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KOUICHI YOSHIOKAさん

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【ボロローン山田】

16/10/18 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:822

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 村民センターの小ホールで開催される「お笑い秋祭り」のトリを飾るのがボロローン山田であった。
 村の出身者で東京のテレビにも出たことのある唯一の有名人が山田だった。テレビといっても深夜のバラエティ番組に三十秒ほど出たにすぎない。
 番組が終わった後、プロデューサーからは「最高だった」と、もみ手をされながらすり寄られたが、山田は馬鹿にされたようにしか思えなかった。それ以降いくらテレビ局から声がかかろうとも山田は出演を拒否し続け今日に至っていた。
 持ちネタは一つだけ。「ボロローンボロボロ」と、叫びながら大の字になり飛び跳ねるだけである。まったくの無表情でそのネタをやるのがウケている理由のようだった。
 何が面白いのかさっぱりわからない。そう思っていたのは山田本人だけであった。子供も若者も大人も老人も誰もが山田の芸に腹を抱えて笑った。
 テレビの放送を誰かが動画サイトにアップロードしたせいで、たった一回の出演で山田の名は誰もが知るところとなっていた。山田の芸を真似して多くの一般人が動画をアップロードした。ある人はアレンジを加え、ある人は服装や顔までも真似ていた。
 高校の文化祭で数十人の生徒がいっせいに真似をした動画や、海外の有名アーティストが格好良く真似した動画など、日に日に動画の種類は増えていっていた。
 山田はマスコミを避け、人々の視線をかわし一日の大半を家に閉じこもっていた。外に出るときは眼鏡をかけ、マスクをし、帽子を被って正体がバレないようにした。
 そもそも山田は他人を笑わせるためにお笑い芸人になったわけではなかった。笑わせたかったのではなく、山田自らが笑いたかったのだ。お笑いの世界に入れば、いつか笑えるのではないか。笑うことにもっとも近い場所がお笑い芸人の世界ではないのか。そう考えてこの世界に飛び込んだのだった。
 山田は笑うことを知らない。笑ったことがない。笑うことは素晴らしいことのように思える。笑ってみたい、笑わせてもらいたい。笑うって何だろう。
 自分を楽しませてどうするんだ。他人を楽しませてこそお笑いだ、とこれまで何度先輩たちに言われてきたことだろう。
 わけがわからない。自分が楽しんだことなんてただの一度だってない、と山田は答えては、先輩たちを怒らせたり、呆れられたりしたものである。
 テレビに出たのは偶然だった。所属事務所の先輩芸人の荷物持ちでスタジオに来ていたときに、トイレに行ってなかなか戻ってこない先輩芸人の待ち時間を埋めるために、プロデューサーから無理やり舞台に押し出されたためだった。
 そのとき咄嗟に溢れて出てしまったパフォーマンスが「ボロローンボロボロ」であった。無意識に、そして無計算に、伸びたゴムが弾けるように飛び出したものだった。
 ボロローンとは、山田の心の状態を表した言葉だった。心がボロボロにすり切れてしまっている、というような意味だ。しかし、誰もボロローンがそんな暗い意味を持っているとは知らなかったし、山田も誰にも伝えていなかった。
 人目を避けていた山田が村の「お笑い秋祭り」に出ようと思ったのは母親の強い願いだったからだ。村に錦を飾ってほしい、母の顔を立ててくれ。そう言われて無下に断れるほど親不孝者ではなかった。
「お笑い」という名がついていても、舞台では村民が順番に出てきて、歌ったり、踊ったり、演舞したりしているだけである。街でいえば公民館で行われる発表会のようなものだ。
 国の予算で建てた立派な村民センターで行われるから「お笑い秋祭り」というような大げさな名前がついているだけなのだ。
 いつもなら村中の人々が小ホールに入っても半分ほどしか客席は埋まらなかったが、どこで聞いてきたのかこの日は満席で、立ち見までいた。カメラを抱えたマスコミの姿もちらほらと見られた。
 宴会会場の演し物のように雑然として演目は進み、山田の出番となった。山田は舞台に上がるとすぐに「ボロローンボロボロ」と無表情に叫んで飛び跳ねた。さすがに三十秒で舞台を下がるわけにも行かず、何度も同じ動作を繰り返し「ボロローンボロボロ」と飛び跳ね続けてみせた。
 山田が跳ねると村民が一斉に「ボロローンボロボロ」と、山田の叫びに合わせて叫んだ。子供たちは笑いながら飛び跳ねていた。
 村民の半分が酔っ払っているとはいえ、あまりに楽しそうに笑いながら叫ぶものだから、その笑い顔が鏡となって山田に写っていた。山田はいま自分の頬が落ちるほどに笑っていることに気づいていなかった。凍るほどの無表情のつもりでいた。
 割れんばかりの拍手と満面の笑みを浴びながら舞台を降りる山田は思うのだった。今日も笑えなかったと。いつになったら笑えるのだろうかと。



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