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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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真の平和をあなたに

16/10/12 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1000

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来賓たちを乗せた乗用車は、山につづく道路にはいる寸前に、反乱軍たちのはげしい攻撃にみまわれた。防弾用の厚さ数センチの鉄板にまもられていたおかけで、一人の負傷者もでなかったが、これから地雷の脅威がまちかまえているとあって、安堵するものは誰もなかった。
「まだ、遠いのですか」
目的地は最初にきいていたミトベが、案内者のデン氏にわざわざたずねたのは、車内の張りつめた空気を少しでもやわらげたいがためだった。
「あとニ時間ほどです」
すると、ミトベの補佐官が、これまた青ざめた顔で、
「それまで我々が無事でいられる保証はあるのでしょうか」
「大丈夫。この車はタイガー戦車に砲撃されても、びくともしませんから」
また古臭いたとえをするものだとミトベは、座席からこちらをふりかえるデン氏をちらとみやった。それにしても我々は、第二次世界大戦最強といわれた戦車なみの攻撃にさらされているというのだろうか。
デン氏の予言は、まもなく車の下でおこった爆発によって、車体が二回転半してもつぶれないことで実現した。
一行の車が再びはしりだすにつれて、前後につらなる武装したSPたちの車から、何本もの自動小銃の銃先がにょきにょきとつきだし、道端に物陰があらわれるたびみさかいなく銃弾を浴びせかけた。
やがて車の前方に、高々とそびえたつ要塞がみえてきた。物々しい軍事兵器や迎撃用ミサイルなどが十重二十重にとりかこむなかを、車は一直線に要塞内に入りこんでいった。
「どうぞ、こちらへ」
車からおりたミトベたちはデン氏によってそれから、いくつものセキュリティによってまもられた通路をとおりぬけていき、さらにそれから地下数十メートルまで降下した。
「まるで、厳重無比な金庫のなかにはいっていくようだ」
また補佐官が無駄口をたたくのを、ミトベは咎めなかった。彼もおなじ考えにとらわれていたところだった。
この国の元首から、ぜひみてもらいたいものがあると自慢げにすすめられ、ここまでやってきたミトベたちだった。世界各国がやっきになっておいもとめ、しかしいまだにどこも手にいれたという話はきいたことがないものが、このさきに我々をまちかまえているのだという。
「最先端の軍事兵器でしょうか」
補佐官がそう推測したのも無理はなかった。ミトベもまた、人間にかわって戦地におもむくロボット軍団を想像した。あるいは、従来の何倍もの威力をひめた核兵器か………。
この国がすでに核ミサイルを所有していて、世界中から脅威の的になっているのを知らないものはない。そこの元首が、建国記念日に招いた来賓に、自信たっぷりにみてもらいたいものがあるというからには、新たに開発した世界中を震撼させる破壊兵器でなくてなんだろう。
なんとなく、胃の腑が不快に痛みだした。くるまえに、胃薬をのんできたらよかった。まさかいまのむわけにもいかず、ミトベはひとしれずため息をもらした。
デン氏が、網膜によるセキュリティチェックによって、まもなく開いた扉の、じつに数メートルに及ぶ厚さには、さすがのミトベたちも圧倒された。
「核爆弾が何発おちても、このなかならだいじょうぶですよ」
そう豪語してデン氏は、これまた分厚い近視用眼鏡の奥で、そのナメクジをほうふつとさせる細い目を、不気味に波打たせた。
とそのとき、警護にあたっていた男がいきなり、銃を乱射しながらミトベたちの間をすりぬけ、開いたままの扉のなかに飛び込んだ。たちまち壁面からいっせいに銃弾が発射し、通路に叩きつけられた男は全身ハチの巣状態になっていた。
「彼も、この通路のさきにあるものをさぐるためにもぐりこんだ某国のスパイでしょう。ご心配なく。ここの防御システムを破れるものなどひとりもいませんよ」
デン氏は顔色ひとつ変えることなくいった。
ミトベは補佐と顔をみあわせた。このさきにあるというものが、スパイとはいえひとひとりの命よりはるかに価値があるとにおわせるデン氏の態度に、なにか底知れない恐怖をおぼえずにはいられなかった。
途中さらに厳重な扉を何度もくぐりぬけたあげく、ようやく最後の扉がミトベたちの前でひらかれた。
「さ、どうぞ」
ミトベは緊張にこわばる面持で、扉のなかに足をふみいれた。
そこは、青畳が敷かれたこじんまりした部屋だった。壁にみえるのは掛け軸らしく、中央には炉がもうけられ―――
「これは………」
当惑に言葉をつまらせるミトベを、デン氏はまた得意げにみつめて、
「お察しのとおりここは、日本の茶室を模してつくられた部屋です。さ、どうぞ、おすわりになって。ふつつかではございますが。このわたくしめが、茶をおたていたしましょう」
デン氏はそして、ゆるがぬ自信を顔にたたえて、こういった。
「なにものにもおかされることのない絶対の平和を、どうぞ、ぞんぶんに満喫していってください」




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