過去のものです。私たちは『複写像』により、完璧に他者を理解するすべを得たのです。
 貧困にあえぐ人々の苦しみを、私は理解しています。信仰心の下で争い合う人々の想いを、私は理解しています。
 もし疑問のある方は、私をフォローしてください。そうすれば、すべてがすぐに理解できるはずです。
 私は私を常にオープンにしています。いつでも皆さん、私をフォローしてくださって構いません」

『複写像』とは、自己の中で生成・成長した、自己の複製だ。
人格をもつ人工知能の開発過程で生まれた単なる副産物であったが、それは人類に思わぬ進化をもたらした。
人が無意識に物事を行うには限界がある。生活のすべてを無意識に委ねることはできない。
だが存在する無意識と意識の領域において、意識領域を自らの複製――『複写像』に任せれば、人の意識はその身体に留まる必要がなくなる。
さらに『複写像』は、利用者を誤差なく複製するため、リアルタイムに人生を追体験する視点を有しており、そこには『複写像』のみならず、あらゆる人の意識を乗せることができた。
おかげで人は、自らの本体である身体を『複写像』に任せ、意識は好きな相手のフォロワーになった。
その感覚はまさに、フォローしている人そのものになることだった。

相手の気持ちを理解できるとは、裏返せば、誰にも隠し立てができなくなることだった。
嘘を一切つくことができず、仮に有名人が少しでも騙していれば、社会全体が牙を剥いた。
特に自分の利益だけを求めて行動した人は数限りない嫌がらせを受け、最後に肉体的または社会的な死が待っていた。
時にはプライバシーの観点から、『複写像』の視点をクローズにするべきだと声を上げた人もいた。
だがクローズにするような人間はまったく信用できないとして、誰も耳を傾けようとはしなかった。
いつしか、常に自らをオープンにして清廉潔白であることを示すのが当たり前となり、社会全体、果ては人類全体の利益を求めることが当然の生き方であると考えられていた。
他者の痛み、他者の苦しみ。そんな個人の問題は、取るに足らないものと化していた。

「あなた、いま自分の幸せを考えましたね!」
大臣に向けて議員の一人が声を荒らげた。続けて他の議員が『複写像』を起動し、大臣をフォローして事実を確かめる。
「本当だ!」「ふざけるな!」「社会をなんだと思っている!」
議会のみならず、世界中から批判の声が上がり、大臣を吊るし上げる。
だが当の大臣はマイクに向かうと、驚愕の一言を発した。
「なぜ私が幸せになってはいけないのだ。幸せになった私を、お前らがフォローすればいいだろう」
その一言が、世界に激震を走らせた。

***

きょうも世界は平和です。
かつては、幸福を、社会全体で分配しようとしていました。
でも間違っていたのです。
目指すべきは、
幸福であることを、社会全体で共有することだったのです。
いまは、一握りの人間にだけ資源を注いで、幸せな人生をプロデュースしています。
その他多くの人々は、そのなかから好きな人生を選び、フォローして暮らしています。
全人類は、きょうもあしたも、ずっと幸せです。
アイデンティティ? 公共の福祉?
笑っちゃいますね。


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