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長月五郎さん

執筆歴だけは長いが、それだけ。

性別 男性
将来の夢 葬式は散骨を希望。
座右の銘 雨にも負けず……中略……そういう人に私はなりたい。

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学生街の喫茶店

16/10/10 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 長月五郎 閲覧数:703

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 グーグルのストリートビューでアメリカの街をさ迷っているのにも飽きた頃、不意に母校の大学を思い出した。さっそくクリックを何度か重ねると、パソコン画面に懐かしい風景が映し出された。見覚えのあるビルや店、看板。二十年は優に訪れていないので、全く変わってしまった場所もある。
 画面を進めて行くと、一つの路地が画面の隅に映った。あ、ここは、と思う。学生の頃、友人たちと一緒によく行った喫茶店が奥にあった所だ。店名はオーナーがシャレで付けたとか言われる『学生街の喫茶店』。その名の通り、母校の学生たちでにぎわっていた店だ。
 かなり鮮明に映し出すストリートビューでも、さすがに路地の奥までははっきりと映らない。映らないとなおさら見たくなる。なぜか、いても立ってもいられない不思議な感覚の苛立ちに襲われ、私はすぐに家を飛び出していた。それから三時間半後、新幹線などを乗り継いだ末に、私は夕暮れが迫る母校の街の地に立っていた。
あの路地を見つけ、中に入って行く。緊張しているのか、一瞬くらっとして視界が白くなった。そして……あった! この路地も『学生街の喫茶店』も、昔の記憶そのままの姿で私の目の前にあった。
 中に入った。クラシックが流れる店内は昔のように学生たちでいっぱいで、彼らの声で店中がざわめいていた。
「あっ!」
 私は思わず声を漏らした。店の奥の席で話に熱中しているのは、大学時代の親友の山口、田中、高田の三人。しかも若い。二十数年前の彼らの姿そのまま。
 タイムスリップ。そんなマンガのような、ありえない言葉が私の胸の中でこだました。『なぜ』の言葉を胸に、私は空いていた彼らの横の席にひっそりと座った。こっそりと彼らの様子をうかがう。
 彼らの若々しい声が伝わってくる。同級の女子の話から政治の話へ、そして環境問題へ。話はよどみなく続き、私はただ黙って彼らの声を聞いていた。
やがて友情についての話に移った時だった。友情についてとうとうと持論を展開していた山口が結論めいた言い方で、「俺たちの友情って永遠だよな?」と、田中に同意を求めた。田中がうなずくと、高田にも同意を求めた。そして高田も同意を示すと、急に私に視線を向け、「だろ?」と一言言った。
「え? ……あ、ああ」
 急に指名されて戸惑いながら答える私に、こちらに顔を向けて三人は声を上げて笑った。私の存在にとっくに気付いていたのか。それならば隠れている必要はないと、彼らの席に移ろうと腰を浮かしかけた。だが山口は、こちらには来るな、とでも言うように、手の平をこちらに向けて押し出した。そしてニッと笑った。田中も高田も、優しい目をしてニッと笑った。
 …………。
「あなた、起きて。大変よ」
 妻の声に目が覚めた。「緊急の連絡が入ったの。大学の時のお友達の山口さん、亡くなられたそうよ、交通事故で」
 驚きはしなかった。余りに自然すぎて喫茶店内では思い出すこともしなかったが、高田はガンで、田中は脳内出血でとっくに亡くなっていた。そして今度は山口。
「あいつら、会いに来てくれたんだ」
 私はそっと呟くばかりだった。
 大学時代の仲良し四人組の生き残りは、ついに私一人になってしまった。
 『学生街の喫茶店』は現実にはもう存在しないと思う。でも、私の心の中には、いつまでも生き続けることだろう。山口や田中、そして高田の三人の友人達と共に。
              (了)


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