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石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

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定められた人生よりも自分で決める人生故に

16/10/10 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:2件 石蕗亮 閲覧数:1191

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 逝く時は仰向けでお天道様を見ながら堂々としよう。
毒を呷った男はそう思いながら重く感じる我が身を捩るように動かした。
徐々に身体の自由が利かなくなり瞼さえも重くなった。
閉じた瞼越しに紅い視界を感じる。
その紅い世界が急に白く眩しくなってきた。
 あぁ、これが死というものか。
男は畏れることなく自身の最期を受容していた。
「これ、男よ。」
光から声がした。
「お前の最期はこれで良いのか?」
 誰だ?
既に死の間際で声は出ない。
男は意識の中で問うともなく只思った。
しかし声はその思いに応えた。
「我は観世音菩薩である。声に出す必要はない。お前の意思は届いている」
 観音様だと?神が今際の俺に何用なのか。
「想い人に想い届かず、しかも自殺などとは。
お前は信心深く、正直で徳も人並み以上にある。
本来授けられた天寿を全うせずにその生を終えるとは、まっこと勿体ない限りと思うてな。
どうだ。もう一度人生をやり直す気はないか?
あるならばお前の人生の時間を戻してやろう。
ただ、戻すわけではない。
この今の人生の記憶を備えたまま、かの想い人と知り合う前まで時間を戻してやろう。
さすれば叶わぬ想いに心をすり減らすことも、死を決めることもなく、次こそは良き伴侶を見つけることもできよう。
どうか?」
観音の光は優しく暖かく、男を諭すように訊ねた。
男は暫し潜考すると「戻りたい」と願った。
「よろしい。ではお前の身体から毒を抜き、人生の分岐点までお前の身体を過去の世界に戻してやろう。良い人生を歩みなさい。」
観音はそう言うとより強く眩しい光を男に浴びせた。
光が消えた時、男は我が家の寝台で目を覚ました。
毒は消え、身体は通常の状態に戻っていた。
壁掛の暦を見ると紛れもない過去に戻っていた。
思いを巡らし、この後の記憶を探した。
翌日。記憶に沿って1日が終わった。
「本当に過去に戻っている。しかも記憶の通りだ!」
男は大いに喜んだ。

 そして再び同じ人に想いを寄せた。

自分の記憶を基に失敗はしなかった。
誰よりも彼女を想い、彼女の為に尽くした。
今度こそ想いは届き、二人は結ばれた。

 しかし、幸せは束の間。不慮の事故で男はその命を落とした。

前回と同じように柔らかな光に包まれ、男は死を受容した。
「男よ」
再び観音が現れた。
「あの女と結ばれなければお前はもっと長生きできるのだ。
あの女と関わる限り、お前は天寿に逆らい短命となってしまう。
これはお前の天命ではないのだ。
もう一度過去に戻してあげるから、今度こそ本当の幸せを見つけなさい」
観音の光が消える男は前回同様の暦に戻っていた。

 男は嬉々として再び同じ人に想いを寄せ結ばれた。

初めて二人が結ばれた夜。男の夢枕に観音が現れた。
「男よ。何故天命に逆らい寿命を縮めるのか?」
観音の問いに男は答えた。
 「人生を何度やり直そうとも、人生に何度迷おうとも、私自身を振り出しに戻したとしても、私は同じ道を歩き、同じ悩みに迷い、必ず同じ人を探し、求め、出会うだろう」
男の答えに観音は「解せぬ」と顔を顰めた。
 「ほ。神が解せぬとはこれ如何に」
男は神ともあろう者が、と訝し気に問うた。
「人の幸せとは天より与えられた役目をこなし、幸せに『長く』生きることではないのか。お前は確かに今一時は幸せだろう。しかし、天命から外れたが故にそこで命が尽きてしまうのだぞ。こんな短い幸せよりも長い幸せがあることを教えたのに従わぬとは。
まっこと解せぬ話ではないか」
観音の説教に男は首を傾げたが「なるほど」と答えを見出した。
 「天に与えられた使命を全うすることは確かに尊いことなのかもしれない。
しかし、俺はそんな運命の奴隷になって生きるより、自分という存在を活かして満足できれば、後は華々しく散って構わないのだ。
俺の人生は俺のものだ。
今生の俺の人生はこの人と結ばれることなのだ。
これは俺が決めた俺の人生なのだ。
神に否定されようとも俺が自身で決め納得しているから良いのだ。
神よ。何度も俺に人生を与えてくれて有難う。
おかげで俺は3度想いを抱けた。内2度叶えることができた。
これが長続きできないのは残念だが、幸福満足の内に死ねるなら良い人生だ」
そういうと男は観音をまっすぐに見つめ告げた。

 「あぁ、神様。あんたは愛を知らないんだな」

男の放った言葉に観音は更に顔を顰めると「神の愛と人の愛ではこうも違うものなのか」と怪訝な顔をした。
男はそんな観音を見ながら「まだまだですな」と笑った。
観音はやれやれと男の説得を諦め「では人の愛についてお前の考えを教えてもらおうか」と言うと「では次の死後、天上にて」と男は応えた。

残り幾日かの男の余生を観音は天上にて待つことにした。
幾何かの期待を胸に膨らませながら。


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このストーリーに関するコメント

16/10/20 竜造寺

拝読致しました。
神の愛と人の愛の差がタイトルを表しているのだと読後納得させられる内容ですっきりしました。

16/10/29 

拝読致しました。
時間を戻したとしてもそこに生きる人間の意志次第ということなんでしょうね。
神の意志ではない人間の強さを感じる作品でした。

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