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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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二個目の氷砂糖は味がない

16/10/10 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:1022

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 映画は覚醒状態で見られる夢だと言う人がいましてね、それならと思いつきました。人間誰しもあの時の失敗をやり直せたらと考えるものです。しかし人間が想像できることは全て実現できるとはいきません。いえ、いくかいかないか未来は果てないものですので、断言することは恥を被らないために避けることにしますが、しかし、どうやら私たちの声のあるうちにタイムマシーンなる時空遊泳のおもちゃはできそうもないですからね。
 銭商売かと言われましたよ、人の切ない琴線を金銭で商うのか、恥を知れと上手な言葉遊びでおちょくられもしました。
 しかし、目に見えないのをいいことに、都合のいい虚構でお金を儲けているのは私ばかりではないですし、私たちは全力でお客様のタイムスリップのお助けをする、お賽銭に紙幣を放って見えない神様にお願いするよりはよほど、地に足の着いた話だと考えます。
 あの日、は誰にもあります。
 その日、をもう一度やり直したい。
 それは悔恨でしょうか、それとも単なるノスタルジーでしょうか、今に対する不満足をあの日に押し付けているだけかもしれませんし、現実逃避の雨傘かもしれません。
 されども、価値というのは対比で生まれるものでは無く、己の中にニョキニョキ生え生じるものです。えぇ、全ては自己満足で良いのですよ。

 過去のほつれ目に捕らわれ絡めとられている方に、ハサミをお貸しします。人生の分かれ目になったあの日をもう一度、あの日に戻ってもう一度、今を生きるために、ヨミガエリ屋へあなたもどうぞ。

 ヨミガエリ屋はプロフェッショナルの集団、お客自身の書いた台本を元にセット、ロケーション、配役で対応する。主演は勿論本人なので、子供時代など年齢的に無理があるとどっちらけ、その場合目を閉じてもらう。音響とプロの役者陣でラジオドラマのように。あの日、自分がやってしまった過ちを、やり直す。
 それが果たせたら、砂の尽きかけた砂時計をひっくり返して今だけに時間を使うことができるはずだ。
 ヨミガエリ屋は繁盛している。
 ヨミガエリ屋ができたせいで、ディズニーのアクター志望者が激減しているという噂を風に聞くほどだ。
 ここで一つ、ヨミガエリ屋を訪れたお客のお話を。

 笑い話になると思ってたんです、ずっとね。
 田代幸一さん五十一歳の話す目には薄い膜が見えた。
 三十過ぎの頃です、同窓会でその話をしました。副担任の椎名先生にも是非謝りたいから次回は参加してもらいたいと、担任の京野先生に言ったんです。
 そうしたらね、亡くなったと聞かされまして、えぇ。どうしてもっと早くと、えぇ、タイミングなんて待ってても来るもんじゃないってあの日、知りました。
 田代さんの後悔が生まれたあの日は小学六年生だったが、今回は視界に自分が含まれないことを理由にロケーションが組まれる。
 
 臨海学校直前の本格トレーニング、縦五十メートルのプールは学校から遠いプールで夏の日差しが強く心地良く、他校と合同で、活発な友人に「他校の友達できた」といらない報告をもらう。
 担任のおばさん先生の水着は花柄で、副担任の若い先生は水着の上にTシャツを着ていた、そのTシャツにカエルのプリントがされていたことも覚えている。
 なるべく顔は上げた状態の平泳ぎで一キロ完泳が目標。できなかった子は置いてくよーと担任は冗談で言ってくれた。
 氷砂糖。
 プールサイドで白髪背広姿の教頭が、何往復目か、大きな声をあげる。先頭を泳ぐ竹中君の帽子の色だけ白で教頭は白帽子の彼がターンする度、「イーッチ、ニーーーーイ」と叫ぶのだった。
 その往復回数四回目と八回目、みんなの口の中に氷砂糖を放り込む係が、あの日のカエルTシャツの副担任椎名先生の仕事で。
 私はあの日、二回目の氷砂糖を口に入れてもらう時、ほんの軽い冗談をしてしまいました。先生の・・・・、先生の指に思いっきり噛みついてやろうって、もう残り二百メートル少し、下手に泳ぎが得意で余裕があったせいもあるかもしれません。
 「イタっ」
 その直後に僕はへらへらとにやける以外のことができずに、泳ぎを続けましたが、先生は明らかに生徒に向けてはいけない表情を見せ、水中に落っことしてしまった氷砂糖の袋を諦め、教頭に予備の氷砂糖を取ってもらい。
 
 あんなことになるなんて、ちょっとした笑いで終わると思ったんです。あの時の椎名先生の表情と、あの日を境に僕への態度が明らかに冷たくなったこと。あの日の私のやらなければよかったことを、やらず一キロ泳ぎ切りたいのです。
 あの日の二個目の氷砂糖は味がしなかったから、そうです、あの味を味わってみたいんですよ。

 あなたにとっての氷砂糖探してみてください、ヨミガエリ屋がお手伝いいたします。
 
 
 


 


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